「仙桃庵」(せんとうあん)の軸・・・一目見ただけで胸が熱くなりました
6月頃に茶友Mさんこと松尾宗華さんから電話を頂きました。
「11月20日に畠山記念会館で茶席を持つことになりました。
Kさんと一緒に是非いらして下さい」
体調が今一つというMさんですが、とても明るく前向きな姿勢にいつも元気づけられています。
その日から11月20日の清峰会茶会を楽しみに待っていました。
その間にご主人I氏とMさまがお揃いで社中N氏の名残の茶事へお出ましくださり、感謝です。
当日11時にKさんと畠山記念会館のフロントで待ち合わせ、すぐに濃茶席へ・・・。
でも濃茶席は2席(翆庵と毘沙門堂)とも既に整理券が配られ満席とのことで、
茶会に不慣れな二人はうろうろするばかり・・・。
やっと薄茶2席(沙那庵と明月軒)の整理券をゲットし、早めに点心席へ入り一息着きました。
石州流の沙那庵と裏千家流の明月軒で薄茶を頂戴し、Mさんの浄楽亭へ向かいました。
すでに15時近くになり最終のお席だそうで、間に合って良かった!
Mさんは表千家流、暁庵は裏千家流なので
「席主のMさまは古い茶友でございまして、お流儀が違いますが正客席に座らせて頂きました。
どうぞ皆様、宜しくお願い致します」
席主Mさんは洋服、しかも車椅子です。
その堂々とした席主ぶりと床の「仙桃庵(せんとうあん)」と書かれたお軸に感激し、もう胸が熱くなりました。
「Mさま、本日は誠におめでとうございます・・・」
「仙桃庵」は表千家九代・了々斎の御筆です。
仙桃とは中国神話に登場する桃のことで、
崑崙山に住む最高位の仙女・西王母の誕生日(3月3日)に蟠桃会(ばんとうえ)という宴が催されます。
古来、桃は魔よけの力があるといわれ、崑崙山には不老不死の霊薬とされる桃の木(蟠桃)がありました。
この桃は三千年に一度しか熟さず、西王母は桃が実ったのをお祝いして蟠桃会を開きます。
その宴に呼ばれるのは超一流の神仏たち、長寿と富貴を象徴する宴だそうです。
そんな神話から「仙桃庵」とは、西王母にちなんで長寿と富貴を慈しみ、茶を楽しむ庵と思っていたら、
席主Mさんの誕生日が3月3日で、茶会の直前にお軸との出会いがあったとか・・・。
実は、ご主人I氏とMさんが建てられた茶室の名前が「仙桃庵」、「仙桃庵」の茶事へもお招き頂きましたが、初めてその命名の意味を知ったのです。
茶道具との出会いは不思議なもので、軸「仙桃庵」が清峰会茶会へ臨む、Mさんのすべての思いを表わしているように思われました。
茶花が大好きなMさん、どんなお花かしら? と楽しみにしていました。
花は桃色の西王母とブルーベリーの照葉、黄釉の花入(即全作)が花をより華やかに引き立てています。
時代を感じる春秋蒔絵香合、そして赤楽茶碗が床に荘られていました。
あとでお尋ねすると、六代・覚々斎手造の赤楽で銘「羅漢(らかん)」、
Mさん扮する西王母の茶会へ馳せ参じた聖者のお一人のようにも思われます。
機会がありましたら、「羅漢」で濃茶を喫んでみたいものです。
お点前さんは袴姿の若者、久しぶりの表千家流お点前です。
華麗な呉竹蒔絵の大棗(一后一兆作)から茶が掬いだされ、さらさらと茶が点てられました。
薩摩焼の呉器写という珍しい茶碗(碌々斎書付)で、まさに月に叢雲の薄茶を頂戴しました。
しっかり熱く美味しかった! 茶銘は金輪、詰小山園でした。
最後に、気になっていた茶杓ですが、銘「西王母」(碌々斎作、即中斎箱書)。
その銘を伺って、やっぱりMさんは西王母の化身として今日の茶会へ現われたのだ・・・と妙に納得し、
お体の回復と長寿と益々のご活躍を祈りつつ、浄楽亭を後にしました。