Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

心因性の不随意運動をどのように見分けるか?

2007年11月03日 | その他の変性疾患
 突然の舞踏運動を呈する患者さんで,家族歴はなく,基底核の脳梗塞や高血糖,SLE,高リン脂質抗体症候群を認めない時,診断として何を考えるだろうか?可能性として変性疾患(ハンチントン病やDRPLAの)孤発例はありうるだろう.ほかには・・・?「心因性のmovement disorderでも舞踏運動は生じるのだろうか?」ということが話題になったので調べることにした.

 まず心因性のmovement disorderはどのような時に疑うべきか?米国神経学会(AAN)が出版したPsychogenic Movement Disorders: Neurology and Neuropsychiatry (Neurology Reference Series)を読んでみた.ハードカバーで,結構厚みのある立派な本である.初めてAANの学会場でこの本を見かけたとき,「こんなマニアックな本を買うひとがいるのだろうか?もしくは欧米では心因性のmovement disorder症例が多いのか?」と不思議に思った.しかし,その後,心因性movement disorderに関する知識は臨床上,必要だと認識する機会が数回あって購入した.この本は神経内科サイド,そして精神科サイドの双方から心因性movement disorderをとらえる体裁をとっていてなかなか面白い.さて,心因性movement disorderを疑う場合(病歴・臨床像・治療反応性)について抜粋してみる.

A) 病歴
1. 急性発症
2. 非進行性
3. 自然寛解
4. (軽度の)外傷が誘因
5.明らかな精神障害の合併
6. 複数の身体化障害の存在(身体のあちこちに痛みや違和感などがあるもの)
7. 医療従事者
8. 係争中の訴訟をかかえる
9. 二次的な利益の存在
10.若い女性

B) 臨床像
1.一貫性に乏しい症状(頻度,振幅,分布など)
2. 発作性に出現する
3.注意させると増加し,気をそらさせると減少する
4. 非生理的な不随意運動の誘発,消失(トリガーポイントの存在など)
5. 偽の筋力低下の存在
6.偽の感覚障害の存在
7. 自傷行為
8. 意図的な運動遅延
9. 奇妙で,多発する,分類困難な運動異常

C) 治療反応性
1. 適切な治療に対して反応不良
2. 偽薬が有効
3. 精神療法で寛解

 なるほど,と納得できる内容である.つぎに心因性movement disorderの運動の種類はどうだろうか?やはり同じ本の記載によると,振戦が圧倒的に多く,次にジストニアが多い.舞踏運動の頻度はかなり低く,報告によって異なるものの,心因性movement disorderの2-5%という記載だった.舞踏運動のほうが振戦やジストニアより複雑な運動であり,ちょっと簡単には模倣できないこととも関連があるのだろうか.

 さて「マニアックな本」といえば,最近,お気に入りの本があるので紹介したい.Movement Disorder Emergencies: Diagnosis and Treatment (Current Clinical Neurology)である.神経内科領域の救急といえば,脳卒中や脳炎,免疫性疾患(多発性硬化症,ギラン・バレー症候群など)が思いつくかもしれないが,Movement Disorderも忘れては困る,という本である.悪性症候群や急性発症のパーキンソニズム・舞踏運動,MSAの上気道閉塞といった有名なところはもちろんのこと,dystonic storm(DYT1に見られるすごいdystonia),SSRIによるセロトニン症候群,oculogyric crisis,malignant phonic tic,Whipple病の激しいミオクローヌスなど,あまり見る機会の多くないないものまでDVDで見ることができる.ただびっくりするような映像も多いので,ひとりか,神経内科医だけでこっそり見るのが良いだろう.夜中に一人,DVDを食い入るように見ていたら,私のよく知っている麻酔科医に目撃された.変人を見るような眼差しが少しつらかった・・・

Psychogenic Movement Disorders: Neurology and Neuropsychiatry (Neurology Reference Series)

Movement Disorder Emergencies: Diagnosis and Treatment (Current Clinical Neurology)
Comments (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 重症筋無力症に合併する自己... | TOP | 寝ながら暴力をふるう人を探せ! »
最新の画像もっと見る

3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (maru)
2007-12-22 22:06:32
はじめまして。
冒頭の「突然の舞踏運動・・・~調べることにした」とありますが、下のURLの内容を御覧になって、どのように思われるかをお聞きしたいです。
これは高校生の男性が不随意運動の悩み相談をしているYahoo知恵袋です。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1013615565
この男性が言う「自由がきかない」が、運動機能の低下という意味ではなく、力が抜けて全身がクネクネと動く類の舞踏運動だとしたら、心因的と決めつけるよりはハンチントン病の遺伝子検査を進言しますが、いかが思われますか?
返信する
振戦からたどりつきました (なな)
2008-02-09 22:29:14
私の父はパーキンソン病です。
手や足が震えます(振戦と聞きました)
私の父はいつも震える訳ではありません。
振選がひどい時はかわいそうなくらい震えてます。
でも、全くみられない日もあります。
これはどういうことなのですか?
全くみられない日と同じ過ごし方?同じ食べ物?
同じ時間に起きるなどしたら震えないのでしょうか?
それともパーキンソン病ではなく違う病気?難病なのでしょうか?
コメント欄に質問をする不躾をお許しください
返信する
すみません (管理人)
2008-02-12 03:49:06
申し訳ありませんが,個々の患者さんの病状などについて診察なしにコメントするのは間違ったことを記載してしまう恐れがあるため,差し控えております.ただ一般論として,いろいろな可能性があると思われますので,主治医に納得がいくまでお話を伺ってみるのがよろしいかと思います.
返信する

Recent Entries | その他の変性疾患