“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「誰が本当の発明者か」(志村幸雄著/ブルーバックス)

2012-05-28 10:32:45 |    科学技術全般

書名:誰が本当の発明者か

著者:志村幸雄

発行所:講談社

発行日:2006年8月20日第1刷発行

目次:序章 なぜ発明者の特定がむずかしいのか
    第1章 発明か改良かをめぐる攻防
          蒸気機関 先行発明を超えたワットの彗眼
       自動車 ドイツvsフランスの意地の張り合い ほか 
    第2章 特許裁判が分けた明暗
       映画 エジソンの権謀術策
       電話 脅かされたベルの偉業 ほか
    第3章 巨人の影に泣いた男たち
       水力紡績機 アークライトは「発明の盗人」か
       白熱電球 発明王に飲み込まれたスワンの独創 ほか
    第4章 国の威信をかけた先陣争い
       無線電信 西のマルコーニvs東のポポフ
       アドレナリン 濡れ衣を着せられた高嶺譲吉 ほか
    第5章 並び立つ発明者
       コンピューター 歴史的大発明に水を差す先行発明
       トランジスター 天才ショックレーの大ミステーク ほか

 近年は、特許制度の普及で発明者を特定することは比較的容易だが、まだ特許制度が普及していなかった時代においては、発明者が誰であるかを特定することは、そう簡単なことではない。映画は誰が発明したのか?電話は誰が発明したのか?と改めて問われると意外に返答に窮してしまう。

 特許制度が完備した最近ではどうかというと、中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授が、青色発光ダイオードの発明で、日亜化学工業を相手に訴訟を起こした事件はまだ記憶に新しい。ことほど左様、現代においても誰が真の発明者であるかを特定するのは簡単ではない。

 そもそも発明とは何かを定義しないと話が前に進まない。我々は学校教育を受けてきたわけであるが、その学校教育の内容はというと、先人の“発明”のエキスを吸収しているのである。つまり模倣である。有名な葛飾北斎の富岳三十六景の神奈川沖之波裏は、同時代の名工であった波の伊八の行元寺の欄間の構図と瓜二つである。葛飾北斎はこの欄間を見ていたとも言われている。

 葛飾北斎は、この絵で世界的に名を知られたが、波の伊八の名を知る人は日本人でもそう多くはない。つまり、模倣と独創(発明)は紙一重のところにあるといって過言でなかろう。志村幸雄著「誰が本当の発明者か」(ブルーバックス)は、そんな微妙な発明20例について、その背景を解明しており、改めて発明とは何かを考えさせられる。(勝 未来) 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■宇宙は何でできているのか」(村山 斉著/幻冬舎)

2012-05-21 11:14:56 |    宇宙・地球

書名:宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―

著者:村山 斉

発行所:幻冬舎

発行日:2010年9月30日第1刷発行

目次:序章 ものすごく小さくて大きな世界
     宇宙という書物は数学の言葉で書かれている
     10の27乗、10のマイナス19乗の世界
     世界は「ウロボロスの蛇」

    第1章 宇宙は何でできているのか
     リンゴと惑星は同じ法則で動いている
     リンゴの皮の部分に浮かぶ国際宇宙ステーション
     「4光時」の冥王星まで20年かかったボイジャー   ほか
 
    第2章 究極の素粒子を探せ!
     皆既日食で証明されたアインシュタイン理論
     なぜ見えない暗黒物質の「地図」がつくれるのか
     遠くの宇宙を見るとは昔の宇宙を見ること  ほか
 
    第3章「4つの力」の謎を解く - 重力、電磁気力
     重力、電磁気力、強い力、弱い力
     力は粒子のキャッチボールで伝達されると考える
     質量はエネルギーに変えられるという大発見 ほか
 
    第4章 湯川理論から、小林・益川、南部理論へ - 強い力、弱い力
     未知の粒子の重さまで予言していた湯川理論
     湯川粒子はアンデス山頂で見つかった
     新粒子発見ラッシュで研究者たちは大混乱 ほか
 
   第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎
     ゴールに近づいたと思ったらまた新たな謎
     暗黒物質がなければ星も生命も生まれなかった
     「超ひも理論」は夢の「大統一理論」を実現するか? ほか

 著者の素粒子論を専門とする村山斉氏は、現在、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の機構長の要職に就いている。このカブリとは、米国カブリ財団の名称で、同財団の寄附による基金設立を受け、2012年4月より新たな名称で研究活動をスタートさせた。このKavli IPMU(カブリ・イプムー)は、最先端を行く数学者、理論物理学者、実験物理学者、天文学者からなる研究者のグループを形成している。

 ここで不思議に思えるのは、数学はともかく、「物理学者=素粒子」と「天文学者=宇宙」とが同じ研究所で研究していることだ。素粒子とは極小の世界を研究することだし、一方宇宙は極大の世界を研究することで、この2者は両極端にいるはずであり、互いに机を並べて研究することはないはずなのだ。実はこの謎が、この村山 斉著「宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎―」(幻冬舎新書)のテーマそのものとなっている。

 今我々が住む宇宙は、137億年前にビックバンによって生まれたが、そのスタートの時を追究していくと素粒子の研究に行き着くし、その後宇宙は膨張していったわけで、こうなると天文学なくして解明できない。「宇宙の起源を知ろうと思ったら、素粒子のことを理解しなければならない」と村山氏は説く。これはちょうどギリシャ神話に登場する、自分の尾を呑み込んでいる蛇である「ウロボロスの蛇」を思い起こさせる。

 つまり、自然界の両極端にあるように見えながら、この2つは切っても切れない関係にあるのである。「いま起きている宇宙論の変化は、『天動説』から『地動説』への転換に匹敵するほどのインパクトがある」と言う村山氏が、最先端の素粒子論と宇宙論の2つを難しい数式を使わず、誰でもが理解できるように書き記したのが同書である。もうこれ以上易しく解説するのは不可能では、といった感じすら受けるほど丁寧に書かれた、最先端を走る科学者自身による本である。(STR:勝 未来)

 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「99.9%は仮説」(竹内薫著/光文社新書)

2012-05-15 10:46:42 |    科学技術全般

書名:99.9%は仮説―思いこみで判断しないための考え方―

著者:竹内薫

出版社:光文社

発行日:2006年2月20日初版第1刷発行

目次:プロローグ 飛行機はなぜ飛ぶのか? 実はよくわかっていない
    第1章 世界は仮説でできている
    第2章 自分の頭のなかの仮説に気づく
    第3章 仮説は180度くつがえる
    第4章 仮説と真理は切ない関係
    第5章 「大仮説」はありえる世界
    第6章 仮説をはずして考える
    第7章 相対的にものごとをみる
    エピローグ すべては仮説にはじまり、仮説におわる

 この竹内薫著「99.9%は仮説―思いこみで判断しないための考え方―」(光文社新書)は、発売当時話題となり、マスコミでも取り上げらるケースが多かったので、お読みになった方も多かろう。量子論だとか、超ひも理論だとかの最新の科学技術にまつわるテーマは、一般の市民にとって、直接触れることのできない世界の話であり、かといって専門技術書を読んでも難解で分りづらい。

 そんなこともあり、科学技術の話は専門家にまかせておけばいい、といったことに落ち着くのが関の山だ。しかし、原子力発電や地球温暖化の問題が現実になってくると一般市民だからといって、知らないで済む話でもなくなってきつつあるのが現代だ。そこで一般市民の目線で、専門の科学技術者はいったいどんな思考方法をしているのかを、やさしく解き明かしたが同書である。

 最初のプロローグで「飛行機はなぜ飛ぶのか? 実はよくわかっていない」からしてぎょっとさせられる。何時も乗っている旅客機の飛行原理が実は専門技術者にもよく分っていないらしいのだ、と。著者は、天才物理学者のリチャード・ファインマンの言葉「科学はすべて近似にすぎない」を紹介し、「科学と真理は、近づくことはできてもけっして重なることはできない、ある意味とても切ない関係なんです」「そもそも科学革命というのは、古い仮説を捨てて新しい仮説に引っ越す作業にほかならないのです」と言う。

 アインシュタインは、当時信じられたいた“エーテル仮説”を否定し、“相対性理論”を打ち立てた。ところが現代に入ると、今度はエーテルに代わり、真空を満たす“ヒッグス場”が新たに登場し、最近になりその存在が実証されつつある。そんな摩訶不思議な科学技術の世界を一度は覗いてみたいと思う人にとって、同書は最適な書と言える。(勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「アフリカで誕生した人類が日本人になるまで」(溝口優司著/ソフトバンク)

2012-05-07 10:43:48 |    生物・医学

書名:アフリカで誕生した人類が日本人になるまで

著者:溝口優司

発行所:ソフトバンク クリエイティブ(ソフトバンク新書)

発行日:2011年5月25日 初版第1刷発行

目次:第1章 猿人からホモ・サピエンスまで、700万年の旅
        1 人類と類人猿の間にある一線とは?
     2 1000万年~700万年前、最初の人類がアフリカで誕生した
     3 美食の猿人は生き残り、粗食の猿人は絶滅した!?
     4 猿人と原人、双方の特徴を持つホモ・ハビリス
     5 原人はアフリカで誕生し、アフリカを出た
     6 謎のホビット、ホモ・フロレシエンシス
     7 ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは、同時代を生きていた!
     8 十数万年前、ホモ・サピエンスがアフリカで生まれた
    
   第2章 アフリカから南太平洋まで、ホモ・サピエンスの旅
     1 北京原人が現代中国人になった、わけではない
     2 人類はいつ、どのようにしてアフリカを出たのか?
     3 ホモ・サピエンスがヨーロッパにたどり着くまで
     4 南下したホモ・サピエンスは、どのようにしてオーストラリアに渡ったのか?
     5 シベリアからアラスカへ、渡ったのは氷、それとも海?
     6 最後の未開拓地、南太平洋の島々

   第3章 縄文から現代まで、日本人の旅
     1 日本列島にホモ・サピエンスはいつ頃やってきたのか
     2 最初に日本に来たホモ・サピエンスが、縄文人になったのか?
     3 縄文人は、いつ、どこから日本列島にやってきたのか
     4 背が高く、顔が長い弥生人
     5 弥生人は、いつ、どこからやってきたのか
     6 日本人はこうしてできた!
     7 弥生から古墳時代へ、そして現代へ

 今、地球上のいたるところに住んでいる人類も、その祖先は元をただせばアフリカで生まれたホモ・サピエンスであったという。でも、今の我々日本人の体型はアフリカ人に似てはいないし、欧米人とも似ていない。それではどうして同じ人類なのにこうも異なる体型が生じたのか。こう開き直って訊かれても多くの人は返事に窮するであろう。

 そんな時、このような素朴な疑問に答えてくれるのが同書である。例えば、我々日本人は、西欧人の鼻が高いところに一種の憧れの感情で眺めることが多い。しかし、次のような解説付きで西欧人の顔を眺めれば従来とは違った見方が生じてくるかもしれない。つまり、西欧人の鼻が高いのは、もともと住んでいた土地が寒冷地であり、なるべく鼻を高くして(長くして)吸い込んだ空気を暖める必要性があったためという。

 我々人類の祖先は、6500万年前に出現したサル(霊長類)であるという。そのサルが、2500万年前にテナガザル、1700万年前にオラウータン、1000万年前にゴリラ、そして700万年前にチンパンジーと枝分かれして行った。

 その後の空白期間を経て、16万年前にホモ・サピエンス(新人)が生まれて、現在の我々と繋がるのである。同書は、まことに複雑で壮大な人類誕生の歴史をコンパクトに解説してあり、読み終えた後は、爽快であると同時に何か厳粛な気分にさせられる。(STR:勝 未来)

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