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『そうか、もう君はいないのか』(読書メモ)

大学生のころ、城山三郎さんの「男子の本懐」「毎日が日曜日」を読んだが、とても面白かったのを覚えている。中学生のときは、大河ドラマの「黄金の日々」が流行っていた。

その城山さんは、2000年に奥様である容子さんを亡くした。そして、ご本人も昨年79歳で他界している。容子さんのことを綴ったメモや原稿を、編集者の方がまとめたものが本書である。

城山三郎著『そうか、もう君はいないのか』(新潮社)

まず、題名がすごい。このタイトルを見ただけで、城山さんの奥様に対する愛情が伝わってくる。

本書は、容子さんとの出会い、文壇にデビューしたときのこと、容子さんとの海外旅行の思い出、そして容子さんの発病と死について書かれたものである。淡々と思い出が綴られているのだが、「人間、城山三郎」がじわっと伝わってくる。

次女紀子さんによれば、奥さんが亡くなってからの城山さんは、抜け殻のようになってしまったという。眠れず、食べられないため、赤ワインのみで命をつないでいたらしい。

城山さんは容子さんと一体となって、小説を書いてきたのだろう。

城山さんは次のように語っている。

「容子がいなくなってしまった状態に、私はうまく慣れることができない。ふと、容子に話しかけようとして、われに返り「そうか、もう君はいないのか」と、なおも容子に話しかけようとする。」

ただし、本書に暗さはない。容子さんとの楽しい日々が、自然体で語られている。城山さんがとても幸せな人生を送ってきたことがわかる。

なお、個人的にウケたのが、ペンネームの由来。城山という所に三月に引っ越したから「城山三郎」にしたらしい。

若い頃に空手を習っていて、庭につるしたサンドバックを突きまくっていた、というのも意外だった。

容子さんと出会ったとき「天から妖精が落ちてきた感じ」と表現していたのにも驚いた。城山さんにとって容子さんは、ずっと妖精だったのだ。

どうでもいいところにばかり目がいってしまったが、夫婦関係と仕事について、とても考えさせれた一冊であった。
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