万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

”母の日”を前に「天安門の母」を軟禁する中国

2014年05月10日 15時43分45秒 | アジア
「天安門の母」の中心人物、事実上の軟禁(読売新聞) - goo ニュース
 南シナ海における中国のベトナムに対する横暴な行動の背景には、一党独裁体制における政治腐敗、ウイグル情勢の緊迫化、不動産バブルの崩壊…といった国内問題の深刻化が指摘されています。周辺諸国に対する威圧的な行動によって国民の不満を逸らそうという策略ですが、その一方で、国内においては、人権派や民主派に対する締め付けを強めてきています。

 明日は”母の日”ですが、中国当局は、天安門事件で犠牲となった学生達の母親の一人であり、遺族の会である「天安門の母」の活動の中心となってきた丁子霖さんを軟禁状態に置いたと報じられております。母の日は世界各地で様々な形で祝われてきましたが、5月の第二週の日曜日を”母の日”として祝う現代の行事は、20世紀初頭のアメリカに始まります。中国でも、非公式ではあるものの、この日を”母の日”とし祝い、カーネーションを贈るといった習わしが国民の間で広がってきているそうです。ところが、最近、共産党サイドから、欧米が発祥の地であることに反発してか、教育熱心な賢母として知られる孟母を祝う日に置き換え、贈る花もカーネーションではなくユリにしようとする運動が起きていると言います。こうした流れからしますと、中国が”母の日”を前にして「天安門の母」を軟禁したことにも、欧米の価値観に対する反感が読み取れます。民主化や自由化もまた、欧米を起源とする”母の日”と同様に、中国にとりましては拒絶すべき対象なのでしょう。

 ところで、17世紀のイギリスにおける”母の日”とは、奉公に出ていた子供が、年に一度だけ教会で母に会うことができる特別の日であったそうです。天安門事件で子を亡くした母は、この世で子と再会することはできず、中国の未来を信じて命を捧げた子の意思を受け継いで、懸命に中国政府と闘っております。将来の中国において、「天安門の母」が中国国民から尊敬を受け、天安門事件で犠牲となった学生たちが追悼される日が訪れることを、願ってやまないのです。

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コメント (2)
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