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『タイムマシン』(読書メモ)

ウェルズ(池央耿訳)『タイムマシン』光文社

タイムマシンを使って80万年の未来を旅してきたタイム・トラベラー。彼が見たものは、発展した文明ではなく、モーロックとイーロイという二つの種族から成る退化した社会であった。

1895年に書かれた本書は、預言的な性格をもった小説である。

「均衡を達成した文明社会はとうに絶頂期を過ぎて、今や急な下りにかかっている。ほぼ絶対の安全が約束されているばかりに、地上人種はゆっくりと退化の道をたどっているのだな。だんだん小柄になって、体力も知力も衰える一方だ。これはもう、一目でわかることだった。地底人種がどんな様子か、この時はまだ考えてみもしなかったっけ。ただ、ちらりと見た限り、モーロック人の変容ぶりはイーロイ人よりもなおいっそう顕著だったと思う。ああ、言い忘れたが、モーロックは地底の半人半獣、イーロイはすでによく知っている可愛らしげな地上人種だ」(p.88-89)

初め読んだときには悲観的な小説だと思ったが、よく考えると、その頃まで人類が存在しているという想定は楽観的といえるかもしれない。

本書を読みながら、「物事というものは、進歩、変革、そういうことが原因して、破滅に達するんだ」という色川武大さんの言葉を思い出した。



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