episode7 階段は何段あるの?
1
夜更けです。
午前2時です。
ふつうだったらだれもいない昇降口。
6年生が6人。
階段の下に集まっていました。
学校のお化け階段。
この時間に挑戦すれば――。
正確に何段あるかわかる。
そういう学校怪談のある階段。
怪談と階段。
すこしややこしいですね。
「じゃ、はじめるね」
クラス委員長の中島翔太君。
おびえたような、元気のない声を精一杯はりあげた。
委員長だって、怖いものは怖いのです。
「60段あったよ」
さいしょに三階までのぼったタケシがもどってきました。
「ぼくも60段」
そのあとの金田も同じ。
二階の踊り場までもどってきた博。
三人が60段あったといいます。
たったひとりの女の子、詩織だけは59段。
そのすぐ後から降りてきた伸二も59段だった。
「委員長できまりだな」
三階にたどりついたはずの中島からは、連絡がありません。
「おうい!! 中島……。何段あった」
ピーっと詩織の携帯がなりました。
あたりが静かだったので、5人ともとびあがるほどおどろきました。
「59段だったよ」
詩織はまちがいなくそうききました。
「でも……おかしいな。60段あったような気もするんだ」
「しつかりしてよ。翔太ちゃん。戻りにも数えてみたら」
そういって詩織は携帯をきりました。
大声で数を叫びながら中島が階段を下りてきます。
「22……。あっ」
悲鳴。
「どうした。中島」
5人がいっせいに階段をかけあがりました。
いません。
二階の上の方にいるはずの中島がいません。
階段をダダッと踏みならしてかけつけた5人は――。
ふるえだしました。
真っ青な顔で泣きだしました。
夢中でそとにはしりでた5人の前に――。
パトカーがとまりました。
「明かりが見えると近所住民から通報があった」
5人はがくがくふるえています。
すぐには応えることができませんでした。
「そうだわ。GPS」
けっきょく、GPSをたどって――。
詩織たちがさがしあてた場所は上都賀病院だった。
そこのベットに翔太は収容されていた。
夜も白々とあけかけていた。
「裂け目があるんだよ。あの階段には次元の裂け目があるんだ」
さすが委員長の中島。
むずかしいことを――。
興奮からさめると詩織たちにいった。
「救急の女のひとがぼくをここへつれてきてくれたんだ」
「パトカーだけだよ。それにきみウソいってはいけない。女の救急隊員はこの町にはいない」
2
「あそこはね」
定年まじかだという婦長さんが教えてくれた。
「むかし、美術の女の先生が階段をふみはずし、打ち所が悪くて死んだところなの」
退院する中島を詩織がむかえにきた。
「ぼくは小説家になれない。絵描きになっていた。そして……」
階段の裂け目におちたとき、パノラマ現象を体験したのだという。
中島はあとのことばを濁した。
じぶんのこれからの一生を逆パノラマというか、みてしまったのだろう。
翔太は未来をみてしまったのだ。
詩織にはわかっていた。
中島がいわなかったことばが。
ぼくらは大人になっても結婚していなかった。
わたしたちいとこ同志だから、
翔太のかんがえていることくらいわかっている。
美術の女教師は失われた夢。
死によって中断された夢。
画家になる夢。
を、翔太に託した。
教師の霊が翔太に憑依したのだ。
彼女の夢を翔太がかなえてくれるように、
翔太を改造してしまった。
だから翔太は生きてこの世にもどれたのかもしれない。
翔太はいままでの翔太ではない。
詩織はさびしくそうおもった。
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夜更けです。
午前2時です。
ふつうだったらだれもいない昇降口。
6年生が6人。
階段の下に集まっていました。
学校のお化け階段。
この時間に挑戦すれば――。
正確に何段あるかわかる。
そういう学校怪談のある階段。
怪談と階段。
すこしややこしいですね。
「じゃ、はじめるね」
クラス委員長の中島翔太君。
おびえたような、元気のない声を精一杯はりあげた。
委員長だって、怖いものは怖いのです。
「60段あったよ」
さいしょに三階までのぼったタケシがもどってきました。
「ぼくも60段」
そのあとの金田も同じ。
二階の踊り場までもどってきた博。
三人が60段あったといいます。
たったひとりの女の子、詩織だけは59段。
そのすぐ後から降りてきた伸二も59段だった。
「委員長できまりだな」
三階にたどりついたはずの中島からは、連絡がありません。
「おうい!! 中島……。何段あった」
ピーっと詩織の携帯がなりました。
あたりが静かだったので、5人ともとびあがるほどおどろきました。
「59段だったよ」
詩織はまちがいなくそうききました。
「でも……おかしいな。60段あったような気もするんだ」
「しつかりしてよ。翔太ちゃん。戻りにも数えてみたら」
そういって詩織は携帯をきりました。
大声で数を叫びながら中島が階段を下りてきます。
「22……。あっ」
悲鳴。
「どうした。中島」
5人がいっせいに階段をかけあがりました。
いません。
二階の上の方にいるはずの中島がいません。
階段をダダッと踏みならしてかけつけた5人は――。
ふるえだしました。
真っ青な顔で泣きだしました。
夢中でそとにはしりでた5人の前に――。
パトカーがとまりました。
「明かりが見えると近所住民から通報があった」
5人はがくがくふるえています。
すぐには応えることができませんでした。
「そうだわ。GPS」
けっきょく、GPSをたどって――。
詩織たちがさがしあてた場所は上都賀病院だった。
そこのベットに翔太は収容されていた。
夜も白々とあけかけていた。
「裂け目があるんだよ。あの階段には次元の裂け目があるんだ」
さすが委員長の中島。
むずかしいことを――。
興奮からさめると詩織たちにいった。
「救急の女のひとがぼくをここへつれてきてくれたんだ」
「パトカーだけだよ。それにきみウソいってはいけない。女の救急隊員はこの町にはいない」
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「あそこはね」
定年まじかだという婦長さんが教えてくれた。
「むかし、美術の女の先生が階段をふみはずし、打ち所が悪くて死んだところなの」
退院する中島を詩織がむかえにきた。
「ぼくは小説家になれない。絵描きになっていた。そして……」
階段の裂け目におちたとき、パノラマ現象を体験したのだという。
中島はあとのことばを濁した。
じぶんのこれからの一生を逆パノラマというか、みてしまったのだろう。
翔太は未来をみてしまったのだ。
詩織にはわかっていた。
中島がいわなかったことばが。
ぼくらは大人になっても結婚していなかった。
わたしたちいとこ同志だから、
翔太のかんがえていることくらいわかっている。
美術の女教師は失われた夢。
死によって中断された夢。
画家になる夢。
を、翔太に託した。
教師の霊が翔太に憑依したのだ。
彼女の夢を翔太がかなえてくれるように、
翔太を改造してしまった。
だから翔太は生きてこの世にもどれたのかもしれない。
翔太はいままでの翔太ではない。
詩織はさびしくそうおもった。
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