Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

左と右とダウンズ理論

2008-05-11 23:50:51 | Weblog

久しぶりに研究室に行くと,キャビネの引き出しが出たままになっている。数日前の地震のせいだ。だが,心配された機器類の落下はなかったし,あちこちに積み上げられた本も頑張って崩れずにいた。あとは粛々と仕事をするだけなのだが・・・。

今朝のサンプロに,中曽根康弘,土井たか子,不破哲三の三氏が揃って出演していた。90歳が目前に迫る中曽根氏に加え,土井,不破両氏も70歳代後半だ。みんな堂々の「後期高齢者」であるが元気そのものである。それぞれの主張はよくも悪くも「相変わらず」であり,お互い「相容れない」部分が多い。

しかし,一瞬だが奇妙な意見の一致があった。司会の田原総一郎氏が,最近,資本主義は暴走していると述べたところ,社会主義者である不破,土井両氏は当然としても,首相として国鉄等の民営化を進め,レーガン,サッチャーと並ぶ「新自由主義」者であるはずの中曽根氏まで「市場原理主義」を批判した。その後の小泉政権の「改革」などは行き過ぎということなのだろうか。

保守的な論壇を代表するはずの『文藝春秋』は,これまでも積極的に格差や貧困の問題を取り上げてきた。最新の6月号では「世界同時貧困 中流が墜ちていく」という特集が組まれ,日米中のそれぞれの「貧困」事情が報告されている。序文で佐藤優氏は,「新自由主義」がその原因であると批判している。

ここ10年ほど,「格差」や「不平等」に関する研究がさかんになり,ジャーナリズムもさかんにそれを取り上げてきた。しかし最近では,「貧困」という,相対的というより絶対的な問題に焦点が移っているように思える。若者の間で,小林多喜二の『蟹工船』が読まれているという話もある。それはいずれ「左翼」やマルクス主義の復活につながるのだろうか・・・。

『中央公論』6月号で,熊本県知事になったばかりの蒲島郁夫氏が,政治学者らしく自らの勝因をダウンズのモデルで分析している。この選挙の候補者はすべて保守系なので,ダウンズの理論によれば,最も左よりにポジショニングすることが得票を増加させる。そこで蒲島氏は,自民党の支援は受けたが,正式な推薦は固辞したという。

マーケティング研究者は人生の意思決定に理論を活用しているか?

サンプロで田原氏が紹介していた読売新聞社の世論調査によれば,憲法改正の支持率は90年後半をピークに,最近では下がる傾向にある。どうも日本社会の意見分布は,「左」へ揺り戻しているようである。これはふつうに考えると野党に有利に働くはずだが,熊本知事選のように,自民党がその流れにうまく「乗る」こともあり得る。

世論の流れを読み,ポジショニング(立ち位置)を調整する。選挙という winner-take-all なゲームでは,こうした機会主義が避けられない。そういえば,中曽根氏の仇名の一つに「風見鶏」というものがあった・・・。