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『福翁自伝』(読書メモ)

福沢諭吉(土橋俊一・校訂校注)『福翁自伝』講談社学術文庫

慶應義塾の創始者である福沢諭吉の自伝である。自由な語りを文書におこしたものなので、臨場感にあふれている。

この本を読んで感じた諭吉の印象は「肩の力が抜けた自由人」という点。

幕末に下級武士の次男として生まれた諭吉は、長崎、大阪、江戸で蘭学・英学を学ぶとともに、欧米諸国も訪問し、日本に欧米の思想を紹介するという重要な役割を担う。明治政府では当然、高官になるチャンスがあった諭吉だが、それを断る

「なかんずく私がマンザラの馬鹿でもなく政治の事もずいぶん知っていながら、遂に政府の役人にならぬというはおかしい、日本社会の十人は十人、百人は百人、みな立身出世を求めて役人にこそなりたがるところに、福沢が一人これをいやがるのは不審だと、陰でひそかに評論するばかりではない、現に直接に私に向かって質問する者もある」(p.317)

では、なぜ諭吉は役人になりたがらなかったのか?

「既に政府が貴いといえば政府に入る人も自然に貴くなる、貴くなれば自然に威張るようになる、その威張はすなわち殻威張で、誠によろしくないと知りながら、何もかも自然の勢いで、役人の仲間になればいつの間にか共に殻威張をやるように成り行く。しかのみならず、自分より下に向かって威張れば上に向かっては威張られる。鼬(いたち)ごっこ鼠ごっこ、実に馬鹿らしくて面白くない」(p.319-320)

諭吉に一貫して見られる姿勢は、「権力におもねらず、超然としている」ところ。翻訳・著作を通して社会を啓蒙し、慶應義塾にて生徒を教えることに情熱を燃やしていたようだ。

自分の生き方を貫いた諭吉の人生に魅力を感じた。

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