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ラーニング・ラボ

松尾睦のブログです。書籍、映画ならびに聖書の言葉などについて書いています。

美点凝視

2016年08月01日 | 組織・職場の学習
人を育成する際には、その人の行動をしっかりと見る必要があるといわれている。先日、企業のマネジャーさんと食事をしていたときに、興味深い話を聞いた。

その会社では、部下を観察するときに「美点凝視」を重視しているという。

「美点凝視」とは、部下の良いところを見るということだ。この言葉はとても印象に残るし、大事な考え方である。

ちなみに、悪いところは自然と目に入ってくるので、特に注意する必要はないとのこと。そう言われてみると、他人の悪いところばかり見てしまっていることに気づいた。

これからは、美点凝視を心がけたいと思った。

基層的文化

2016年04月20日 | 組織・職場の学習
内山節さんは『文明の災禍』(新潮社)のなかで、現代文明の見直しが必要であるとしている。しかし、それは簡単なことではない、とも言う。

「本書のはじめに述べたように、それはそう簡単なことではない。なぜならみなおそうとする私たち自身が現代文明のなかにいるからである。現代文明を外からみなおそうとする私たち自身が現代文明のなかにいるからである。現代文明を外からみることができるなら、その問題点も明確にとらえられるかもしれない。だが、私たちは現代文明の内部にいるし、現代文明との関係をもちながら暮らしているのである。その人間が自分たちの生きる世界をとらえなおし、変更させるのは容易なことではない」(p.155-156)

クリス・アージリスという経営学者は、自分や自組織の前提・枠組みを問い直すことを「ダブルループ・ラーニング」と呼んだが、現代文明の見直しとは、まさに我々にとってダブルループ・ラーニングである。しかし、経営組織論においても「ダブルループ・ラーニングを実行することは難しい」といわれている。

では、どうしたらよいのか?

内山さんは「基層的文化に注目せよ」と言う。

「伝統的な日本の信仰、それは自然に神をみいだしたり、神と仏を分けることなく手を合わせる思いや祖霊信仰だったりするのだが、この信仰も現代文明が主導権を握った時代のなかでも完全に消え去ることはなかった。これらのことは、近代化のすすんだ日本の社会のなかにおいても、伝統社会から受け継いだ精神や文化が、基層的精神、基層文化として社会の奥に存在しつづけていたことを示しているのである」(p.157-158)

われわれの心の奥にある、この基層的文化の中に、現代文明を見直すヒントがあるということだろう。

個人、集団、組織のあり方を見直すときにも、われわれの「基層的価値観」に着目すべきではないかと感じた。






集中して、繰り返す

2016年04月08日 | 組織・職場の学習
早く上達するコツは?」という問いに対し、ピアニストの樹原涼子さんは次のように答えている。

「多くの人はたくさん練習すると上達すると思っているが、大切なのは練習量だけではない。頭を使って段取りよく、短時間集中型の練習を日に何回かすれば上達は早い」(p.144)

日本人は「量」を重んじるあまり、「だらだら」と練習や仕事をしがちである。そうなると、練習や仕事の「生産性」は落ちる。

人間が集中できる時間は短いことを考えると、樹原さんが提唱する練習方法は有効である。

「脳の特性からいうと、一度に3時間弾くよりも、一日3回に分けて1時間ずつ弾いたほうがうまくなる。一日に1時間弾くのなら、20分ずつ3回弾いたほうが上達する。これは、脳に新しい情報を定着させるには、忘れかけたころにコマメに思い出し、繰り返すことが有効だからだ」(p.144)

いかに集中した時間を積み重ねるかが、学習効果を高めるポイントなのだろう。

出所:樹原涼子『ピアノを弾きたいあなたへ』講談社+α文庫



新著紹介(『経験学習ケーススタディ』)②

2016年01月28日 | 組織・職場の学習
昨日、新著『経験学習ケーススタディ』に掲載されている5つの事例を紹介しました。

今日は、4つの事例の概要を説明いたします。

2部 新人OJT事例

CASE6:KDDIエンジニアリング

KDDIエンジニアリングでは、2カ月間という新人研修期間を利用して、新人自らが経験学習サイクルを回すことを支援しています。この事例の特徴は、シンプルなフォーマットの「週報」を活用している点にあります。また、新人をサポートしている人事スタッフによるフィードバックも、新人の振り返りの質を高める上で重要な役割を果たしています。この事例は、新人だけでなく、中堅やベテランにも応用可能ですので、幅広い形で応用して欲しいと思います。

CASE7:サントリー
経験から学ぶ力の源泉は、「思い」と「つながり」です。サントリーでは、この「思い」と「つながり」に着目し、入社1年目の新人を鍛えています。この事例の優れているところは、いろいろな能力を高めようとするのではなく、人材成長の基盤である「思い(主体性)」と「つながり(協調性)」に絞り込み、シンプルなツール(成長実感シート)を用いて、本人・上司・人事部・OJT担当者が四位一体となって新人を育成しようとしているところにあります。

3部 中堅・マネジャーと若手の共育事例

CASE8:昭和電工

昭和電工では、新人に対して、現場の問題を解決させる「Run‐up プログラム」と呼ばれる育成システムを導入していますが、徐々にマンネリ化、形骸化に陥ってしまいました。 これを打破するために、指導する若手社員やマネジャー層に対して、経験学習に基づく指導のあり方を徹底しました。新人や若手の育成は、彼らの成長だけでなく、指導するマネジャーや中堅社員の成長も促すという「共育」の場づくりに成功している事例です。

CASE9:トヨタテクニカルディベロップメント
入社後の3年間に、エンジニアとしての基礎力を徹底して鍛えているのがトヨタテクニカルディベロップメントです。同社では、言葉で伝達可能な形式知としての「工学的な原理原則の知識」と、身体で覚える暗黙知である「仮説検証力」という2つのプログラムを並行して実施しています。注目していただきたいのは、教える側である現場のエンジニアも、自分たちの経験知を整理することができるという点です。まさに、若手と中堅・マネジャーが共に育つことのできる事例になっています。

以上のように、同じ「経験学習を活性化する」という目的であっても、対象者の違いによってさまざまなバリエーションがあることがわかります。みなさんの職場でも、本書で紹介した事例を参考に、オリジナルの仕組みづくりにトライしてみてください。


サークル

2015年12月11日 | 組織・職場の学習
鶴見俊輔さんは、何人かの方々と『転向の研究』という共同研究をされていたらしい。

『日本人は何を捨ててきたのか』(鶴見俊輔・関川夏央、ちくま学芸文庫)の中で、印象に残った箇所を抜粋してみたい。


関川:たとえば、転向の共同研究をされるようになってから、またはいくつかのサークルを持たれるようになてからは、誰かがライバルという感じはなかったのですか。

鶴見:サークルってライバルじゃないでしょう。

関川:彼がいい仕事をしたから僕もとか、そういうふうには考えないものなのですか。

鶴見:サークルという場はね、自分がいったことが誰によって使われてもいい、そういうとても豊かな感覚の場所なんです。ライバル意識というのじゃない。

関川:そうか。勉強会ならライバルになるかもしれないけれども、サークルは違うのですね。

鶴見:自己教育というサークルでね。独学とは何か。そのサークルの集いの中で、何か、目から鱗が落ちる。そこです。

(p.186)

この箇所を読み、そうしたサークルを作りえた鶴見さんのオープンさに感銘を受けた。



人材登用

2015年11月20日 | 組織・職場の学習
南洲翁(西郷隆盛)は、人材登用について、次のように述べている。

「人材を登用するとき、君子か小人かの区別、すなわち徳が篤い人か徳が薄い人かの区別をあまりに厳格にして、徳の篤い君子のみを採用しようとすれば、かえって害を引き起こすことになろう。というのは、日本が出来て以来、10人のうち7,8人までは徳の薄い小人であるから、よくこの小人に実情を理解して、それにみあった軽職に就かせ、その力を発揮させるのがよい」(p.31)

小人とは、普通の人を指すのであろう。

普通の人々の強みや弱みを理解した上で、仕事を与え、良い仕事をしてもらうこと。そこに人材登用の鍵がある、と思った。

出所:西郷隆盛(猪飼隆明訳・解説)『南洲翁遺訓』角川ソフィア文庫

しつこさ

2015年06月25日 | 組織・職場の学習
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』には、郵便配達員は出てこない

なぜか?

このタイトルの由来について、訳者である池田真紀子さんは、次のように説明している。

「おそらく一番よく知られているのは、著者が十三社から断られ続けてようやく十四社目で出版が決まり、さて題名はどうしようかという話になったとき、不採用の通知を持ってくる郵便配達員がいつも二度ベルを鳴らしたことから、このタイトルを思いついたという説」(p.240-241)

あんなに面白い小説なのに十三社から出版を断られたということに驚いた。

当時の基準からすると不道徳な内容だったからだろうが、断られても断られても諦めなかったケインの粘りは大したものである。

新しいものを世に出すためには、決して諦めない「しつこさ」も必要だと思った。

出所:ケイン(池田真紀子訳)『郵便配達は二度ベルを鳴らす』光文社

経験キャリアマップ

2015年04月07日 | 組織・職場の学習
経験キャリアマップとは、これまでの職業人生を振り返り、どのような経験を積み、何を学んできたかを確認するためのツールです。マップを描いた上で、自身の強みや今後の課題を考えてもらうことを目的としています。

簡単に言うと、縦軸に経験の難易度、横軸に時間(キャリア段階)をとった上で、自身の「経験と学び」を四角の中に書き込むものです。

このツールの活用方法をまとめたファイルは、以下のサイトで入手できますので、是非ご利用ください。

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/58317



『うたかたの日々』(読書メモ)

2015年04月01日 | 組織・職場の学習
ボリス・ヴィアン(伊東守男訳)『うたかたの日々』早川書房

不思議な小説である。

舞台はパリ。資産家コランが美しいクロエと結婚するものの、クロエが病気になり、コランの金も尽きてくると人生の歯車が狂いはじめる。

現実の世界のストーリーではじまるが、徐々に幻想の世界が入り込んでくる。はじめは退屈なのだが、非現実性が高まるに従い、人生の切なさが伝わってくる小説である。

どことなくコクトーの小説「恐るべき子どもたち」と似ていると感じたが、フランス人は独特の感性を持っているのかもしれない。




マネジメントの仕事を任せてみる

2015年02月18日 | 組織・職場の学習
先日、あるセミナーで「課長候補の中堅社員を、どのようにトレーニングすべきか」という質問を受けた。

そのとき思い出したのが、ある育て上手の課長さんの話。

「課長としてのマネジメント業務を切り分けし、後継者になりそうな中堅社員に部分的に任せている」ということを実践されていた。

育て上手のマネジャー調査をしていると、結構、これと似た話が出てくる。

「マネジメント業務だから自分がやらないといけない」と思ってしまう課長も多いだろうが、少しずつ自分のマネジメント業務を部下に任せてみたらどうだろうか。

こうしたことを組織的に進めていけば、優れた「マネジャー育成システム」になると思った。