OK元学芸員のこだわりデータファイル

最近の旅行記録とともに、以前訪れた場所の写真などを紹介し、見つけた面白いもの・鉄道・化石などについて記します。

古脊椎動物学の活用

2017年02月19日 | 化石
古脊椎動物学の活用

 ちょっと古い話。県内の某警察署から自宅に電話がかかってきた。「骨の鑑定をお願いできるか?」とのこと。メールで写真を送ってもらったが、今一つ分らないので、出向くことにした。「お迎えに行きましょうか?」とのことだったが、パトカーで自宅に来られても世間の眼が、と断って向かった。
 骨は、ある方が最近購入した中古車のトランクルームに落ちていたという。事件になっても困るので、警察に連絡してきたとのこと。警察では、当初お医者さんに、次いでペットショップに依頼したがいずれも分らないとのことだったそうだ。それはそうだろう。骨になった動物(や人間)を扱うことはなさそうだ。そこで、博物館に聞いて私のところに聞いてこられた。
 駅まで迎えに来てもらって(パトカーではありませんでした)庁舎に行くと、骨が用意してあって、大勢が寄ってきている。6センチほどの四肢骨の断片で、結合組織が干からびて付いている。一見して偶蹄類、とくにシカの大腿骨の近位端(骨盤との関節の付近)と考えて、そのように伝えた。さらに、「骨を割っていて、焼き痕が無いから、狩猟をする人が解体して運搬したのではないか。」と推理しておいた。解体するなら、大腿の付け根は切る所であろう。


骨 外側(上)と内側(下) 2012年6月

 翌日警察署から電話があって、「中古車のもとの持主が分りました。猟友会の会員だそうです。」とのこと。推理は完全に当っていた。部分的な骨の鑑定ができる古脊椎動物学の勝利?であろう。いずれにしてもヒトの骨でなくて良かった。新旧の車の持主も中古車屋さんも、そして警察もほっとしたことだろう。古脊椎動物学も直接に社会の役に立つことがあるのだ。
 後にその警察署から、数回骨の鑑定依頼が来た。牛の歯だったり犬の埋葬骨だったり…。さいわい警察からの依頼では人骨に当ったことはない。