田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

都市のなかの怪/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-05-16 18:59:26 | Weblog
都市のなかの怪

12

地下通路で前をいく人がきゅうに増えたと感じたことはないだろうか。
周囲に気をくばっていれば、
なにかおかしいと……隣をあるく人に、問い掛けたくなる。
先行者、前との距離は6メートル。
その間にきゅうに人が割りこんでくる。
いままでだれもいなかったのに。
つまり、彼らはふいに出現したのだ。
見ることのできる能力があれば話はべつだ。
壁に漆喰画(フレスコ)のように人体がもりあがり……壁からぬけでる。
そしらぬ顔で雑踏に紛れこむ。

「ね、怪奇現象でしょう」
「おどろいたな」
純はさしておどろいてはいない口調で翔子に応える。
仮想現実の世界に生息する闇の生き物がこちら側に容易にはいりこむ。
PCの電脳空間、
ゲーム、
テレビで日常的に現われていた者が現実の世界でも生きられるようになったのだ。
前をいくブラックスーツの2人連れがふりかえった。
純と翔子は無視した。
なにもしらない。
みていない。
素知らぬ顔で地下道をそれてTデパートにはいった。
「ついてくるわ」
「ぼくらが気づいていることを、アイツラも察知したのだろう」
「やっかいなことになったわ」
「あいつらと戦うことがぼくらの運命かもしれない。
覚悟はできているか、翔子」
「いつでもいいわ、純」
自動ドアが動かない。
キーンと金属音がみみのおくでひびく。
ザワッと殺気が前方からおそってくる。
いつのまに先に廻ったのか。
「来るぞ!! 挟まれた」
翔子は階段の踊り場にはしった。
そこには人影がない。
あそこでなら戦える。
人目に触れずに戦える。


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