暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

口切の茶事 師走(1)

2010年12月06日 | 思い出の茶事
   口切や南天の実の赤き頃    漱石

師走3日、口切の茶事へお招きいただきました。

あいにくその日は低気圧が早朝に関東地方を通り抜けたため、
風雨が8時頃まで残りました。
電車の遅れが心配で早めに家を出ましたが、
ダイヤが乱れ、一時は席入りに間に合うか不安でした。

・・・正客の大役を仰せつかっていたのです。
客は次客のYさま、詰のTさま(ご亭主の先生)の三名で、
私以外のお二人は社中なので社外の私に是非・・・という訳でしたが、
安易に引き受けて後悔しました。

ご亭主にとって初めての内口切の茶事とのこと、
どう考えてもご亭主の師であるTさまを差し置いての
正客は如何なものか・・・と悩みました。
引き受けた以上・・と覚悟を決めたのは茶事の5日前でしょうか?
気持ちを切り替えたら、口切へ伺うのが楽しみになりました。

それは、何度か茶事へお招きいただいているのですが、
おもてなしの心入れ、茶道具のセンスや楽しいアイディア、
手作りの懐石や菓子など学ぶべき事ばかりで、
いつもたくさんの刺激を頂戴しているからです。

               

席入りは11時でした。
待合へ入ると、歌切れが掛けられています。
紀貫之の和歌で
   見る人もなくて散りぬる奧山の
       紅葉は夜の錦なりけり 

萩焼の汲出しで紅白あられが入った白湯を頂き、
マンション8階のベランダに設えられた腰掛待合へ。
垣根、手水鉢、鉢植えなどで清々しく露地と蹲が工夫されています。

見る人もなくて散りぬる紅葉の錦を8階から俯瞰して
大風に舞い散る様子を眺めていると、ご亭主が現れました。
蹲を使い枝折戸代りの関守石が脇へ退けられ、迎え付けです。
心地好い緊張感を感じながら無言の挨拶を交わしました。

本席はマンションの一室を改築した
風情のある三畳台目向切の茶室です。
にじり口から席入りしました。
壁床には「関 南北東西通活路」、明道和尚の筆です。

いくつもの関を経て、今日口切の関へ辿り着き、
また新たに歩み出す・・・
明道和尚の筆は柔らかく、緊張気味のご亭主を温かく
見守っているかのようでした。

朱色の網に入れられた茶壷が荘られていました。
ほの暗い小間ゆえに壷の持つ存在感と華やぎを一際感じます。

茶人の正月と言われる口切へお招き頂いた御礼を申し上げ、
「ご都合により茶壷を拝見したく お願いいたします」
いよいよ口切です。

     口切の茶事 師走(2)へ        のち      

    写真上から、「南天の実」 (季節の花300提供)
             (赤い実が茶壷の飾り結びのよう・・)
            「紅葉の庭」