WALKER’S 

歩く男の日日

土佐一国打ちの話 その3

2024-09-13 | 日記

 辰濃和男著「四国遍路」から引用させてもらいます。

 出発して三、四キロ歩いて、久百々に着いた。「民宿久百々」の看板が目につき、思わず、戸を開けて中に入る。強風がすごい勢いで吹き込む。戸を閉める。おかみさんがでてくる。
 「これから足摺岬へ向かいます。あす、帰りにこの道を戻るので、泊めていただけませんか。もし泊めていただけるなら、こちらに荷物をお預けしたいんですが」
 「いいですとも」
 驚いたのはおかみさんの早業だった。玄関口の私が、持参する荷物と預ける荷物を選りわけているうちにさっと奥に消え、出てきた時はもう握り飯二つ、バナナ一本、飴をくるんだ包みをさらにビニール袋に入れて差し出し、はきはきした口調でいった。
 「どうぞお持ちになってください。この暴風雨じゃ食べる所も見つからんでしょう」
 お接待だった。嵐は、恐ろしい勢いで体力を消耗させる。足摺岬までかなりの速度で歩く力を維持できたのは、このときにいただいた握り飯と果物のおかげだった。
   [中略]
 民宿「久百々」に泊まった。嵐のときに寄って、荷物を預かってもらった宿だ。お接待でいただいた弁当がどれほど心強く、どれほどありがたかったかと、おかみの神原るみ子さんに礼をいった。
   [中略]
 「久百々」の夕食はコイカの煮物、臭木の若葉や虎杖の若芽をいためたもの、ブロッコリーの酢味噌などで、できるだけ青いもの、新鮮なものを多く、という心遣いのある献立だ。あまりご飯の味がいいので、尋ねた。
 「ええ、お遍路さんにはできるだけいい米をと思って、家の田んぼで父や私たち夫婦で作っているんです。ええ、無農薬でつくっています」
 おかみさんは、朝、出発する人に梅干し、沢庵入りの握り飯をお接待する。
 「このごろは米作りも大変なんです。猪が苗を食べにくるようになったし、猿やハクビシンもくるし…」
 「いなかにあるもの、季節のものを材料にして、よそゆきの料理ではなく、家庭の味がだせたらと思っているんです」
 神原さんがいった。虎杖も臭木も家の近くにあるものだ。
 民宿のおかみになったころは「仕事がきらいでした」と神原さんはいう。
 「私は知識もないし、料理はへただし、どういう方が見えるか分からないし、それがいやでした。でも、あるとき「まごころで接すればいいんだ」と思い、そう思ったら楽になって、笑顔がでるようになったんです。商売していて、お客さんに喜んでもらえるのが一番うれしいですね」
  [中略]
 「久百々」を発つ。次は高知県の最後の霊場、三十九番延光寺だ。
 私の忘れ癖はもう友人の間では有名で「タツノオトシゴ」といわれていると、どこかに書いたことがある。寺に大切な金剛杖を忘れて、おおいにあわてて往復四、五キロのところを取りに戻ったこともある。この朝も、いい気分で歩いているうちに、タツノオトシゴをしてしまったことに気づいた。同行二人の菅笠を宿に置き忘れたのだ。歩きはじめて二キロほどか。またか、と苦笑しながら踵を返した。
 が、なんということだろう。「久百々」のおかみさんが魔法のように車で現れ「わすれものー」と大声で叫んでいる。玄関わきの棚の上にあったのに気づき、車で追いかけてくれたのだった。


 「ニュー民宿中村」から「民宿久百々」22.2km。
 「ペンションひらの」から「民宿久百々」21.3km。
 中村からだと4kmのところにローソンがあり、そこから9km先にドライブイン水車があり用を済ますことができます。水車の4km先にあるローソンが食料を調達できる最後のポイントになります。
 「民宿久百々」から「民宿田村」21.4km。鯨道に入ると40分前後の遠回りになります。38番のお参りの後はぜひ白山洞門の見学をお忘れなきよう。足摺ユースホステルのところから左の崖下に下っていきます。
 「民宿田村」から「民宿大岐の浜」19.7km。この距離は昨日歩いてきた半島の東側の道を打ち戻った場合の距離です。西側の中浜万次郎の生家を通る道の場合は22.6kmになります。この距離は赤線のある松尾からの山道に入らずそのまま県道27号のバス道を進んだ場合の距離になります。このバス道の途中には竜宮神社があって恰好の絶景パワーポイントになっています。バス停臼碆のところから鳥居をくぐって海岸に下りていきます。これくらいの遠回りなら楽に行けると思います。この日は札所もないことだし。
 「民宿大岐の浜」から「農家民宿今ちゃん」19.7km。この日は距離が短めで真念庵に寄ることができます。宿から5km先のローソンとローソンから4km先のドライブイン水車(バス停市野瀬の側)が用を済ませられるポイントです。その先は成山に休憩所はありますが宿までトイレはありません。「くろうさぎ」の方の道は宿まで15km以上ないので新しいモデルプランから外しました。
 「農家民宿今ちゃん」から「米屋旅館」21.5km。「まなべ旅館」は評判はいいけど8800円、高いしお遍路さんの対応もホテルのような感じでうれしいものではない。一国打ちの最後はお遍路さんをお遍路さんとして迎えてくれる「米屋旅館」以外は考えられない。