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「道玄坂でミロに出逢う」などという表現を年寄りが用いると、気色が悪い。単に「渋谷のBunkamuraに行ってミロ展を観た」だけのことである。「日本を夢みて」の副題が付いている通り、ジュアン・ミロ(1893-1983)と日本の関わりに軸を置いた企画展だ。ミロは「血が混じっているような気がする」と語るほど日本が好きだったらしいが、日本人もミロのファンは多く、平日なのに開館前に列ができている。私もミロの絵が大好きなのである。
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展示作品数の少なさなどから、見ごたえの薄い展覧会ではあったが、福岡市美術館蔵の「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聴いている踊り子」と国立ソフィア王妃芸術センター蔵の「カタツムリ、女、花、星」を観られただけで満足する。奇妙な絵画ではあるけれど、線と色のリズムがなんとも心地いい。1966年に初来日した際に、ミロ展を主催した毎日新聞社を訪れ、新社屋落成記念に「祝毎日」と揮毫した「書」が展示されているのはご愛嬌である。
(バルセロナ市街で)
バルセロナで生まれ、フランコ時代はマヨルカ島に隠棲したミロは、展覧会で「ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠」と紹介されている。しかしマドリッドの国立ソフィア王妃芸術センターでは、ピカソの「ゲルニカ」が監視員に守られて公開されているのに比べ、ミロは案外あっさりとした展示で拍子抜けしたものだ。カタルーニャ人・ミロに対するエスパーニャの姿勢を表しているのかな、と芸術に政治を持ち込んで余計なことを考えたものだった。
(国立ソフィア王妃芸術センター)
最晩年のミロがマヨルカ島でなお創作活動を続けていたころ、この島で生まれ育ったミケル・バルセロは地中海を渡ってバルセロナの美術大学で学び始める。そのことを私は1ヶ月前に初台で観た「バルセロ展」で知ったのだが、世代も画風も異なる二つの才能が、ともに同じ街で学び、交錯した偶然が面白い。いつかバルセロナのミロ美術館を再訪し、マヨルカ島にも渡りたいと夢見ているのだが、コロナが邪魔をし、私の時間はどんどん減っていく。
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Bunkamuraと一体の東急百貨店本店は、1967年秋、道玄坂の小学校跡地に開業している。その年、大学生の私は渋谷暮らしを始め、「駅から離れた不便なところで、デパート経営ができるのだろうか」と思った記憶がある。私の経営感覚はその程度の幼稚さだったことは、その後の道玄坂界隈の賑わいを見れば明らかだが、その東急本店も来年には解体されるらしい。建物の老朽化以上に、デパートビジネスが寿命を終えつつある現象なのだろう。
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渋谷はどんどん変わって行く。日が暮れてもバナナの叩き売りのダミ声が聞こえてくることはないし、餃子を楽しみに通った恋文横町は109が建って跡形もない。怪しげな女性たちに声をかけられた円山町界隈はどうなっているだろう。ビニールテントで焼き鳥を食わせる露店が並んでいた路地は、思い出す縁すら消えたようだ。道玄坂の登り口に建つ古島実作『風見塔』は、こうした街の変遷を眺め続けてきたのだろう、煤煙で汚れきっている。
どこかの街へ行けば常に魅力的な企画展に出会える、そんな世の中であってほしいものだけれど、日本経済が長期低迷から抜け出せないように、美術展ビジネスも萎縮してはいないか。企画展を開催したい美術館の学芸員たちが、新聞やテレビの発信力に期待して野心を燃やし、マスコミ側も商売になるから企画を漁る。しかしこのビジジネスモデルは下り坂なのか、大型企画が少なくなった。マスコミの集客力が衰えているのだろう。(2022.3.16)
(バルセロナの「ミロ美術館」)
(コペンハーゲン近郊の「ルイジアナ美術館」)
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(国立ソフィア王妃芸術センター)
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(ゴシック聖堂でオルガン演奏を聴いている踊り子)
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(カタツムリ、女、花、星)
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(焼けた森の中の人物たちによる構成)
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(アンリク・クリストフル・リカルの肖像)
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(祝毎日)
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展示作品数の少なさなどから、見ごたえの薄い展覧会ではあったが、福岡市美術館蔵の「ゴシック聖堂でオルガン演奏を聴いている踊り子」と国立ソフィア王妃芸術センター蔵の「カタツムリ、女、花、星」を観られただけで満足する。奇妙な絵画ではあるけれど、線と色のリズムがなんとも心地いい。1966年に初来日した際に、ミロ展を主催した毎日新聞社を訪れ、新社屋落成記念に「祝毎日」と揮毫した「書」が展示されているのはご愛嬌である。
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バルセロナで生まれ、フランコ時代はマヨルカ島に隠棲したミロは、展覧会で「ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠」と紹介されている。しかしマドリッドの国立ソフィア王妃芸術センターでは、ピカソの「ゲルニカ」が監視員に守られて公開されているのに比べ、ミロは案外あっさりとした展示で拍子抜けしたものだ。カタルーニャ人・ミロに対するエスパーニャの姿勢を表しているのかな、と芸術に政治を持ち込んで余計なことを考えたものだった。
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最晩年のミロがマヨルカ島でなお創作活動を続けていたころ、この島で生まれ育ったミケル・バルセロは地中海を渡ってバルセロナの美術大学で学び始める。そのことを私は1ヶ月前に初台で観た「バルセロ展」で知ったのだが、世代も画風も異なる二つの才能が、ともに同じ街で学び、交錯した偶然が面白い。いつかバルセロナのミロ美術館を再訪し、マヨルカ島にも渡りたいと夢見ているのだが、コロナが邪魔をし、私の時間はどんどん減っていく。
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Bunkamuraと一体の東急百貨店本店は、1967年秋、道玄坂の小学校跡地に開業している。その年、大学生の私は渋谷暮らしを始め、「駅から離れた不便なところで、デパート経営ができるのだろうか」と思った記憶がある。私の経営感覚はその程度の幼稚さだったことは、その後の道玄坂界隈の賑わいを見れば明らかだが、その東急本店も来年には解体されるらしい。建物の老朽化以上に、デパートビジネスが寿命を終えつつある現象なのだろう。
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渋谷はどんどん変わって行く。日が暮れてもバナナの叩き売りのダミ声が聞こえてくることはないし、餃子を楽しみに通った恋文横町は109が建って跡形もない。怪しげな女性たちに声をかけられた円山町界隈はどうなっているだろう。ビニールテントで焼き鳥を食わせる露店が並んでいた路地は、思い出す縁すら消えたようだ。道玄坂の登り口に建つ古島実作『風見塔』は、こうした街の変遷を眺め続けてきたのだろう、煤煙で汚れきっている。
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どこかの街へ行けば常に魅力的な企画展に出会える、そんな世の中であってほしいものだけれど、日本経済が長期低迷から抜け出せないように、美術展ビジネスも萎縮してはいないか。企画展を開催したい美術館の学芸員たちが、新聞やテレビの発信力に期待して野心を燃やし、マスコミ側も商売になるから企画を漁る。しかしこのビジジネスモデルは下り坂なのか、大型企画が少なくなった。マスコミの集客力が衰えているのだろう。(2022.3.16)
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(国立ソフィア王妃芸術センター)
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(ゴシック聖堂でオルガン演奏を聴いている踊り子)
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(カタツムリ、女、花、星)
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(焼けた森の中の人物たちによる構成)
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(アンリク・クリストフル・リカルの肖像)
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(祝毎日)
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