田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

お母さん!! 吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-11 11:04:55 | Weblog
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悪意をもったものが、その存在を示したいのだろうね。
というのが文美の反応だった。
その文美の言葉は、さらに彩音を不安にした。
(わたしが、見えていなかったものが、見えるようになったからかしら。険悪な気配を体感できるようになったからだ。なにものかが密やかにわたしたちを見張っている)
彩音は寝付かれなかった。
「わたしたちが、いままで生きてきた鹿沼ではないみたい」
彩音は演劇祭で主演した劇の『黒髪颪の吹く街で』のセリフを思い出していた。
バサッと窓ガラスになにかぶち当たった。
月の光が冷やかに窓を照らしていた。
彩音は二階の寝床でおそるおそる起き上がった。
深夜だ。
窓をなにかがかさかさこすっている。
窓があまりに広いのですぐには気づかなかった。
その上部にコウモリがへばりついていた。
眼が不気味に赤く光っている。
声を上げたいのを必死でこらえた。
その目をにらみつけた。
コウモリがギーと鳴いた。
尖った歯を剥いている。
その夜、彩音は夢を見た。
彩音は巡礼の旅をしていた。
女巡礼になっていた。
だが、それは、寺をまわる巡礼などでなかった。
母を訪ねる巡礼だった。
ただ、生きているよ。
……とだけ文美からいわれている。
……まだ会ったことのない。
母を探して。
旅をしていた。
「彩音のお母さんとお父さんはどこにいるの」
ヨチヨチ歩きができるようになった。
言葉もかたことだが、話せるようになった。
はじめて彩音が悲しみを表したのがその言葉だった。
オバアチヤンの文美も悲しそうな顔をした。
悲しそうでいまにも泣きだしそうな表情だった。
彩音はその顔を見ると、さきに泣きだしてしまった。
舞踊の稽古があまりにきついときは、母にあまえたかった。
そんなときは、彩音は「お母さんは……」といつもおなじ質問を問いかけた。
そして文美が応える。
「生きてるよ」
イキテルヨ。
イキテルヨ。
木霊となってひびく。
その声にさそわれた。
彩音は歩きつづけた。
雪が降っていた。
彩音はいつしか、序の舞『鹿入り巡礼』を舞っていた。
ここは那須野が原、那須野が原の外れ、鹿沼の里といわれてるぅぅぅぅ。
謡が耳の底からわきあがってきた。
渋く低い声だ。
それがなぜか父の声に思われる。
夢だからしかたがないことだが、巡礼は母になっている。
彩音の心はその母と一体となって、雪の原をさまよっている。
「お母さん。お母さん」
呼びかけても返事はない。

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