田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女

2008-05-02 03:23:01 | Weblog
5月2日 金曜日
吸血鬼/浜辺の少女 24 (小説)
 おれに絵を描くパワーをあたえてくれた夏子がこの先にいる。
 おれを待っている。
 隼人、あんたは絵を描く才能なんかない。下手だ。どうして運動やってるヤツが美術部なんかにいるんだ。剣道オタクの隼人がどうして絵を描くのよ。と川島信孝にこっぴどくいわれてきた。やめたら。才能のない隼人が美術部にいるとウザイんだよ。
「ちがうんだ。絵を描くのが好きだった。剣道をやっているぼくが絵を描くのではない。絵を描いていた少年がたまたま祖父の家に預けられた。その祖父が死可沼流の師範だった。絵の好きなぼくが剣道にものめりこむことになった」
 なにをいってもむだだった。
 作品はいつも酷評をもってむかえられた。
 悲しかった。くやしかった。
 ひととかかわりあいのない、静物ばかりをそれで、モチーフとしてきた。いっそ、美術部をやめようと悩んでいた。
 ところが、いまはちがう。
 夏子との心の交流でムンクの悩みをしった。ムンクの深い人間的な悩みにくらべたら、おれの悩みなどなにほどのことがある。
 ところが、いまはちがう。
 人物を描くことができる。
 おれの悩みをモデルにそそぎこむことができる。
 その悩みを絵にできる。
 ましてモデルはムンクのモデル。
 夏子。
 愛する夏子。
 大好きな夏子だ。
 その夏子がこの先にいる。はじめておれの絵の才能をみとめてくれた。
 ほめてくれた。
 やさしい夏子か待っている。
 夏子との心の交歓で芸術家としての精神に目覚めた。心が高揚した。そんな心で絵を描くことがどんなにやりがいのあることか、わかった。
 かってないほど生きるよろこびにふるえている。
 恐怖がさった。
 描いてみせる。
 この秋の展覧会には出品する。
 描いてやる。描く。描き切ってみせる。
 モデルは夏子だ。
 いい絵が描けないはずがない。

10
 道が分岐している。
 曲がったとたんに衝撃波をたたきつけられた。
 波のなかに恐怖のイメージがあった。
 山羊の角と髭。吸血鬼だ。でも絵を描く使命に目覚めた隼人には怖いものはない。
 長く伸びた犬歯。鋭い剣のような歯が喉にくいこんでくる。怖くない。
 喉に噛みついてくる。怖くない。
 血を吸われる。怖くない。
 首をくいちぎられる。鮮血の海。吸血鬼の巨大なアギトか迫る。怖くない。
 絵をかくよろこびが覚醒したおれにはもう怖いものはない。
 隼人はそれらのいままでであったら恐怖におそわれたイメージをもろともせず、突き進んだ。
 さらなる衝撃波がきた。
 隼人の存在そのものが、肉体が木端微塵となってふきとばされる。
 それでもさきに進む。
「お見事です。さすが姫が選んだかた。始祖の直系のかたのみ入ることを許された墓地の墓守りです。リリスともうします。どうぞお通りください。カミラ姫があちらにおいでです」


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