暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

立礼の茶事 (2) 神無月に

2010年10月18日 | 思い出の茶事
本席の軸は、十四代淡々斎のお筆で
「遠山無限 碧層々」

お正客さまから懇ろに待合、露地、掛物など、ご亭主のお心入れを謝し、
懐石がはじまりました。
亭主相伴の間に杯台を正客へ、円椅を正客前に置きました。
あとでご亭主が
「あらっ、円椅を運んでくださったのですね。
 折角ですので、お正客さまとだけ献酬させていただきます」
立礼の懐石で千鳥の杯を行う時、半東が控えていて
移動のたびに円椅を動かしますが、省略する場合も多いのです。

懐石を和やかに美味しく頂戴すると、炭が置かれました。
炭斗は桐の蒔絵が優雅な冊屑箱(さくずばこ)でした。
香合は、梨地に秋草蒔絵の錫縁小箱で、
「かなり古いもので江戸より前の時代のものでございます。
 お姫さまが琴爪でも入れていたのでしょうか?」

炭手前が終わり、縁高が運びだされました。
主菓子がとてもステキだったので、ご紹介します。

薄紅色の芙蓉の花のようで、葉が敷かれていました。
中は白餡、葡萄酒と葡萄ジュースが入った葛で包まれ、
花芯の干し葡萄が3粒のっています。
菓子銘を聞き損ねましたが、フルーティで上品な甘さが絶品でした。

               
 
中立のあと、迎えつけは銅鑼でした
音(響き)と間合い、大小中の打ちわけも程好く、
いいですねぇ・・・大好きな瞬間です。
後座の床には、祇園守り、鉄線、ホトトギス、ワレモコウなど
名残りの花が背負い籠へ入れられています。

点茶盤の茶道具は、海外へ夢が広がるようなエキゾチックな取り合わせでした。
中でも義山の大きな水指はリスの絵柄のある珍しいもので、
団扇のような平たい耳が面白く、木蓋は遠い異国の教会の扉とか。

よく練られた濃茶を美味しく頂戴しました。
この一服を差し上げたくって・・・という
ご亭主の気持ちが込められていました。

主茶碗は志野で、豪快な作風の茶碗ですが、
秋風になびくススキのようにも見えて、時候にぴったりです。
添えられた古袱紗が素晴らしかったです。
ずっしりと重い玉虫のような煌きのあるモールで、
密かに「玉虫の厨子」と名付けました。
次茶碗は弘入の赤楽で、これも味わい深いものでした。

後炭手前をしっかり見せて頂き、風炉中拝見では
灰形、炭の風情に嘆声が続きます。
鮮やかな五色の組み紐で編まれた釜敷に惹きつけられました。
あとで淡々斎の箱書を拝見すると、記念とだけありましたが
何の記念か、謎だそうです。

薄茶と干菓子を美味しく頂戴し、
N先生のおもてなしを深く心に刻んでお暇しました。

ご亭主さま、お正客さま、ご同席の皆様、有難うございました。
Nさんと共に過ごした、神無月の優雅な一会でした・・・。

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