暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

楽美術館茶会  「一向一脊不易親」

2013年05月16日 | 献茶式&茶会  京都編
5月12日(日)、楽美術館の特別鑑賞茶会へ出かけました。
昨夜まで降っていた雨が上がり、爽やかな朝でした。
10時の席入、しっとりと露を含んだ露地を進みます。

床の掛物は「青山元不動」(せいざんもとふどう)、
拙叟宗益筆です。

青山とは、人が本来持っている仏性の比喩だそうで、
人は妄想や煩悩に惑わされるが、それは表面的なことにすぎず、
本来は不動の仏性を持っている・・という意味です。
「青山元不動 白雲自去來」
と対句になっていて、この禅語に出合うといつも、
雄大な自然の中に在って、動かぬ心を試されている気持になります。

この禅語を念頭に設えてくださった茶席は、
不動のようにどっしりした花入から始まりました。
惺入作の焼貫耳付置花入「養老」、釉薬の変化が素晴らしく、
花(二人静、縞葦、都忘れ)より先に花入が目に入ってしまいます。
しばし、焼貫のお話をしてくださったのですが、実際のところ、
想像だけで実感としてわかっていないことがわかり、じれったい思いでした。

               
                   待合の花と花入

火入れの話が興味深かったです。
釜に火を入れ、20時間かけてふいごで空気を送りながら、炭を足し、
刻々変わる温度、湿度、炎や風の流れを肌で感じながら、
茶碗を焼き上げていく工程の話にみんな聞き惚れました。
長年やってこられたことでもそのたびに違いがあり、
予期せぬ出来事が生じることもあるとか。

   窯焼きの途中で作品をチェックし、失敗や課題を見つけたときの場の収め方、
   父上・覚入ほど強い性格でない自分を自覚する当代。
   頭の中をさまざまな経験の蓄積が駆け巡る。
   そして迷わず、いや迷いながらでも決断しなくてはならない。
   前へ進むべきか、何をなすべきか、一瞬の決断が当代にのしかかる・・・

当代が、今日の茶会のために選ばれた茶杓は、銘「韜略(とうりゃく)」。
会記には次のように書かれていました。
  茶杓  吸江斎 共筒 書付 銘「韜略」
       宙宝和尚書 「一向一脊不易親」書添う  丙甲天保

「一向一脊不易親」
孫子の兵法にあり、
「進軍はやさしいが、撤退が難しいのは途中に難所のあるところである。
 そこに敵の備えがなければ勝ち、あれば負ける」
茶碗づくりの現場の時々刻々を思わせる、心に残る一語となりました。

              

・・・楽美術館の茶会の良さは、歴代の茶碗で頂く一服もさりながら、
当代・楽吉左衛門氏の茶碗づくりのお話に耳を傾け、
悪戦苦闘ぶりや柔軟な精神性を垣間見ることができる、そんなひと時にあります。
まさに「不易親」(時代を超えて変わらない価値のある、親しみべきもの)なり。

              

このような味わい深いお話がいつかできるように年を重ねていきたい!
・・・とつくづく思います。 尊敬と感謝を込めて・・・。

                                  

忘備録として、茶席で使われた六個の茶碗を記しておきます。

  主茶碗  黒楽                 五代 宗入
  替    黒楽  銘「青嶺」  襲名後初個展  十五代 吉左衛門
       志野写                   九代 了入
       刷毛目井戸形楽茶碗  銘「濤声」 即中斎書付  十二代 弘入
       織部楽焼茶碗  銘「緑水」      十三代 惺入
       赤楽茶碗    銘「白雲」    即中斎書付 十四代 覚入

        (志野写で薄茶を頂戴しました・・・)