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●科学技術ニュース●理研と北海道大学、冬眠の仕組みの一端を数理モデルで解明

2024-08-29 10:15:50 |    生物・医学
 理化学研究所(理研)数理創造プログラムの儀保 伸吾 特別研究員、黒澤 元 専任研究員、北海道大学 低温科学研究所の山口 良文 教授らの国際共同研究グループは、冬眠を行う哺乳類に見られる大きな体温変動の背後に、信号の周波数を変化させて伝えるFMラジオのように周波数(体温の周期変動)を変化させる仕組みが存在することを発見した。

 哺乳類の中には、食料が限られ気温低下に見舞われる冬を生き延びるために、冬眠を行う種がいる。冬眠中の体温は、環境温度近くまで低下するが、この低温状態が冬眠中ずっと継続するわけではなく、環境温度に近い低温と通常の体温の間を何度も変動する。この大きな体温変動は冬眠の重要な部分だが、その生理学的な意味や制御のメカニズムは十分に理解されていない。

 同国際共同研究グループは、長期かつ高解像度の体温データセットに対応する数理モデルを探索することによって、冬眠中の大きな体温変動が短い周期(数日)と予想外に長い周期(数百日)の相互作用によって支配されており、そうした周期の変動(周波数)が徐々に変化していくこと(周波数変調)を発見した。

 この結論はシリアンハムスターとジュウサンセンジリスという異なる2種類の冬眠動物について導かれた。

 これは複数の冬眠動物において、冬眠中の大きな体温変動の背後に「周波数変調」というシンプルで共通の原理が存在することを初めて示した成果。

 同国際共同研究グループは、動物が冬眠するときの体温変化を詳しく調べモデルを用いて検証する手法を確立した。

 この研究は、今後いろいろな動物がどうやって冬眠するのかを比べたり、冬眠の仕組みに迫ったりする上での手掛かりになる。

 具体的には、体の中の遺伝子やタンパク質が変化した個体を冬眠させた際に、今回の研究で見いだした数理モデルに含まれる細かな設定(短い周期や長い周期など)の値がどのように変化するかを調べることが可能になる。これにより、冬眠の仕組みに関わる遺伝子やタンパク質の発見や、それらの働きの理解が進むことが期待できる。

 今回の研究は、冬眠の際に大幅な体温変動を伴うシリアンハムスターとジュウサンセンジリスで行われた。大型のヒグマやツキノワグマなど、他にも冬眠する動物がたくさんいる。これらの動物の冬眠の際の体温変動パターンを調べる上でも、今回用いたアプローチが有用かどうかの検証も興味深い課題。

 今後さらに研究を進めることで、冬眠中に体の中でどんなことが起こっているのか、また、どうやって冬眠するように進化したのかが解明されることが期待される。<理化学研究所(理研)>
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