田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

バラの根元には 麻屋与志夫

2021-05-26 05:55:37 | 超短編小説
超短編小説 21 第二稿
 バラの根元には。

 いよいよ蔓バラが咲きだした。庭はバラのドームにおおわれている。
 バラのいい匂いが庭にはみちている。
 アイスバーク。
 シティオブヨーク。
 モッコウバラの黄色と白の競演。
 ブルームーン。
 アンジラ。
 アドレス帳を見て――。
 春馬は元カノのRに携帯をした。
「白いバラがきれいに咲いているよ」
 アイスバークの花言葉は、初恋なのだ。
 そういおうとしたが彼女がこころを乱してはと、やめた。
 いまさら、なにをRに伝えようとしているのだ。
 すこし、ただなんとなく話がしたかっただけだ。
「ゴガツデスモノネ」
 そっけない返事。
 アイスバークのように清楚な彼女はどこにきえてしまったのだ。
 それで、話はとぎれてしまった。
 春馬が携帯を切ろうとすると、ほっとしたような気配がつたわってきた。
 
 春馬は元カノのOに携帯をいれた。

 スパイシーな匂いをかいでいるうちにキミを思いだした。
 なにかエロチックなことをいっている。
 そうきこえては、迷惑だろうとおもった。
「子どもを幼稚園にむかえにいかなければ。電話してくれてありがとうね」
 やさしい返事がもどってきた。もっと話をしていたかったのだが……。
 そうか彼女もいまは、子持ちなのだ。彼女に似てかわいい子だろうな。
 どんな男と結婚したのだろう。
 結婚案内はもらった。
 出席はしなかった。
 会場は〈明治記念館〉だったろうか。

 春馬は元カノのSに携帯した。
「バラがきれいに咲いている」
 バラの花びらのしっとりとした湿り気。
 彼女の肌の感触を思いだした。
 だれも母が自慢のバラ園をみにきてくれるものはいない。

 Eに電話した。妻の永華にだ。

 彼女の職場に携帯を入れようとした。
 妻が職場の男性にでんわしているのは気づいていた。
 職場の男子職員のひとりひとりに嫉妬していると思われる。
 妻は警察に事務職員として務めている。
 こっそりと、ものかげで、電話しているのは知っていた。
 問いただしても、返事しない。
 こんなに意固地な女だとはおもってもみなかった。
 
 おれにガールフレンドができ、遊びにきたときには――。
 母は庭仕事を手伝ってもらった。
「バラの世話をしているのを見ると、その子の性格がよくわかるのよ」
 バラに愛情をかんじるような娘さんがいいのよ。なんにんも落第。
 反対された。支配者の母がやっとたどりついたおきにいりは。
 E子。
 永華。
 いまの春馬の妻だ。
 たが、結婚してみると、母の期待はみごとに裏切られた。
 妻は家庭にはいることはしなかった。
 したがって、バラの世話は年老いた母の負担。
 広すぎる庭だ。五百坪もある。
 母はじぶんに見る目がなかったと落胆した。
 バラの世話。わかいときは軽くこなしていた園芸の仕事。過負担となった。

「わたしはバラの世話をするために結婚したのではないわ。職場が生きがいなのよ」
 
 母が倒れても、妻は庭仕事をしなかった。
 しかたなく、春馬が画業の時間を削って庭にでた。
「わたしはバラと結婚したわけじゃないわ」
 
 母は過労で心筋梗塞。バラの庭で倒れていた。
 
 さすがに春馬ははらがたった。妻をなぐった。
 快感。スっとストレスが、妻に対する不満が霧が晴れるように消えた。
 それが習慣となった。事あるごとに妻に暴力をふるった。
 母が生きているうちに、こうすればよかったのだ。
 ごめんな。お母さん。

 永華に電話した。妻の永華にだ。
 
 ところが携帯を切る前に聞こえてきた。
 彼女の携帯の着信音。
 
 ふいに門扉がひらいた。そこに老人。
 顔見知りの妻の職場の刑事。
 なんどか来宅したことがある。
 いまは嘱託として職場に残っているという老刑事。

「春馬君。なんてことをしたのだ。永華くんから、なんども電話でそうだんされた。あんたのDVがひましにひどくなると……」
 シテイオブヨークの根元から。
 彼女の電話の着信音。
 きかれてしまった。
 
 刑事は錆びたスコップを道具置き場からもちだしてバラの根元を掘りはじめた。



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