田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

妖霧の中のGG/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-02 04:53:05 | Weblog
8

 京浜東北を品川で降りた。山手線に乗り換えて渋谷を目指した。
 大崎をすぎたあたりでGGは気づいた。
「やけに乗客がすくないな。退社ラッシュはとうに過ぎているからといって、これは異常だ」
「ねえ!! 五反田で止まらなかったよ」
 と翔子が憑かれたようにいう。怪奇なことが起きている。
 翔子だけだ。GGのことばに反応したのは。
 いやちがう。翔子も口パクをしているだけかもしれない。
 翔子がいま確かに口にしたらしい言葉もとおのいてしまう。
 なにかおかしい。
 揺らいでいる。ゆれている。
 ズレテいる。地滑りがおきている。
 ねじれている。逆円錐形のトルネードが発生した。
 失楽園だ。堕天使だ。地獄に巻き込まれる。
 現実にゆらぎ、ずれ、ねじれがはじまっている。
 疲れている。刑事の質問に応答した。初動捜査に協力させられた。
 疲れている。爆発さわぎ。
 後になって判明した。副総理のお嬢さん日名子の拉致?
 誘拐? 
 それとも失踪? ……についてまるで訊問のような会話がつづいた。
 警察でも、実体がとらえられないで困っていた。
 この事件の『何のために』という動機がわかっていないみたいだ。
 おれにだってわからない。
 1、何人が(犯人)
 2、何人と共に(共犯者)
 3、何時に(犯行日時)
 4、何処で(場所)
 5、何人に対して(被害者)
 6、何故に(動機)
 7、どうして(犯行手段)
 8、何をしたか(結果)
 刑事から受けた犯罪捜査の『八何の原則』が脳裡に浮かんだ。
 3と4と5と7。
 しかわかっていないではないか。
 それだって、曖昧、不分明なところがある。
 われわれ被害者の側にも、被害をうけた理由がわからないのだ。
 単なる『愉快犯』であるはずがない。
 目黒でも止まらない。
 恵比寿でも。
 いきなり渋谷の道玄坂をのぼっていた。
 むかし『恋文横丁』ここにありき。
 なんだか、頭が、怪しくなっている。
 道玄坂の階段。坂だから階段なんて連想は怪しい。
 それなら怪談くらいにしたら。道玄坂に階段はない。
 これは怪談だ。なにか怪しいことが突発している。
 いや――怪しくなっているのは――おれの頭だ。
 濃霧の中を歩いているようだ。
 妖霧の中にいるような感覚に支配されている……。
「あなた」なんだよ。急にあらたまって。
「あなた……。むかしふたりで通った『ライオン』ですよ」
 そんなバカな。ミイマと会ったのは故郷鹿沼だった。
 名曲喫茶『ライオン』でデートした覚えはない。
 やはりおれは頭が怪しくなっている。
「あなた……」
「GG――」
 GGGGGGGGGGGGGGGG。目覚ましみたいだ。
「いま何時だ、いや、ここはどこだ」
「やっと気づいたのね」
「GG。どうしたの? 悪い夢をみていたみたい」
 と翔子が心配している。
 あどけなく頭を傾げている。
 傾斜しているのは、おれの足もとだ。
 意識がはっきりとしてきた。
 おおお……、とおれは、言葉がすぐにはでない。
 おれはまちがった想念にとりこまれていた。
 おおお。は――数字変換では666なのだ。悪魔の数字だ。
 まちがった想念の行きつく先は……。
 おれは、リバイヤサンの顕現に、ヨハネの黙示録の巨大怪獣の出現に立ち会っているのか。世の天変地異、巨大なる反作用が起きることに直面しているのか。注。詳細は「サタンの思想」を検索してください――作者。
 連続して、起きるという悪魔の所業のあと二つは、偽教団を使って、真実の教えを説かんとする救世の法を迫害すること。そして、人々の心に不信感を広げて、各地に戦争を起こすこと。

 T国との領土問題。検事の不正行為。……悪魔の胎動だ!!!
 不信感が広がっている。それをマスコミが煽る。

 おれは坂の上にたっていた。
 坂の上の雲でなく、坂の上のおれ、だぁ!!!
 おれは、ライオンのまえで固まっていた。
 ライオンの窓のシェイドが赤、みどりに光っていた。
 
注 『八何の原則』については島田一男『捜査本部』を参考にしました。





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