Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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SCA50 -新たな重要な鑑別診断?発作性の運動失調に要注意-

2023年02月21日 | 脊髄小脳変性症
SCA50と名付けられた常染色体顕性の脊髄小脳変性症が報告されました.私が入局した頃はまだ脊髄小脳失調症2型(SCA2)の遺伝子も未同定でしたので隔世の感があります.また教室のみんなは驚くかもしれませんが,私は大学院生のころ遺伝子解析を行っていて,小出玲爾先生(現自治医大学教授)とともに,のちにSCA17と呼ばれる疾患を発見したことがあります.久しぶりに当時を思い出しました.Hum Mol Genet. 1999;8:2047-53.

それはさておきSCA50ですが,遅発性小脳失調症(late-onset cerebellar ataxia;LOCA)の一つです.LOCAは30歳以降に発症する小脳症候群です.遺伝子解析では75%近くが陰性です.原因として,孤発性ないし自己免疫学性の小脳性運動失調症が含まれることや,標準的な次世代シーケンサーによる解析では,タンデムリピート伸長などの特定の配列変異の同定に限界があることが考えられています.

さて昨年末に,マギル大学とマイアミ大学の研究チームは,フランス系カナダ人の3つのLOCA大家系のうち6人に新たな遺伝子変異を同定しました.それは線維芽細胞成長因子14をコードするFGF14遺伝子(染色体13q33上)の第1イントロンの深部に存在するGAAリピートで,少なくとも250リピートが発症の閾値でした.ちなみにFGF14遺伝子のヘテロ接合点突然変異はSCA27Aの原因遺伝子として知られています.このため本疾患はOMIMではSCA50ではなく,SCA27B(# 620174)として登録されています.

遺伝子変異に関して,250~300リピートは病原性をもつものの(pathogenic)不完全浸透で,300リピート以上で完全浸透となります.また250~300リピートは健常対照でも認めています(図左上).また世代間のリピート数の変化に関して,女性の生殖細胞では伸長し,男性の生殖細胞では短縮することが示されています(図左下).研究チームは,さまざまな人種のコホートでも検討を行い,変異の頻度はフランス系カナダ人LOCAの61%に対し,ドイツ人患者の18%,オーストラリア人患者の15%,インド人患者の10%と異なることを確認しました.結果的に合計128人のSCA50患者を見出しました.



このうち122名について臨床像が検討されました.運動失調は46%の患者において,発症時に発作性(episodic)でした.発作性症状は複視,めまい,構音障害,四肢・体幹失調がさまざまな組み合わせで生じ,数分から数日持続しました.アルコールと運動が誘因です.発症年齢は,発作性症状が55歳(30〜87歳),進行性運動失調が59歳(30〜88歳)でした.下向き眼振は42%,注視方向性水平眼振は55%に認めました.姿勢時振戦は18名,めまいは33名,痙性は9名に認められました.RFC1遺伝子変異を思わせるvestibular areflexiaは5名,軽度の軸索型末梢神経障害は7名に認められました(中核症状ではありませんでした).画像検査では小脳萎縮を74%に認めました.ちなみにRafehiらも28症例を報告し,GAAリピートは270~450,発症年齢は50~77歳(一部40代)で,臨床所見はほぼ同じですが,自律神経障害や難聴が認められました.発症年齢とリピート伸長に逆相関を認めました.

元の文献に戻ると,剖検2例の検索ではプルキンエ細胞の広範な喪失を伴う小脳の萎縮が認められ,虫部で顕著でした(図右).分子層ではグリオーシス,顆粒細胞層では細胞数は減少していました.ヒト小脳とiPSC由来の運動ニューロンでは,FGF14のRNAとタンパク質の発現量が減少していました.つまりイントロンGAAリピート伸長がFGF14の転写を抑制している可能性が示唆されました.著者らは本疾患が一種のchannelopathyである可能性を考えており,発作性症状も説明がつくと推測しています.

おそらく本邦でも孤発性小脳性運動失調症において本疾患が報告されはじめると推測されます.CCAやIDCAと臨床診断される症例では,RFC1遺伝子やFGF14遺伝子を含めた遺伝子変異を行い,さらに既知の自己免疫性小脳性運動失調症をきたす自己抗体の有無を判定するということが今後,求められるようになると思います.現在,つぎつぎに小脳性運動失調症をきたす自己抗体が同定されていますが,遺伝子がどんどん同定された当時を思い起こさせます.

Pellerin D, et al. Deep Intronic FGF14 GAA Repeat Expansion in Late-Onset Cerebellar Ataxia. N Engl J Med. 2023;388:128-141.
Rafehi H, et al. An intronic GAA repeat expansion in FGF14 causes the autosomal-dominant adult-onset ataxia SCA50/ATX-FGF14. Am J Hum Genet. 2023;110:105-119.



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