Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「巨人と玩具」に見るマス・マーケティングの原型

2008-05-28 23:46:35 | Weblog
雑誌『シナリオ』別冊「脚本家 白坂依志夫の世界」があちこちの書店で品切れになっていると聞いていたので,近所の書店で見かけたとき,思わず買ってしまった。そこで暴露されている「女優遍歴」に興味がなかったといえば嘘になる。といっても主に1960年代の話だから,登場する女優ですでに他界されたり消息不明の人が少なくない。団令子,渥美マリといった名前がわかるのは,50代以上の人間だけだろう。

白坂氏の交遊は女優や男優,監督といった映画関係者にとどまらず,当時活躍していた文化人に及ぶ。そこで出てくる名前は,石原慎太郎,伊丹十三,井上ひさし,大江健太郎,三島由紀夫,武満徹などなど…。いろいろなエピソードのなかで意外で面白かったのが,大江健三郎がひどく酔っ払って,白坂氏や伊丹十三と一緒に,深夜田園調布の有馬稲子邸のそばまで行って悪口を叫ぶ話だ。

映画ファンには呆れられるだろうけど,白坂依志夫という脚本家の名前を,この雑誌を読むまで知らなかった。彼が脚本を書いた作品で見た記憶があるのは「野獣死すべし」だけである。といっても,村川透監督,松田優作主演の角川映画ではない。須川栄三監督,仲代達矢主演の1959年の作品。70年代半ば,大阪・梅田で開かれていた「映画サークル協議会」の上映会で,3本立てだったか5本立てだったかで見たのを覚えている。

そんな余裕はないはずなのだが,白坂氏の作品を見たいと思い,TSUTAYAで借りてきたのが増村保造監督「巨人と玩具」(1958年)。原作は,サントリー宣伝部のコピーライターから作家に転じた開高健。製菓会社3社の宣伝部が,キャラメルのキャンペーンをめぐって激しく争う様がユーモラスに描かれている。

巨人と玩具

角川エンタテインメント

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主人公(川口浩)の上司であるやり手宣伝課長(高松英郎)は,無名の若い女(野添ひとみ)をメディアを使ってスターに仕立て上げ,テレビCMを大量に出稿し,魅力的な景品を開発し,街頭でパフォーマンス(ライブ・マーケティング!?)を展開する。日本にマーケティングということばがまだ輸入されていない時代に,すでにマス・マーケティングの原型が確立していた。

この課長が,直属の上司である宣伝部長を会議で罵倒するシーンがある。正確な表現は忘れたが,いまやテレビの時代なのに,その力がわかっていない,という主旨の批判だった。テレビをウェブに置き換えると,いまの時代に当てはまる。いつの時代も,新たなメディアを制することで競争に勝つことを目指すのが野心家の鉄則なのだ。

映画自体は,身も心も犠牲にしてひたすら売上拡大に走る企業社会を揶揄するかたちで終わる。それから50年経って,当時に比べれば洗練されたとはいえ,日本企業やそのマーケティング活動の本質はさほど変わっていないように思う。それでも結果的に多くの人々が豊かになったのだから,そう悪い道ではなかったのではないかという気もするが…。

いや,そうではない。実は当時と大きく変わった(あるいは変わりつつある)ことが確実にあるのだ。このあたりは,緻密に検証していく必要がある。いまここで,安易にできるようなことではない。

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