2024年1月1日(月)
東アジアの平和構築へ
東南アジア3カ国 発見と感動の9日間
志位委員長が新春緊急報告
どうやって東アジアを戦争の心配のない平和な地域にするのか――昨年末、インドネシア、ラオス、ベトナムの東南アジア3カ国を訪問し、東アジアの平和構築にむけ精力的な外交活動を展開した日本共産党代表団(団長・志位和夫委員長)。どんな交流、探求がおこなわれ、どんな手ごたえ、収穫があったのか――志位委員長がその一部始終を緊急報告します。(聞き手・構成=赤旗編集局)
訪問の目的と全体の特徴は
明けましておめでとうございます。
志位 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
まず、今回の訪問の目的、訪問をふりかえっての感想をお聞かせください。
志位 東南アジア3カ国を12月19日から27日までの日程で訪問しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、粘り強い対話の努力を続け、この地域を平和の共同体に変え、その流れを域外に広げて東アジアサミット(EAS)という枠組みを発展させ、さらに2019年の首脳会議ではASEANインド太平洋構想(AOIP)を採択し、東アジア全体を戦争の心配のない平和な地域にするための動きを発展させています。こういう状況のもとで、ASEANの国ぐにの努力を生きた形でつかんで、東アジアに平和をつくる日本共産党の「外交ビジョン」をさらに豊かなものにしたい、日本のたたかいにも役立つような知見を得てきたい、さらに可能な協力を探求してきたい、これらを目的にして訪問してきました。
移動も含めて9日間の長旅になりましたが、ふりかえってみますと、毎日がわくわくする、発見と感動の連続でした。一日一日、さまざまな方がたと会談するたびに新しい視野が広がってくるという訪問になりました。
私たちは、これまで野党外交をさまざまな形でやってきましたけれども、一つのテーマを前進させることを目的にして、いくつかの国を訪問するというのは、あまりないのです。今回は東アジアの平和構築、とりわけAOIPの成功というテーマに焦点をあてて三つの国を訪問し、私たちの知見も認識も新たにし、豊かになったと言えると思います。また、わが党の「外交ビジョン」そのものも、AOIPを成功させること自体とともに、北東アジアが抱える諸懸案を積極的に解決していくという「二重の努力」に取り組むという形で発展させることができた。こうして、今回の訪問は、わが党の野党外交の歴史の上でも特別の意義をもつ訪問となりました。
インドネシア―“対話の習慣”を東アジアに
ASEANの発展を牽引してきた国
最初の訪問国として、インドネシアを選んだのは、どうしてですか。
志位 インドネシアの人口は2億8000万人。ASEANの総人口が6億7000万人ですから、ASEANの中で最も大きな国です。ジャカルタにASEANの本部があります。
インドネシアはASEANの創立(1967年)のメンバーであるとともに、近年でいえば、2011年にインドネシアのバリで東アジアサミット(EAS)が開かれ、「バリ原則」を採択し、武力行使を禁止し、紛争の平和解決をはかるなど平和のルールを政治宣言という形で打ち出しましたが、これを中心になって進めたのがインドネシアでした。
その後、13年にインドネシアのマルティ外相が「インド太平洋友好協力条約」を提唱、18年には、インドネシアのルトノ外相がAOIPを提唱し、19年のASEAN首脳会議でAOIPが採択されました。
このように、ASEANの発展という点でも、それを域外に広げていくEASやAOIPという枠組みを発展させるという点でも、インドネシアは一貫して、ASEANの平和の地域協力を牽引(けんいん)してきた国です。ですから、いまASEANで起こっていることの本当の姿を知ろうと思えば、どうしてもインドネシアに行って、その中枢で頑張っている方がたに話を聞くことが必要だと考えました。
私自身は、インドネシアを10年前(2013年)に訪問しています。このときの訪問が一つのきっかけになって、日本共産党の「北東アジア平和協力構想」(14年)の提唱、東アジアに平和をつくる「外交ビジョン」(22年)の提唱につながりました。また2020年の第28回党大会で行った綱領一部改定のさいに、ASEANの取り組みを「世界の平和秩序への貢献」として注目して位置づけました。一方、ASEANの側も、AOIPの採択という新しい道に大きく踏み出し、それを発展させる途上にあります。こうして10年前と比べて、私たちの認識にもずいぶん発展があったし、ASEANの側も大きく発展しているわけですから、新しい目でASEANの発展をつぶさにつかんでみたいという思いがありました。
年1500回もの“対話の習慣”を東アジアに
まずアダム・トゥギオ外務大臣特別補佐官との会談をされました。
志位 はい。1時間あまりでしたが、たいへん重要な会合になりました。
私からは、まず今回の訪問の目的を話し、そして、AOIPについて日本共産党としてこう理解しているということを話し、インドネシア政府としてAOIPをどう位置づけているかを聞くというところからスタートしました。
私の方からは、私たちの理解ではと前置きして、AOIPは、
――対抗でなく対話と協力の潮流を強める。
――どの国も排除せず、包摂的な枠組みを追求する。
――大国の関与を歓迎し、積極面を広げるが、どちらの側にもつかない。
――ASEANの中心性――自主独立と団結を貫く。
――新しい枠組みをつくるのではなく、既存の枠組み――東アジアサミット(EAS)を活用、強化していく。
――東南アジア友好協力条約=TACを平和の規範として重視し、ゆくゆくは東アジア規模に広げていく。
おおよそこういう要素からなっていると理解していますが、どうですかと、先方にAOIPの意義について聞きました。とくに、ASEANが、EAS、AOIPのような平和の枠組みを東南アジア域外に広げていこうとしている思いはどこにあるのかと聞きました。
アダムさんからは、ASEANにとって何よりも大切なのは平和と安定だ、そして平和と安定は域外の国ぐにとの連携が必要になる、この地域には多くの紛争の危険や火種があるけれども、「なぜASEANが多くの対話プロセスを持っているかというと、私たちは“対話の習慣”をつくりたいからです」との答えが返ってきました。
ここで“対話の習慣”という言葉が出てきたんです。ハビット・オブ・ダイアログという言葉だったのですが、非常に印象深かった。アダムさんは、ASEANが東南アジアを超えてEASなどで域外の国ぐにとの連携を包摂的に進めているのは、「紛争の危険、火種があるもとで、“対話の習慣”を推進したいからです。対話により誤解や誤算を回避できます」とのべました。そしてそれはASEANだけではなく、周辺諸国にとっても意義があるということを言われました。
“対話の習慣”という言葉がたいへん印象深かったので、私が10年前に訪問したとき、ASEAN域内で年1000回以上の対話をやっていると聞いて驚いたと話しましたら、「今では1500回以上です」とのこと。10年間で1・5倍になったということでさらに驚きました。
アダムさんの話を要約すると、“対話の習慣”を東アジア全体に広げるのがAOIPだということが言えるかもしれません。ASEANでやっている年1500回もの“対話の習慣”を東アジア全体に広げる、これがAOIPだというふうに言いますと、とても分かりやすいのではないでしょうか。街頭演説でも、これだったら話せるんじゃないでしょうか。
これはとても分かりやすいですね。
志位 はい。いいキーワードを聞いたなと思いました。
政府と政党を含む市民社会が協力して
志位 アダムさんとの対話で、私がもう一つ提起したのは、AOIPを成功させるためには、政府と政府の間の話し合いが大事なことは当然ですが、それだけではなく政党を含む市民社会が協力することが重要ではないかと問いかけてみたんです。
アダムさんは、市民社会も“対話の習慣”のプロセスに貢献することは可能だとの考えを示しました。政府間の話し合いだけでなく、政党も含めた市民社会が加わることで、対話がより深いものになるという認識が共有されたこともとても印象的でした。
私がこのことを話したのは、核兵器禁止条約の経験からです。核兵器禁止条約は、政府間の交渉によってつくられたものですが、市民社会の協力がなければできなかったと思います。日本の被爆者をはじめとする世界のNGO、政党も一体になって取り組んで条約をつくりました。AOIPのような平和の枠組みをつくるうえでも、政府間の話し合いだけでなく、政党も含む市民社会が一緒になって進めることが重要ではないかと考え、そういう提起をしました。先方からは肯定的な答えが返ってきました。
ガザ危機、核兵器禁止条約での意見交換
志位 アダムさんとの対話のなかでは、世界の緊急課題である二つの問題についても提起しました。
一つはパレスチナ・ガザ地区の問題です。死者が2万人を超え、イスラエルの大規模攻撃は明らかに国際法違反であり、インドネシア政府も主導した国連総会決議は153カ国が賛成しており、この決議が求めているように即時の停戦が必要だ、イスラエルの攻撃中止を求めることが必要だ、ハマスがやったことは許されないが、それを理由にイスラエルが大規模攻撃をすることは許されない、この問題での協力を願っていると話しました。
これに対して非常に強い答えが返ってきました。アダムさんは、「パレスチナ問題では、私たちは国際社会が持続的な停戦を実現するために声を一つにすることを促しています」とのべるとともに、ダブルスタンダード(二重基準)に反対するインドネシア政府の立場を表明しました。私は、日本共産党も、ハマスの無法行為を非難するがイスラエルの無法行為の非難はしない「ダブルスタンダード」には道理がないと国会でも提起してきたが、恒久的停戦のためにさらに働きかけを強めたいと表明しました。
もう一つは、核兵器禁止条約の問題です。インドネシアについて、私がたいへん印象深かったのは、2010年の核不拡散条約(NPT)再検討会議に参加した際、当時のインドネシアのマルティ外相が非同盟運動を代表して冒頭に演説をしたことです。それは核廃絶を求める堂々たる演説でした。そしてこのNPT再検討会議で採択された文書は、その後の核兵器禁止条約の成立につながっていきました。そういう体験も含めて、「核兵器のない世界」への協力を願っているという話をしました。アダムさんは、非同盟やNPTでのインドネシアの積極的な役割に言及していただいたとのべ、「核兵器のない世界」にむけ連携していくべきとの考えを表明しました。
ハビット・オブ・ダイアログ=“対話の習慣”を広げていく、年間1500回以上に及ぶ会合という話のほか、ガザと核兵器という緊急課題でも有意義な会談になりました。
ASEANの中心性――一方の側に立たず自主独立を貫く
ASEAN本部を訪問されました。
志位 はい。2日目は、ジャカルタ市内にあるASEAN本部を訪問し、エカパブ・ファンタボン事務局次長と会談しました。エカパブさんはラオス出身の外交官で、ラオスは今年(2024年)のASEAN議長国です。その話から、私たちがこれからラオスに行くという話になったところ、エカパブさんは、ちょうど数時間前にインドネシアからラオスへの議長国の引き渡しのセレモニーが行われたと。そんな会話から会談が始まりました。
まず、年間1500回以上に及ぶ会合が話題になりました。私が「年間1500回以上と昨日、聞きました」と話したところ、エカパブさんは、たしかに1500回になっているが、「いまでは量とともに質も大切になっています」として、会合を整理して順序だてたものにする努力を語りました。
私が、「ASEANの成功の秘訣(ひけつ)は何ですか」と聞いたところ、エカパブさんからは、ASEANの中心性と結束が重要だという答えが返ってきました。中心性というのは、いろいろな議論が起こったときにバランスを取って平和と安定を促進する、そして中立性を保つ、つまり、どちらか一方の側を取ることはない――。こういう説明でした。バランス、中立性、一方の側に立たない、そして自主独立を貫いていく。こうしたASEANの中心性の重要性が強調されました。
エカパブさんは、それを家族にたとえて、ASEANは家族の一員として受け入れ合い、助け合い、支える関係だ。域内でも不一致は時にはあるけれども、全ての問題を家族の一員の協力で解決していく。家族でもときどき問題が起きるが、しかし家族の問題は外部の力ではなく、家族で対応すると語りました。
域外のパートナーが同じ席につき、一緒に平和をつくっていく
志位 私は、もう一点、AOIPにかかわって、どういう思いでASEANは平和の地域協力の取り組みを域外に広げることをしているのですかと聞きました。エカパブさんは、ASEANは常に外側を向いている(アウトワード・ルッキングだ)。常に域外のパートナーに関与しようとする。その点で、世界で最も成功した地域機構だと思っていると答えました。世界の他の国にアウトワード・ルッキングする――外側を向いていくということです。AOIPも「ASEAN・アウトルック・インドパシフィック」の略です。アウトルック――ASEANがインド太平洋全体を広く遠くまで見晴らし、関与して、平和の枠組みをつくっていこうというのがAOIPです。
アダムさんは、ASEANは域外の大国が同じテーブルの席につくことができるプラットフォームになっている、大国が席につき、私たちの考えを受け入れなくても私たちの見解を共有することができるということも言われました。そういうことをやりながら、相互理解と協力を広げていくことをやっているということだと思います。そういう地域機構は世界にASEANしかないとも言っていました。このような表現で、ASEANというのは、ASEAN域内で平和の地域協力をつくるだけではなく、外に向かって、視野を広げて、域外のパートナー国――中国、アメリカ、日本も含めて一緒になって平和をつくっていっているということを強調していました。
日本共産党の「外交ビジョン」に高い評価が
志位 私たちは、今回の訪問の対話用にと、「日本共産党とASEANの平和の取り組み」と題するごく簡潔な資料をつくりました。東アジアに平和をつくる日本共産党の「外交ビジョン」、トルコ・イスタンブールで開催されたアジア政党国際会議(ICAPP)でAOIPの重要性を訴え、総会宣言に「ブロック政治を回避し、競争より協力を重視する」との一文が盛り込まれたこと、「日中両国関係の前向きの打開のための提言」で、日中双方とも賛意を表明しているAOIPをともに成功させようと呼びかけ、日中両国政府の双方から肯定的に受けとめがあったことなどが一目でわかるようにした資料です。私は、この資料を使って、わが党の取り組みを紹介しました。
エカパブさんからはいろいろな反応がありました。日本共産党の「外交ビジョン」について、地域の平和と安定を促進するASEANと同じ線に沿っているもので高く評価すると言われました。「日中両国関係の前向きの打開のための提言」に対して、日中両国政府の双方から肯定的な受けとめがあったことにたいして、とても良いシグナルだとの評価がのべられました。地域の多くの国と多くのチャンネルを持つことの重要性が指摘されました。
私が、ASEANと協力して、政党レベルでもAOIPを成功させる取り組みをすすめたいと話したところ、エカパブさんは、日本共産党は重要なビジョンを持っており、その努力、アプローチは重要であり、その仕事を続けていただきたいと応じました。
日本共産党の努力方向を歓迎してくれたことは、私たちにとってたいへんに心強いことでした。
ボトムアップ、ステップ・バイ・ステップで
ハッサン・ウィラユダ元外相との会談がとても弾んだと聞きました。
志位 そうです。ジャカルタでは、インドネシアのハッサン・ウィラユダ元外相と、ASEAN常駐代表部事務所にある彼の事務所で会談しました。ハッサンさんは、2001年から09年までインドネシア外相を務め、EASの設立(05年)などのASEAN外交をリードしてきた人物で、2時間近くの会談になりましたが、豊かな示唆に富む発言をたくさん聞くことができました。
ハッサンさんの発言でまず注目したのは、「ASEANは、外部から見ると、期待通りの速さではない、遅いと見られている。しかし、われわれのアプローチはトップダウンではなくボトムアップ(積み上げ型)です。ステップ・バイ・ステップ(一歩ずつ)なのです」ということでした。一歩一歩、できるところから積み上げ、広げていくことがASEANのやり方だというのですね。東南アジア友好協力条約(TAC)をつくるにしても、ASEANの設立宣言が1967年で、TACを結んだのは76年ですから、ASEAN設立からTACを結ぶまで9年もかかった。そういうふうに一歩一歩と広げていまに至っている。まずこの発言がとても印象的でした。
東南アジアには良い“対話の習慣”がある、これをいかにして北東アジアに広げるか
志位 ハッサンさんとの対話のなかには、たくさんの示唆があったのですが、とくに印象深かったのは、東南アジアには良い“対話の習慣”がある。これをいかにして北東アジアに広げるかが課題だということを言われたんです。これは、ズバリ的を射たものだと思います。
ハッサンさんが、北東アジア固有の困難にあげたのは、一つは、歴史問題でした。過去の歴史問題を解決できていない。日本がそれを克服できるかが大事で、ドイツが大切な例になるのではないかと指摘しました。もう一つは、朝鮮半島では、停戦合意があるだけで依然として戦争状態が続いていることです。これは難しい問題だが、正面から取り組む必要があるとの指摘でした。さらにいま一つは、米中の対抗、戦略競争が強まっていることです。三つともまさにその通りです。私は、なるほどと思ってこの提起を聞き、こういう話をしました。
「たしかに言われる通りで、私たちもこの問題では模索と探求をやってきました。わが党は、14年の党大会で北東アジア平和協力構想を提唱しました。これは簡単に言えば、ASEANのような平和の地域協力の枠組みを北東アジアにもつくりたい、北東アジア版のTAC(友好協力条約)を目指したいというもので、当時は関係国から評価を受けましたが、その後の情勢の進展は、これが簡単には進まないことを示しました。新たに枠組みをつくるのではなく、現にある枠組みを活用・強化して平和をつくる現実的アプローチが必要だと考えました。そのときにASEANによるAOIPの提唱――現にある東アジアサミットを活用・強化するという構想を受けて、党として『外交ビジョン』を提唱しました」
それに対してハッサンさんは、次のように発言しました。
「東アジアでTACをつくることは、今すぐは難しいと思います。“対話の習慣”を育んできたASEANでもTAC締結には9年かかりました。TACをつくるには、条約をつくる前提として“対話の習慣”が必要です。いかに良い“対話の習慣”を育むかが優先だと思います」
私たちが「北東アジア平和協力構想」から、現にある枠組み――東アジアサミット(EAS)を活用・強化していくという「外交ビジョン」へと外交構想を発展させていった模索と探求をよく理解してくれた発言でした。
「対話は多様性の産物」、平等に同じテーブルにつく
志位 私は、ASEANの考え方を日中関係にも応用したと「日中両国関係の前向きの打開のための提言」の話をしました。「バリ原則」を中心になってまとめたインドネシアのマルティ外相は、かつてその取り組みについて、“誰にも反対できないような原則――国連憲章にもとづく紛争の平和的解決などの原則をきちんと定式化した。それがバリ原則です”とのべていました。こうした努力を積み重ねていけば地域の平和のルールになっていくということだと思います。
日中両国関係にもこれを応用して、日中両国のどちらにも受け入れ可能で、かつ実効性のあるものをつくろうと、「日中両国関係の前向きの打開のための提言」を発表したという話をしました。とても真剣に聞いていただきました。
そのうえで、私は、ASEANではどうやって、“対話の習慣”を持つようになったのですかと聞きました。ハッサンさんはこう言いました。
「対話は多様性の産物です。インドネシアは人種、言語、文化的に多様で300以上の民族がおり、私は西ジャワの出身ですが、スマトラ北部の人と話すときは相手に何を言っていいのか、悪いのかを意識します。私たちにはそのような内的プロセスがある。基本的に全ての東南アジア諸国が多様な国です。多様性の中で、対話は日常生活、生き方そのものなのです」
「対話は多様性の産物」――。これもなるほどと思って聞きました。
そのうえでハッサンさんは、もう一つ大事なことを言いました。
「インドネシアは2億8000万の人口を持ちます。ブルネイは45万人、シンガポールは600万人、ラオスは750万人です。しかし、私たちは平等に同じテーブルにつきます。ASEANはコンセンサスで運営されます。インドネシアは大国だから、もっと意向が反映されてもいいはずだとも言われますが、そうではありません。私たちは自分の意思で小国と同じ権利を持つことにしました。ASEANはコンセンサスに基づいて運営されています。多数が少数に意見を押し付けない。少数も多数を振り回さない。だからASEANは発展したのです」
これらの一連の発言には、ASEANの成功の秘訣が深いところから語られています。
――ASEANで“対話の習慣”がつくられたのは、「多様性の産物」だ。多様性があるからこそ、対話せずにはいられなかった。私たちは「ハビット」を「習慣」という言葉に翻訳しましたが、「癖」とも訳せます。「対話せずにはいられない」という感じだと思います。
――ASEAN域内でインドネシアは人口が4割強。最大の国です。それにもかかわらず、大国として意見を押し付けることを絶対にしない。こうした自制しているということが、ASEANの安定性と団結をつくっている。インドネシア外交の懐の深さを見る思いでした。
政府と政党と市民社会が協力して
志位 ハッサンさんとの対話の最後に話したのは、政府と政党と市民社会の協力ということでした。ハッサンさんは、「政党にもできることがあります。それは政党間で話し合うことです。ぜひそれをやってほしい。対話を促進するために政党としてもやってほしい」と言いました。そして「ASEANは“対話の習慣”で成功しているけれども、東南アジアが成功しないままでは、東アジア全体の平和の共同体には進まない。平和のために、取り組みの成功を願います」と激励してくださいました。私から、政府と政党と市民社会の協力を大いに進めたいと提起したところ、たいへん良いことだと賛意を示してくれました。
インドネシア政府は、22年のG20で議長国を務めて、だれも発出できないだろうと思っていた共同声明をまとめ上げました。ウクライナ侵略が難しい問題で、これを非難しながら、一部の人は違う意見をのべたという言い方で共同宣言をまとめました。これに関し、ハッサンさんは「ASEANは求心力があり、すべての国、立場の対立する国ぐにをそろって快適にする」と話しました。ここにASEANの哲学が表れています。対立しているのにそろってみんな快適になる。そこにインドネシア外交のすごさがあると感じました。
インドネシアでの収穫は大きなものがありましたね。
志位 そう思います。私は、記者団の取材で、インドネシア訪問の成果を問われて、「ASEANとインドネシア外交の精神を深く知ることができ、今後の協力の発展の方向、党の『外交ビジョン』の発展のうえで多くのヒントを得ることができました。とくに共通のキーワードとして“対話の習慣”ということが語られたことは、とても印象深いもので、ここインドネシア、ASEANから始まった“対話の習慣”を、時間はかかっても北東アジア、東アジア全体に広げ、この地域に平和をつくるために力をつくしたい」との決意をのべました。
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