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『日本の美を求めて』(読書メモ)

東山魁夷『日本の美を求めて』講談社学術文庫

日本画の巨匠である東山魁夷氏による、エッセイ&講演録である。謙虚で控えめなお人柄が伝わってくる。

最も印象的だったのは、次の箇所。

「人は意志するところに行為がある、といわれます。これはいうまでもないことのようですが、しかし、はたしてそうでしょうか。意志するということは、自己という主体から発するものか、あるいは自己の外に発するものが自己に伝わって、自己の意志するように導いてくれるものか。自己を無にするばあいに、はじめて自分の外から発する真実の声が聞こえるのではないか。その真実の声に合致した行動がとれるのではないか」(p.59)

「道」に代表される風景の絵は、自分の意志で描いたというよりも、「真実の声」に導かれて描いたということなのだろうか。

「平凡な風景、平凡な自然の風景を、生命自体の輝きと見、その輝きを宿すものと見たのは、じつは、戦争のために、絵を描くことはおろか、生きる望みさえ失ったその瞬間でありました。私は、そのときの心がもっとも純粋であったと、のちに気がついたのであります。自我の欲から解放されて、そういう状態になったと思われるのです」(p.60)

逆に言うと、自我が残っているうちは、良い絵が描けないということだろう。

欲から解放されて、導かれるに任せるとき、自分らしい仕事ができるのかもしれない。



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