“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「意味がわかるAI入門」(次田 瞬著/筑摩書房)

2023-12-29 09:37:33 |    人工知能(AI)



<新刊情報>



書名:意味がわかるAI入門~自然言語処理をめぐる哲学の挑戦~

著者:次田 瞬

発行:筑摩書房

 「AIは言葉の意味を理解している」―2020年に行われた調査で、回答者の半数近くがこのように回答した。22年に公開されたChatGPTは、当時より一層自然な受け答えが可能だ。はたして現在のAIは言葉の意味を理解しているのだろうか。そもそも意味を理解するとはいかなることなのか―。AIの開発史をたどりながら、現在のAIを支える大規模言語モデルのメカニズムを解き明かし、深い霧に包まれた「意味理解」の正体に一歩ずつ迫る。哲学者によるスリリングなAI入門。【著者】次田 瞬:1984年神奈川県生まれ。博士(文学)。現在、名古屋大学大学院情報学研究科特任助教。専門は心の哲学、言語哲学。著書に「人間本性を哲学する――生得主義と経験主義の論争史」(青土社)、翻訳書に「予測する心」(共訳、勁草書房)がある。
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●科学技術ニュース●NEC、生成AI「cotomi(コトミ)」の強化・拡充と共に生成AI事業戦略を発表

2023-12-29 09:37:12 |    人工知能(AI)
 NECは、高い日本語性能を有する軽量なNEC開発のLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)「cotomi」を性能強化・拡充し、「NEC Digital Platform」として展開を開始する。

 具体的には、2024年春からNECが持つ業種・業務ノウハウをもとにした特化モデルを中核にユーザーのビジネスに応じて、最適な生成AIの利用環境を提供する。

 これにより、医療・金融・自治体・製造業などの各業種で、現在の業務を変革する環境が飛躍的に広がる。

 NECは今後、各業種・業務の変革を推進する特化モデルの整備に注力し、マネージドAPIサービスを通じて適用範囲を個別の企業から、産業や業種全体へと生成AIの活用を推進する。

 今回、品質の良い学習データ量の倍増により、NEC開発のLLM「cotomi」を強化し、日本語対話能力の比較評価(Rakuda)において国内外トップクラスのLLM 群を上回ることを確認した。

 さらに長文処理能力は他社比最大150倍の30万字まで対応可能となり、これにより、社内外の業務文書や社内マニュアルなど膨大な量の文書を扱う幅広い業務への活用を実現する。

 また、入力データやタスクに応じて柔軟にモデルを組み合わせ、新たなAIモデルを創り出す「新アーキテクチャ」を開発中。

 パラメータ数の規模を拡大し、機能を拡張できるスケーラブルなファウンデーションモデルの確立を目指す。

 具体的には、性能劣化なく小型から大型までモデルサイズを拡大でき、法律や医療などの専門AIや他社やパートナーのモデルを組み合わせるなど、柔軟に多様なAIモデルと連携が可能。また、小型で省電力なため、エッジデバイスへの搭載が可能になる。さらに、NECの世界トップクラスの画像・音声技術、センシング技術と融合することで、実世界のさまざまな事象を高精度かつ自律的に処理できる。

 なお、NECでは、従来のパラメータ数130億クラスのモデルを大きく上回る1,000億クラスの大規模モデルの開発も並行して開始している。

 これらの取り組みを通じてNECは、生成AI関連事業において、今後3年間で約500億円の売り上げを目指す。<NEC>
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●科学技術ニュース●分子研、量子コンピュータの手法を量子シミュレータへ応用し大規模な「量子もつれ」の超高速量子シミュレーションに成功

2023-12-29 09:36:20 |    物理
 分子科学研究所の素川靖司助教(研究当時、現・東京大学大学院総合文化研究科 准教授)、Vineet Bharti研究員、溝口道栄大学院生(研究当時)、大森賢治教授らの研究グループは、ほぼ絶対零度に冷却した3万個の原子を0.5ミクロン間隔で格子状に整列させ、10ピコ秒(ピコ = 1兆分の1)だけ光る特殊なレーザー光で高精度に操作することによって、磁性材料の超高速量子シミュレーションに成功した。

 同研究グループが2022年、世界に先駆けて実現した全く新しい「超高速量子コンピュータ」の手法を、量子シミュレータへ応用したもので、これまで量子シミュレータにとって最大の懸念であった外部ノイズの問題を解決できるなど、この新しい「超高速量子シミュレータ」が画期的なプラットフォームであることを実証する成果。

 今後、さらなる高度化を行い、機能性材料の設計や社会問題の解決へ貢献することが期待される。

 同実験は、ルビジウム原子を使って行われた。

 まず、レーザー光を用いた特殊な冷却方法を用いて気体のルビジウム原子3万個を絶対温度1ケルビンの1000万分の1以下の超低温に冷やし、これを光格子と呼ばれる格子状に整列した光トラップ列で0.5ミクロン間隔に並べて人工結晶を作った。

 さらに、100億分の1秒だけ光る超短パルスレーザー光を照射し、原子の5s軌道に閉じ込められた電子を巨大な35d電子軌道(リュードベリ軌道)にたたき上げて、どのような変化が起こるかを観察した。

 すると、離れた原子の間に働く巨大な相互作用によって、量子力学的な粒子に特有の相関である「量子もつれ」が数百ピコ秒スケール(ピコ = 1兆分の1)で形成されていく様子が観測された。

 今回、冷却原子型ハードウェアで達成した磁性材料の超高速量子シミュレーションは、ほぼ絶対零度に冷却した3万個の原子配列を超高速レーザーで操作する分子研独自の方式によって世界で初めて実現したものであり、超高速量子シミュレータが画期的なプラットフォームであることを実証するもの。

 新たに同研究グループが開発した革新的な超高速量子シミュレータを、今後さらに高度化することで、磁性などの物質の物理的な性質の起源を解明し、飛躍的な機能を示す量子材料(量子力学的な効果を利用する次世代デバイスや機能性材料)の設計指針を与え、材料開発にイノベーションを起こすことが期待される。

 また、量子コンピュータ・量子ネットワークに必要不可欠なリソースである「量子もつれ」を、将来の実用レベルに近い大規模なシステムで理解することで、量子テクノロジーの発展に貢献することが期待される。

 さらに、スパコンでも解くことが難しい社会問題を量子力学的な効果を利用してシミュレートし、物流や交通渋滞、電力輸送などの社会課題を解決するツールとしても発展していくことが期待される。<分子科学研究所(分子研)>
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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「幾何学百科Ⅲ 力学系と大域幾何」(浅岡正幸、志賀啓成、大鹿健一著/朝倉書店)

2023-12-29 09:32:36 |    数学



<新刊情報>



書名:幾何学百科Ⅲ 力学系と大域幾何

著者:浅岡正幸、志賀啓成、大鹿健一

発行:朝倉書店

 現代の幾何学、トポロジー、力学系などの広い範囲の数学に強く影響を及ぼしながら発展する分野の中から、特に重要かつ現在も活発に発展を続ける力学系的な広がりのある幾何学を取り上げ、3つのテーマを独立した3つの章で構成し各々第一人者が解説。【内容】アノソフ系と多様体上の双曲力学系/複素力学系/ラージスケール幾何学
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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「日本のエネルギーまるわかり」(塙 和也著/日本経済新聞出版)

2023-12-28 10:34:54 |    エネルギー



<新刊情報>



書名:日本のエネルギーまるわかり

著者:塙 和也

発行:日本経済新聞出版(日経文庫)

 「脱炭素のスピードが速すぎる」。日本企業の思いを代弁するとこういう言葉になるだろう。欧州では、2020~30年代までに石炭火力発電をゼロにするなど、50年のカーボンニュートラルに向けて順調にスキームをこなす一方、日本はいまだ東日本大震災の影響が残り、原発再稼働に向けて動き出したばかりだ。燃費の規制などで国が主導する欧州に比べ、日本ではまだ企業の自助努力に頼るばかり。コロナ規制でも国家が全面に出てきた欧米と違って、日本は「お願い」に頼る場面が多く、脱炭素対応では先進国の中でも一周も二週も遅い状況となっている。日本は「GX経済移行債」などの取り組みが始まったばかり。菅前首相が発表した「2030年に温暖化ガス削減目標を46%(13年度比)」を確実に達成していくことが第一関門となる。同書は、日本のエネルギー政策、脱炭素の取り組みを体系的にまとめた入門書。現場取材を通した姿を描く。
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●科学技術ニュース●日東電工とエア・ウォーター、バイオマス由来のCO2からギ酸を製造する取り組みを開始

2023-12-28 10:34:23 |    ★バイオニュース★
 日東電工(Nitto)とエア・ウォーターは、Nittoが有するCO2の化学変換技術を活用し、家畜ふん尿バイオマス由来のCO2から牧草の保存に使われるギ酸(化学式<HCOOH>で表される有機酸製品)を製造する取り組みを開始した。

 同取り組みは、国内有数の家畜ふん尿の処理施設である鹿追町環境保全センターにて実施し、家畜ふん尿由来バイオガスから水素を製造・販売する株式会社しかおい水素ファーム(本社:北海道河東郡鹿追町)から各種ガスを供給する。このたびの協業を通じ、CO2の利活用ならびに大気中のCO2を減らす取り組みを加速する。

 製造したギ酸は、酪農地域でサイレージの添加剤などに利用されるため、CO2の有効利用による社会課題の解決と経済価値の創造の両立に貢献する。

 両社は、技術実証と並行して、酪農地域の特性を最大限に生かした家畜ふん尿由来の水素エネルギー及び環境負荷の低いギ酸の活用や普及に向けた取り組みを、自治体や地域社会とともに進めることで、サステナブルな社会の実現に貢献する。(エア・ウォーター)
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●科学技術ニュース●分子研、キラル光学効果による光の力を検出しナノスケールでの物質構造の左向き、右向きを観測することに成功

2023-12-28 10:33:51 |    化学
 分子科学研究所の山西絢介特任助教、AHN Hyo-Yong特任助教、岡本裕巳教授らの研究グループは、キラルな金ナノ構造体に円偏光を照射し、その近くを動かした探針に働くキラル光学効果による光の力を検出することで、ナノスケールでの物質構造の左向き、右向きを観測することに成功した。

 この結果によって、光を用いたナノスケールでの物質のキラリティ構造解析ができること示した。

 キラルとは、物質の構造が、その鏡写しにした構造と同じにならない性質を表す。左手と右手は鏡写しの関係で、重ならない構造(同じにならない)なのでキラル。

 キラルな物には、右手系と左手系の区別が生じる。生命を構成する多くの物質はキラルで、右手系か左手系のいずれかしか天然に存在しないことがしばしばある。また、新しい機能を持つ物質でも、そのキラルの性質が重要な役割を担うことがある。

 こういったキラルな物質の特徴の一つとして、右回りの円偏光と左回りの円偏光に対して異なる応答を示すこと(キラル光学効果)が知られている。一方で、これまでキラルな物質の近くで生じるナノスケールでのキラル光学効果の観測は実現されていなかった。

 同研究では、光が照射された物体にかかる微小な「光の力」を検出する光誘起力顕微鏡(OF-PiFM)によって、ナノスケールのキラル光学効果を観測した。

 OF-PiFMを用いれば、ナノスケールでのキラル光学効果を観測できると理論的には考えられていたが、実際に観測された例はなかった。

 同研究グループは、OF-PiFMによって、右回り及び左回りの円偏光を照射されたキラルな金ナノ構造体近くで、力検出用探針に誘起される力を検出することで、ナノスケールでのキラル光学効果を観測することに成功した。

 同研究結果において、ナノスケールでのキラル光学効果が観測できることが示され、様々なナノスケールの単一物質のキラル構造解析の可能性が示された。今後は、生体分子などを対象に単一分子の構造解析への応用展開が期待される。<分子科学研究所(分子研)>
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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「楕円曲線の数論<原著第2版>」(Joseph H. Silverman著/共立出版)

2023-12-28 10:33:19 |    数学



<新刊情報>



書名:楕円曲線の数論<原著第2版>~基礎概念からアルゴリズムまで~

著者 :Joseph H. Silverman

訳者:鈴木 治郎

発行:共立出版

 シルヴァーマンの楕円曲線の名著、待望の邦訳。ジョセフ・H・シルヴァーマン(Joseph H. Silverman)は、楕円曲線に関連して、初級レベル相当の「Rational Points on Elliptic Curves」(ジョン・テイト(John Tate)との共著)、中級レベル相当の「The Arithmetic of Elliptic Curves」、上級レベル相当の「Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves 」という3冊の書籍を執筆した。このうち、1冊目と3冊目は「楕円曲線論入門」および「楕円曲線論概説」としてすでに和訳されており、現在は丸善出版より刊行されている。ところが2冊目の「The Arithmetic of Elliptic Curves 」は、1986年の初版以降、2008年に第2版が出版されてもなお和訳されずにいた。同書は、その第2版の待望の邦訳であり、楕円曲線の数論的性質に関する標準的なテキストである。
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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「2050年の世界」(ヘイミシュ・マクレイ著/日本経済新聞出版)

2023-12-27 09:34:18 |    科学技術全般



<新刊情報>



書名:2050年の世界~見えない未来の考え方~

著者:ヘイミシュ・マクレイ

訳者:遠藤 真美

発行:日本経済新聞出版

 豊富なデータと経済学、地政学、歴史的な洞察を通じ、ヨーロッパを代表するジャーナリストが、2050年の驚くべき現実を大胆に予測。世界の主要地域、グローバルな重大テーマに即して歴史と現状を整理し、さまざまな見方を紹介しつつ、30年後の見えない未来について、丁寧に論じ尽くす。20世紀の社会構造と冷戦後の世界秩序が崩壊し、世界に大きな変化が押し寄せつつあるいま、誰もが世界の先行きに関心を持たざるをえない。人口、気候変動、エネルギー、民主主義、格差、テクノロジー、地政学的変化――。世界を揺るがすこれらの問題は、この先どうなるのか? 日本、アメリカ、中国、ヨーロッパの未来は?同書は、人々が知りたい「その先」を、ファクトとバランスのとれた展望をもとに徹底解明。世界的ベストセラーとなった「ファクトフルネス」の著者ハンス・ロスリングのように、同書では専門家ほどネガティブな誤った認識を抱きがちだという「専門家バイアス」の問題を指摘し、ファクトに基づいたポジティブな見通しを重視する。
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●科学技術ニュース●シャープ、東北大学と共同で量子アニーリング技術を応用した自動搬送ロボットの多台数同時制御に関する研究を開始

2023-12-27 09:33:50 |    ロボット工学
 シャープは、東北大学と共同で、量子コンピューティング技術の一種である量子アニーリングを応用した自動搬送ロボットの多台数同時制御に関する研究を開始した。

 物流倉庫における千台規模の自動搬送ロボットの最適経路を、瞬時に計算可能な高速計算機の開発に取り組む。

 同社は、自社および他社向けの生産設備の開発で培った技術をベースに、自動搬送ロボットの開発を20年以上前から手掛けており、独自の集中制御システム「AOS(AGV Operating System)」により、現時点において最大500台までの自動搬送ロボットの同時制御を実現している。

 東北大学は、量子アニーリングをはじめとする量子コンピューティング分野における有数の研究・教育機関であり、さまざまな社会課題解決に向けた実装化への取り組みを強力に推進している。

 今回ターゲットとする物流業界では、ECの拡大などを背景にした取り扱い量や品種の増加に加え、「2024年問題」により、人手不足の深刻化が見込まれており、さらなる多台数の自動搬送ロボットを活用した省人化・効率化へのニーズが急速に高まっている。今回、両者の強みを融合することで、物流倉庫における劇的な生産性向上に貢献する技術の共同開発を行うことで合意した。

 量子アニーリングは、膨大な組み合わせパターンから最適解を高速で導き出すのに適した計算技術。同研究・開発では、量子アニーリングの計算方法を汎用コンピュータ上で疑似的に再現する「シミュレーテッド量子アニーリング(SQA)」技術を応用する。

 一般的に、自動搬送ロボットが一台増えると、最適経路の計算量は指数関数的に増大することから、千台規模を一元管理するための計算には数日を要してしまうため、実用化が困難であった。

 今回、開発を目指す高速計算機は、汎用コンピュータによる通常の処理と比べて数百から数千倍の速度での計算が可能になり、千台規模の自動搬送ロボットの最適経路も瞬時に計算することができる。

 取り扱う商品が多量・多品種化し、倉庫内のロボットオペレーションが複雑化する中、大規模倉庫における自動搬送ロボットの多台数同時制御を実現。さらにはピッキングの順序や商品配置、倉庫全体のレイアウト設計などにも応用することで、倉庫運営効率の大幅な向上に貢献する。

 2024年度中に試作機を用いた実証実験を行い、2025年度中の実用化を目指す。<シャープ>
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