写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

白壁と川のある町

2007年02月21日 | 旅・スポット・行事
 会社の先輩と私との3組の夫婦で、早春の大島へ1泊2日の温泉旅行に行った。遅くまで飲んで食べて歌った翌日は、前日までと打って変わっての快晴となった。

 ゆっくりとした朝食を終え、タウン情報で知っていた柳井の町へ向かった。2月15日から3月31日まで「ひなめぐり」という行事が開催されている。

 パンフレットに「おひなさまを見ながら、今と昔をおさんぽしましょ」と書いてある。

 室町時代からの町割が今も生きていて、約200mにわたり江戸時代の商家の町並みが続いている白壁通りでは、今と昔のおひなさまを22ヶ所で展示している。

 月曜日のお昼前、我々6人以外、通りを歩く人は誰もいない。1軒づつ、ゆっくりと丁寧に内裏様の顔を眺めて歩いた。

 一通り見物したあと、人ひとりがやっと通れるくらいの狭い路地を抜けて駐車場に向かっていた時、原稿用紙に似せた大きな板に白い文字で何かが書いてあるのを見つけた。

 「 ー松本清張が見た 柳井の風景ー
 珍しい町の風景だ。近年、こういう古めかしい場所がだんだん少なくなっている。世に有名なのは、伊豆の下田と備中の倉敷だが、ここにもそれに負けないような土蔵造りの家が並んでいる。

 歩いている人間も静かなものだし、店の暗い奥に座っている商人の姿も、まるで明治時代からその習慣を受けついでいるような格好であった。横町を歩くと川に出た。川面には向かい側の白壁が逆さまに映り、民芸風になっていた。
  『果実のない森』から  ”白壁と川のある街”より」
 
 この柳井の街に、あの松本清張が来たことがあったのを知った。近くに住んでいても、この街の良さを知らない人は結構いそうだ。

 私の住んでいる岩国も古い町並みがあったのに、残念ながら柳井の街ほどきれいに保存されていない。

 何がその差を生んだのか、今からでもまだ遅くはないと思いながら、手の行き届いた静かな佇まいの白壁の町を離れた。