暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(2)

2023年07月06日 | 社中の茶事(2018年~)

つづき)

懐石が終わり、初炭になりました。

すぐにパチパチと火がはぜる音が聞こえ、安堵しました。M氏は火の扱いが上手でいつも感心 していたので、そのことをお尋ねすると、

「最初にお習いした先生が男性は火の扱いを任されることが多いのでしっかりと修練するように・・・」と厳しくご指導してくださったそうです。それにしても入門したての若い男性によくぞ厳しくご指導なさったこと! 本当に素晴らしい先生だわ・・・と尊敬しきりです。

初炭手前がスラスラと終わり、香合が拝見に出されました。

香合は手に取ると石のように重い埋もれ木香合。埋もれ木は川底に数千年を経て堆積した樹木が炭化したもので、M氏が転勤途中で滞在した仙台市を流れる広瀬川の産でした。桐の葉と花の蒔絵が描かれていました。

縁高で主菓子が運ばれました。紅白の金団で金箔が載っています。

出来立てのように柔らかく、中のつぶ餡が絶妙な味わいの金団でした。菓子銘は「寿ぎ」です。

後でお伺いすると、石川県小松市の行松旭松堂へ特注してくださったそうです。お茶の不思議なご縁でM氏は行松旭松堂のご主人と親しいことを伺っていたので、嬉しいサプライズの金団でした。

再び先ほどの腰掛待合へ中立しました。

 

しばらくして幽かに銅鑼の音が聴こえてきました。その響きの良さにしばし魅せられ、再び蹲を使い後座の席入りです。

立礼席は片づけられていて、床には花が活けられていました。

青紫の桔梗、笹百合、利休草が竹一重切(池田瓢阿作)に生けられ、壁に露が清々しく打たれています。

間もなく濃茶点前が始まりました。

「喫茶去」の御軸の如く、しっかりお心を受け止めようと、客3人が静かにお点前を見詰めます。端正なお点前にいつも見惚れてしまうのですが、指先まで神経が行き届いているような所作で茶入や茶杓を間合い好く浄めていきました。

絶妙な柄杓の扱いで適量の湯を注ぎ、濃茶をしっかり練ってくださいました。茶の馥郁とした香りが茶室を満たしていきます。

茶事では濃茶の時間が一番大切で、客にとっても色々な味わい方が出来るのですが、この時は心を込めて練ってくださった御茶を半ば夢の中にいるような気持で頂戴しました。

「美味しゅうございます!」 (ちょっと胸がつまる思いで・・・)

美しく練られた濃茶は甘くまろやかに舌や喉を潤していきました。濃茶は「青葉の昔」(仙台市・大正園詰)です。

          (後座の点前座・・・萩焼の水指)

茶碗は黒楽。出身地に近い名古屋市の津島窯だそうで、小ぶりで口づくりや黒釉薬の流れが味わい深い茶碗です。

茶入は古瀬戸の丸壷、鵬雲斎大宗匠の「松聲(しょうせい)」という銘があります。丸壷がかわいらしく、茶と黒の釉薬が魅力的な景色を醸し出していました。このような茶入とお出会いがあったのが羨ましいです・・・仕覆は牡丹二重蔓金襴だったかしら??

茶杓は繊細な2つの虫食い穴が印象的な古竹で作られ、銘「閑日月」(紫野・方谷浩明師作)です。「のんびりと一日一日を大事に過ごしていこう・・・」という意味でしょうか・・・いいなぁ~

 

    (点前座の障子の景色が刻々と変化します・・・後炭の風炉中拝見)

 

最後の薄茶になり、半東T氏にも相伴して頂き、一期一会の幸せな時間を全員で共に過ごしました。

「清風」と鵬雲斎大宗匠が書かれた茶椀でお薄をたっぷり頂き、100才を迎えられた大宗匠が歩んで来られた茶の道程に思いを馳せました。薄茶の茶杓銘「養老」にM氏の温かな激励の気持ちが伝わって来て嬉しかったです。

暁庵も「無明払曉」の中、とにかく出来るところまで一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう、今までご縁があった方をお招きして・・・と覚悟を決めて踏み出したところでした。

そのこともあって、M氏から「水無月の茶事」を通して、たくさんのエールを頂いた気がして感無量でございました。

きっとYKさまもKTさまも同じ思いでM氏のエールを受け取ったことでしょう。

帰り道、本当に幸せな時間だったわね・・・と異口同音でした。

渾身のおもてなしを頂きまして、誠にありがとうございました。    

 

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