田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-12 14:33:56 | Weblog
5月12日 月曜日
吸血鬼/浜辺の少女 36 (小説)
倒されたRFは溶けて粘液となる。 
皐、刺す木で射ぬかれると溶けてしまう。
真正吸血鬼であっても再生できない。
緑の粘液の海からは、怨嗟の声がする。
ギシュギシユと恨みの声が渦巻いている。
「円陣を組め」
幻無斎の声が響き渡る。
弓の矢はつきようとしていた。
半弓を持ったものたちを中心にすえた。
剣をもったものが外側を固めた。
吸血鬼とそのRFがジリジリと迫ってくる! 
「夏子」
隼人が夏子と鹿未来の前にかけよった。
剣を得意の地ずりのにかまえる。
「斬りこむのは待って。これ以上の殺傷はごめんだわ。犠牲がおおすぎる。鹿人どこにいるの? ……わたしが説得する」
と鹿未来がいう。
「お母さん、試したいことがある。協力して。隼人、母とわたしの髪をギターの弦にみたてて、刀のミネで弾いてみて」
ふたりの髪がねじり合された。ふとい髪の弦が即座にできあがった。
ギターよりハープにちかい。
隼人は黒髪の弦を剣のミネで弾く。
可聴ぎりぎりの……しかし妙なる音が流れだした。
闘争本能むきだしであったRFの動きがみだれた。
糸の切れたマリアネットのようにギクシャクした。
「効果ありね。もっとつづけて」
鹿人がRFの群れ背後で実体化した。人型はとれず、吸血鬼のままの顔がひきつっている。
「夏子。どこでこんな技を?……」
「欧米のあらゆる芸術かとの心の交歓を一世紀にわたって経験してきたわ。わたしの心に蓄えられた彼らの芸術に捧げた心、美神への賛美の心の叫びは、あなたたちに苦痛を与えるのね。あなたたちの邪心を浄化してあげたいの。お兄さま、争いは、やめて」
「そんなバカな」
隼人は人気絶頂の葉加瀬太郎の気分になっていた。
肩をゆすってメロデーにのる。
鹿人とそのRFにむけて、黒髪の弦から音をたたきつけた。
「やめろ」
「やめてくれ」
「くるしい」
「くるしいぞ」
暗雲のように道場を満たしていたコウモリが逃げていく。
血吸鬼の姿が薄らいでいく。
吸血鬼の気配が消えていく。
夏子が泣いていた。
……どうしてこうも争うの。
鹿人はなにを考えているの。
この世を支配するだなんて。
どうやって? 
なにを考えているのかしら。

14

美術室にはすでに部員がいた。
隼人はムンクの複製画「浜辺の少女」の前に立っていた。

作者。この作品の姉妹作をブログ「麻屋与志夫/小説 吸血鬼ハンター美少女彩音」に発表しています。そちらもご愛読ください。このブログのブックマークをクリックしてください。


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