写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

ホタル再会

2012年06月11日 | 季節・自然・植物

 最近は週の内4、5日は夕方の散歩に出かけている。距離は往復約3km。長い距離ではないが、早足で歩くと中間点当たりでは汗ばんでくる。私にとっては、丁度よい運動量だと思っている。

 昨夕も、いつもの通り家を出た。駅の方に向かって国道から離れた山沿いの小道を歩く。ほんの2、3分歩いたところで、平家山から流れてくる幅2mばかりの小川に出る。近くに住んでいる奥さんが孫の手を引き川をのぞき込んでいた。その時、昔見た懐かしい光景を思い出して聞いてみた。

 「この川には、昔ホタルが出ていましたよねぇ」と言うと、意外にも「いえいえ、最近また出るようになりましたよ。1週間ばかり前から30匹くらいが、あの葉が茂った辺りに出ますよ」と言って、やや上流の川面に木が覆いかぶさり、茂って薄暗くなっている辺りを指差す。

 おおっ、今時こんな近くでホタルが舞っているなんて。思い起こせば、この川でホタルを見た記憶といえば、あれは子供のころか。上流に沿って、古い家が数軒しかなかったころである。その後、新しい家が何軒も建つにつれ、ホタルは姿を消した。その家々も世代が変わり、今は高齢者が多い家庭となっている。

 そんな生活環境の移り変わりが、ホタルにとっては住みよい環境となったのか。確かにせせらぐ水は見た目はきれいで、底の方にはカワニナもたくさんいる。川筋も汚れてはいない。住民も汚さないように気を配ってもいるのかもしれない。すっかり暗くなった夜8時、改めてホタルを見に出かけて見た。ほど良い間隔を保ちながら数十匹が、ここかしこでゆっくりと舞っている。昔遊んだこの川で、数十年ぶりに見るホタルであった。

 このホタル達、途絶えたと思っていた長い年月、どこでどうしていたのだろうか。1匹1匹が愛おしく、久しぶりにご先祖にあったような気持ちになった。うんと昔、我が家の側にある溝のような川にもホタルがいた。時代は進み、得たものは多かったが失なわれていったものも多い。ホタルのように失われていったものは、そのものがなくなっていったばかりか、懐かしい思いでさえも奪い去っていたことに気が付いた。