暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

「海想の茶事」に招かれて

2023年07月15日 | 社中の茶事(2018年~)

 

令和5年7月2日(日)、半夏生の日に「海想の茶事」へお招き頂きました。

ご亭主は社中Iさま、席は拙宅:暁庵にて正午の茶事(11時席入)でした。

お客さまは、御正客Oさま、次客暁庵、三客松谷千夏子さま、四客KMさま(小堀遠州流)、詰AYさま(社中)です。

「海想の茶事」については後礼に差し上げた手紙を少しアレンジして記録しておこう・・・と思います。どうぞよろしくお付き合いください。

 

       (「拈華微笑」の御軸  前田宗源禅師筆)

 

 後礼の手紙より

Iさま

半夏生の季節になりました。

この度は海想の茶事にお招き頂き、ありがとうございました。

席中でも・・終わってからも・・何度もため息が出るほど、良いお茶事でございました。

茶を教える者にとって生徒さんの茶事へお招きされることほど嬉しいことはございません。

・・・それで、この度はお道具やお支度をなるべく見ないようにしていたので、次客としてIさまのお茶事を心ゆくまで楽しませて頂きました。

「先生の心臓に悪いのでは・・」と心配してくださっていましたが、そんなことは全く無く、スラスラと点前をなさり(そのように見えました)、お話も分かり易く「流石・・」と感心しきりでした。

床に掛けられた御軸「拈華微笑」

釈迦が花を一輪かざして弟子たちに見せると、その意を解した迦葉一人がただ微笑みを返したというお話が伝わっています。

「微笑みを介して互いに理解し合うこと」・・静かな茶室の中での主客の無言の会話、そして海中で素晴らしい景色に遭遇した時のダイバー同士のアイコンタクト・・・言葉だけではない、心を通い合わせるシーンが強く私の胸を揺さぶりました。

 

 

少しばかり心配していた初炭でしたが、日頃の努力の甲斐あって右手が右利きの人のように働いていました。きっと本人にとってはもどかしい思いがあるのでしょうが、左利きと言わなければわからないくらい働いていたと思います。

京都在住の時に知り合ったSさまという方は交通事故のため右手と左手の指がいくつか使えなくなってしまいました。それでもお茶がお好きで、私が茶事に招かれたときは右手と左手がそれはもう絶妙に助け合って、流れるようにお点前をされていました。

きっと長い時間を掛けて血のにじむような努力をされたと思うのですが、「お茶が好きだから出来たと思う・・・」の一言で、素敵な笑顔が今も思い出されます。

 

   (主菓子は銘「半夏生」 大宰府の藤丸製)

古染付の小壷の茶入から「不識」の茶杓で緑の抹茶(星授、星野園)が掬い出され、心を込めて練ってくださった濃茶を美味しく頂戴しました。

長い時間をかけて集められた茶道具が随所でご亭主の想いを生き生きと語っていましたし、お道具も喜んでいるように思われました。

私は中でも「月日貝香合」(上杉満樹作)にとても心惹かれました。本物の貝と伺ってびっくりし、深い海の底で赤と白の美しくも不思議な貝が生まれる神秘を思いました。

ダイビングしている海中で交わす「拈華微笑」のお話はとても心に残り、お茶だけではない一期一会の海の景色を見てみたいものと憧れます。一方で茶室での「拈華微笑」の境地は暁庵にとって永遠のテーマになりそう・・・。

御正客Oさまもきっと十二分に楽しまれたことでしょう。Oさまのお人柄もあって終始なごやかな雰囲気で、詰のAYさまにもいろいろ助けて頂きました・・・。

ご友人の日本画家の松谷千夏子さま、お茶人の雰囲気がおありの素敵な方ですね。小堀遠州流のKMさま共々これからも親しくお茶のご縁が続くと嬉しいです。

(待合いの「夏待ち」の掛物  松谷千夏子画)

最後の挨拶で申しましたように「Iさまはご自分のお茶事を立派になさった・・・」と思いました。どうぞこれからも一つ一つ丁寧にお茶事を続けてくださいませ。

お茶事をすると、成功も失敗もあるかと思いますが、それが全てIさまの糧になると思います。そしてお茶事を通して素敵なお茶人さんと交流を深めて、お茶を大いに楽しんでください。

 私もいつまで出来るかわかりませんが、一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう・・・と覚悟を決めて踏み出したところです。

そのこともあって、Iさまのお茶事に邁進している御姿からたくさんの元気とエールを頂きました。

ありがとうございます。

 

(煮物椀に舌つづみ・・・海素麺、鮎の一夜干し、茗荷、青柚子)

    (焼物の鰻のけんちん焼きと青楓麩)

末筆になりましたが、半東を務めてくださった社中KTさま、美味しい懐石を作ってくださった佐藤愛真さまにくれぐれも宜しくお伝えくださると嬉しいです。    かしこ

   令和五年文月吉日                                  

                     暁庵 拝                        

 


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