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『病の神様』(読書メモ)

横尾忠則『病の神様:横尾忠則の超・病気克服術』文春文庫

美術家の横尾忠則氏は、常にどこか身体の調子が悪いらしい。

「日替わりメニューとか日替わり出勤という言葉があるが、ぼくには日替わり病気という名の病がつきまとっているように思う。朝、目が覚めるとどこかしら悪い。頭が痛んだり、喉が変だったり、胃の具合が悪かったり、睡眠不足だったりと、五体そろって健全、言うことなしなんていう日はあまりない。」

しかし、横尾さんは、悲観していない。病気をポジティブに受け止めている。例えば、過去50年間、10年に一度必ず事故に遭っていることについて、次のように解釈している。

「どの事故も完治するまでには時間がかかるので、その間じっくり自分を見直す時間が作れたのだ。でなきゃそのまま突っ走って自分を見失ってしまったか、それとも多忙のために死に至る大病を患っていたかもしれない。そう思うと、この十年に一度の区切りがぼくを救ってくれたといっていいように思う。」

以下のコメントは、横尾さんの病気観である。

「病気はもしかしたら一時人間を弱くするために神が下した愛といってもいいような気がする。」

「われわれは病気を悪魔のように考えているが、場合によっては神と呼ばれたって不思議でないご利益だってあったのではないだろうか。「病気にしていただいてありがとうございました」と感謝こそしないものの、病気は神が本人に気づかれないようにしてソーッと差し出した贈り物だったりするような気がする。」

ただ、横尾さんは心配症で、何かあるとすぐに病院にかけこみ、入院してしまう。旅行先や海外の仕事中に具合が悪くなるが、「マロンクレープを食べれば治るかもしれない」とか「ぜんざいを食べたい」という直感が働き、食べたら本当に治ってしまったりする。

本書を読んで、横尾さんは本当に自由に生きている人だなと感じた。子供のように素直な人だと思う。解説を書いている南木さんが紹介している次のエピソードが心に残った。

「神戸から上京し、一流のデザイン会社に就職し、そこで、ある日、外出から帰ってみると、みんながおはぎを食べ終えたと思われるあんこの付いた皿が目に入った。おはぎが大好物な横尾さんは、どうしてぼくのぶんを残しておいてくれなかったのだ、と哀しくなり、号泣してしまう。あっけにとられた顔の周囲のひとたち」

これだけ純粋な心を持っているがゆえに、世界レベルの芸術を生み出すことができるのだろう。横尾さんは、純粋な気持ちで作品を生み出すと同時に、自分自身を振り返ることができる人である。自分の身に起こることを、素直な気持ちで見るとき、その意味を理解することができるのかもしれない。
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