“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「ゲノム編集とはなにか」(山本 卓著/講談社)

2020-08-31 09:48:31 |    生物・医学

 

<新刊情報>

 

書名:ゲノム編集とはなにか~「DNAのハサミ」クリスパーで生命科学はどう変わるのか~

著者:山本 卓 

発行:講談社(ブルーバックス)

 ゲノム編集は、生物のもつ全ての遺伝情報であるゲノムを正確に書き換える技術である。この技術は、ヒトを含む全ての生物で使うことができることから、研究の世界だけでなく、産業界、さらには医療の世界を大きく変えようとしている。しかし一方で、ゲノム編集がどんな技術であるのか、遺伝子組換えとの違いはどこにあるのか、安全性はどのように考えられているかなど、一般への理解が進んでいないのが現状である。ライフサイエンスの研究者でも技術を十分に理解できていないのが実情だ。このように理解が進んでいない原因は、ゲノム編集技術の開発スピートが非常に速く常に新しい技術が生まれていることや、技術が広範な分野に及ぶため様々な分野で技術の捉え方が異なることが理由として考えられる。同書では、ゲノム編集とはどんな技術なのか、既存の遺伝子組換え技術とはどんな違いがあるのかを、まず紐解いていく。同書を読めば、2012年に開発されたクリスパー・キャス9が、なぜノーベル賞を取る技術と考えられているのが理解できるだろう。さらに、応用分野でどのようなことが可能であるのか、あるいは既に技術が開発されているのか、具体例をあげながら解説していく。

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●科学技術ニュース●官民の総力を挙げて自動「同時通訳」技術の研究開発コンソーシアムが発足

2020-08-31 09:47:49 |    情報工学

 総務省が2020年度より新規に実施する情報通信技術の研究開発課題「多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」の委託先として選定された凸版印刷、情報通信研究機構、マインドワード、インターグループ、ヤマハ、フェアリーデバイセズの6団体に、社会実証を担当する団体として東日本電信電話、ソースネクスト、KDDIテクノロジーの3団体を加え、合計9団体による「総務省委託・多言語翻訳技術高度化推進コンソーシアム」を8月28日に設立された。

 同コンソーシアムは、グローバルコミュニケーション計画2025の推進のため、既に実用化されている「逐次通訳」の技術を「同時通訳」の技術にまで高度化し、ビジネス等の場面での利活用を可能にすることを目指す。
 
 現在の音声翻訳技術は、発話者が一区切りの発話を完了したところで発話を停止し、一区切りの文章を通訳(逐次通訳)するもの。これに対して、「同時通訳」は、話者の発話が終了する前から通訳者が発話の一部を訳出することを繰り返すもの。

 同時通訳は、逐次通訳と比較して、発話内容が翻訳されて相手に伝わるまでの時間が短縮でき、さらに発話者が発話を中断する必要もない、という大きなメリットがある。

 しかしながら、現在の音声翻訳技術は、同時通訳には対応しておらず、加えて、文脈などの補足情報も反映することができず、「人間の同時通訳」には遠く及ばない。

 同コンソーシアムでは、AIによる「同時通訳」技術の研究開発を行い、社会実装に向けた実証と改良を推進する。(情報通信研究機構<NICT>)

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「光エネルギー変換における分子触媒の新展開」(日本化学会編/化学同人)

2020-08-31 09:35:22 |    化学

 

<新刊情報>

 

書名:光エネルギー変換における分子触媒の新展開~天然光合成を凌駕する反応系の構築を目指して~

編者:日本化学会 

発行:化学同人

 近年、地球環境や温暖化への世間の関心が高まるにつれ、これらへの影響を緩和するために、高選択性の分子触媒を開発しようとする動きが高まっている。これまでに知られている触媒の中で最も高選択的に反応を行わせることができる分子触媒は、生体触媒である酵素である。酵素では有機物であるタンパク質により、活性中心に近づくことができる反応基質の選択や、反応基質の配向が精密に制御されている。この酵素の活性中心を人工的な分子触媒へと置換することで、天然の酵素を凌駕するより高活性かつ高選択的な触媒を生み出そうとする試みがなされている。同書では、主にエネルギーに関連する分子触媒に関して、その機能統合化の観点から現状と課題をまとめ、今後を展望する。

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「この世界を知るための 人類と科学の400万年史」(レナード・ムロディナウ著/河出書房新社)

2020-08-28 09:36:07 |    科学技術全般

 

<新刊情報>

 

書名:この世界を知るための 人類と科学の400万年史

著者:レナード・ムロディナウ 

訳者:水谷 淳 

発行:河出書房新社(河出文庫)

 人類はなぜ科学を生み出せたのか? ヒトの誕生から言語の獲得、古代ギリシャの哲学者、ニュートンやアインシュタイン、量子の奇妙な世界の発見まで、世界を見る目を一変させる決定版科学史。

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●科学技術ニュース●理研など、世界初かつ唯一の30秒ごとに更新するゲリラ豪雨予報のリアルタイム実証実験を開始

2020-08-28 09:35:38 |    宇宙・地球

 理化学研究所(理研) 計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、情報通信研究機構 電磁波研究所リモートセンシング研究室の佐藤晋介研究マネージャー、大阪大学 大学院工学研究科の牛尾知雄教授、株式会社エムティーアイ ライフ事業部気象サービス部の小池佳奈部長、筑波大学 計算科学研究センターの朴泰祐教授、東京大学 情報基盤センターの中島研吾教授らの共同研究グループは、2020年8月25日から9月5日まで、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの超高速降水予報のリアルタイム実証実験を開始した。

 同研究成果は、近年増大する突発的なゲリラ豪雨などの降水リスクに対して、コンピュータ上の仮想世界と現実世界をリンクさせることで、超スマート社会Society 5.0の実現に貢献すると期待できる。

 同共同研究グループは、2016年にスーパーコンピュータ「京」とフェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)を生かした「ゲリラ豪雨予測手法」を開発したが、今回、この手法を高度化し、さいたま市に設置されている情報通信研究機構が運用する最新鋭のマルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP-PAWR) による30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、筑波大学と東京大学が共同で運営する最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)のスーパーコンピュータOakforest-PACSを用いて、リアルタイムで30秒ごとに新しいデータを取り込んで更新し、30分後まで予測する超高速降水予報システムを開発した。

 この予測データを、理研の天気予報研究のウェブページでは30秒ごとに分割して連続的に表示する。これまでの天気予報と比べて桁違いに速い速度で更新することにより、わずか数分の間に急激に発達するゲリラ豪雨を予測できる。このリアルタイム予報は世界初かつ唯一の取り組みで、研究開発に着手した2013年10月から継続してきたさまざまな成果の集大成。

 実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可のもと、理研の天気予報研究のウェブページ(https://weather.riken.jp/)およびエムティーアイのスマートフォンアプリ「3D雨雲ウォッチ」(https://pawr.life-ranger.jp/)で8月25日午後2時から公開。ただし、この予報は試験的に行うものであり、実用に供する気象予報に十分な精度や安定した配信環境が保証されたものではなく、利用者の安全や利益に関わる意思決定のための利用には適したものではない。(情報通信研究機構<NICT>)

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「量子コンピュータによる機械学習」(Maria Schuld、Francesco Petruccione著/共立出版)

2020-08-28 09:35:10 |    人工知能(AI)

 

<新刊情報>

 

書名:量子コンピュータによる機械学習

著者:Maria Schuld、Francesco Petruccione

監訳:大関 真之

訳者:荒井 俊太、篠島 匠人、高橋 茶子、御手洗 光祐、山城 悠

発行:共立出版

 同書は、機械学習の概観を知り、しかし優しい言葉でわかったような気になるのではなく、量子機械学習の枠組みに昇華させるために必要な数学的な要素や用語を押さえて、後で納得感が得られる伏線がしっかりと張られた心地よい構成になっている。量子力学の説明にしても、従来の教科書の記述が冗長であると喝破して、必要最小限の記述で、直接的に量子コンピュータ、量子機械学習へのガイドとなっているところは、急速に進化するこの分野における教科書としての位置付けが明確である証左とも言える。いわゆるゲート式,アニーリング式のどちらに偏ることもなく、これまでの研究で重要な起点、進展の重要なところを取り上げており、読み終わった後に現在の研究の最前線においても陳腐化しない知識を抑えることができる。同書はそうした量子機械学習の研究を始めるにあたり、それぞれの分野の研究者を始め、企業の開発者、大学院生、学部生が読み進めるのにちょうど良い難易度で、バランスよく両分野を意識した配置で書かれた良書である。

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「新型コロナウイルスを制圧する」(河岡義裕、河合香織著/文芸春秋社)

2020-08-27 10:05:09 |    生物・医学

 

<新刊情報>

 

書名:新型コロナウイルスを制圧する~ウイルス学教授が説く、その「正体」~

著者:河岡義裕、河合香織

発行:文芸春秋社

 冬に来る第2はさらに強毒化するのか?ワクチンはいつ開発されるのか?終息はいつになるのか?人類にとって、戦後最大の脅威となっている新型コロナウイルス。私たちはいかに、未知の感染症と向き合えばいいのか?著者の河岡義裕氏は東大医科学研究所ウイルス感染分野教授、同感染症国際研究センター長、ウイスコンシン大学獣医学部教授を兼任、世界で初めて新型インフルエンザの人工合成に成功し、エボラウイルスのワクチンも開発中の、ウイルス学の世界的権威である。そして一部を除いて、テレビなどメディアでの発言は避けてきた。その河岡教授が、新型コロナウイルスのワクチン開発や治療法、特効薬に関する最新の研究成果、有効な対策と無意味な対策、終息までの見通し、ウイルスの正体について、分かりやすく解説する。聞き手は昨年、大宅賞を受賞した気鋭のノンフィクション作家・河合香織氏。新型コロナウイルスを正しく理解する決定版。

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●科学技術ニュース●九州大学、ポリマー光変調器の高効率化に成功し世界最高速の光データ伝送を更新

2020-08-27 10:04:44 |    通信工学

 九州大学 先導物質化学研究所の横山 士吉 教授と呂 國偉 博士らの研究グループは、電気光学ポリマーを用いた超高速光変調器を開発し、毎秒200ギガビットの世界最高速の光データ伝送に成功した。

 同グループは、これまでにも毎秒100ギガビットの高速光変調の検討を進めてきたが、今回の研究成果では、さらに2倍の高速性を実現することができた。

 また、日産化学と共同で実用化に向けた電気光学ポリマーの開発にも取り組み、100℃以上の高温環境下でも安定に動作するデバイス信頼性を確認することもできた。

 近年の情報通信量の急激な増加に対応するため、最先端のデータセンター技術ではハードウェアの高性能・小型化が望まれている。一方、通信に関わる消費電力は大幅に増加する傾向にあり、省エネルギー化も強く求められている。ポリマーを応用した光変調器は、従来の無機・半導体系光変調器に比べて高速性や消費電力などの点で優れており、世界的なデバイス開発競争の中でも期待が集まっている。

 同研究グループは、科学技術振興機構(JST) 戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)のもと、国際産学連携による高効率ポリマー光変調器の研究開発を進め、連携先のドイツチーム(カールスルーエ工科大学、ブァンガード オートメーション)とシリコン光技術を融合したシリコン・ポリマーハイブリッド光変調器の開発を進めている。

 今回の日本チームによる研究成果では、光信号伝送のデータレートが毎秒200ギガビットの世界最高速に到達し、信頼性試験で100℃以上の高温時にもエラー信号が発生しないことも確認され、ポリマー光変調器の高速化と信頼性を大幅に高めることに成功した。

 このような超高速光変調器の応用は、データセンターへの応用など光ネットワークの最先端技術の発展につながることが期待できる。(科学技術振興機構<JST>)

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「プラットフォーム化で淘汰される日本のモノづくり産業」(内田孝尚著/日刊工業新聞社)

2020-08-27 10:04:15 |    機械工学

 

<新刊情報>

 

書名:プラットフォーム化で淘汰される日本のモノづくり産業

著者:内田孝尚 

発行:日刊工業新聞社(バーチャル・エンジニアリングPart3)

 実物ではなくバーチャルモデルが商品として扱われ、プラットフォーム上でやり取りされる「ものづくりのプラットフォームビジネス」が動き出す。MaaSの陰で着々と進む、自動車製造のプラットフォーム化の脅威を解説。自動車産業を中心に、日本の製造業を取り囲む“いま”が見える。

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●科学技術書・理工学書<新刊情報>●「心を知るための人工知能」(谷口 忠大著/共立出版)

2020-08-26 09:43:23 |    ロボット工学

 

<新刊情報>

 

書名:心を知るための人工知能~認知科学としての記号創発ロボティクス~ 

編者:日本認知科学会

著者:谷口 忠大

発行:共立出版(越境する認知科学 全13巻 【5】巻)

 認知発達し言語を獲得するロボットを作ることで人間の知能を理解しようとする学問である記号創発ロボティクス。それは人間の認知システムに対する構成論的アプローチである。同書はその記号創発ロボティクスの認知科学としての側面に焦点を当てた初めての本格的な入門書である。人間の認知とは固定的で静的な存在ではなく、環境との相互作用を通して変化する動的な存在である。では、人間の認知の動態を理解するためには、言語による記述的な認知の表現や、ある時期の人間の行動に焦点を当てた心理実験だけでは不十分ではないだろうか。真に「環境との相互作用を通して変化する動的な存在」を表現するためには、環境との相互作用を行う身体と、その情報をシステム内部で処理し、適応的に変化していくための知能が必要である。そのような議論は、必然的にロボットを人間の認知を理解するためのモデルとして活用しようという研究に導く。2010年代のディープラーニングに基づく人工知能の発展や、確率的生成モデルに基づく機械学習の発展を背景にしながら、認知科学を発展させていくモデル研究の新しく魅力的な旅路を紹介する。「心を知る」ことを望む、あらゆる学び手に届ける、新しい認知科学に向けた必読書。

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