“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「宇宙生物学で読み解く『人体』の不思議」(吉田たかよし著/講談社)

2013-12-31 09:54:05 |    生物・医学

書名:宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議

筆者:吉田たかよし

発行:講談社 (講談社現代新書)

目次:第1章 人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した
    第2章 炭素以外で生命を作ることはできるのか?
    第3章 宇宙生物学最大の謎 アミノ酸の起源を追う
    第4章 地球外生命がいるかどうかは、リン次第
    第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ
    第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防
    第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い

 地球が誕生したのが今からおよそ46億年前で、最初の人類が誕生したのは700万年~600万年前と言われている。つまり、我々人類は、この間に形成されたわけである。この 吉田たかよし著「宇宙生物学で読み解く『人体』の不思議」は、地球の誕生してから人類が誕生するまでの間の、気が遠くなるような長い期間に何があったのかを、科学的な立場(宇宙生物学)から解き明かそうとする試みから書かれた書物である。通常であると、宇宙の話は宇宙だけの話で完結し、生物の話は生物の話で完結する。しかし、この書がユニークなのは、宇宙と生物を一つに結び付けて語っていることであり、しかも、特別な予備知識なしでも読みこなすことができるように配慮がなされていることである。話を地球誕生に戻すと、38億年前に単細胞生物が誕生する。この頃の単細胞生物は、嫌気性生物であり、酸素を吸収せずに生きていた。現在、動物も植物も酸素なしには生きられないが、生物誕生の際には、逆に酸素は生物にとっては猛毒であったというから驚きだ。その後23億年前ごろになると酸素を取り入れる好気性生物が登場し、さらに酸素が徐々に地球上に満ちてくると、単細胞生物が多細胞生物に移り変わり、6億年前のカンブリア爆発で様々な動物が誕生することになるのである。

 つまり、生命の源である単細胞生物にとっては、酸素は欠かせないものどころか、毒ガスであったという話には、愕然とさせられるが、第1章 「人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した」においては、我々人類の体の70%を占める液体は、実は、彗星が運んできた水から成り立っているということが紹介されている。残りの30%が地球の物質から成り立っているというのである。このこともかなり衝撃的だ。我々の先祖は彗星にあったのである。彗星は、時々地球に接近し、人々の関心を引きつけるが、このことは、我々の体の70%が彗星がもたらしたものと考えると、人類が彗星に寄せる関心は、言ってみれば故郷に思いを馳せると言った意味合いがあるのかもしれない。しかし、単なる水だけでは、高等な生物は誕生はしない。高等生物は、ナトリウムイオンを使って、神経や筋肉をコントールすることによって成り立っているのだ。そうとすれば、彗星から運ばれた水を基に海が形成され、その海にはナトリウムイオンが溶け込んでいないとならなくなる。この役割を果たしたのが実は月だったという話が第1章に述べられている。月がなければ、地球はふらふらと揺れ動き、とても高等生物が存在できる環境になれなかったと言われているが、月の果たしてきた役割は、生命誕生でも絶大な役割を果たしたことが分かる。

 第4章「 地球外生命がいるかどうかは、リン次第 」にも実に興味深い話が載っている。2010年12月に「NASAが地球外生命を発見したかもしれない」というニュースが世界を駆け巡った。記者たちは「きっと火星に地球外生命が発見されたのであろう」と予想しNASAの発表会に臨んだ。ところが、NASAの発表は、「リンの代わりにヒ素を利用して生きることができる微生物が米国の湖で見つかった」というものであった。これを聞いて記者たちは「人騒がせだ」とブーイングの声を挙げた。しかし、逆に宇宙生物学の学者からは、「もし本当にリンの代わりにヒ素を利用して生きる微生物が発見されたのなら、それは間違いなく宇宙生物学上の大発見と言える。それを人騒がせと言う記者たちは、まったく科学が分かっていない」という批判が出てきたのである。つまり記者と言えどもリンと生命が織りなす38億年にも及ぶ深い因縁についての知識が少なかったか、あるいは全く持ち合わせていなかった、ということになる。生命は、①バクテリア(細菌)②原生生物(アメーバや藻類など)③菌類(キノコやカビなど)④植物⑤動物の五つに分類できるが、これら全てに共通するのが、セントラルドグマ(中心原理)である。つまり、生命は全て、DNAを転写しRNAを生み出し、RNAを翻訳して、たん白質をつくり、さらにたん白質を合成して糖や脂質をつくる。これは全ての生命に共通している。そしてこれらで決定的な役割を果たしているのがリンなのである。つまり、「リンの代わりにヒ素を利用して生きることができる微生物の発見」というNASAの発表は、正に驚天動地ものだったのだ。もっとも、これには後日談があって「どうもNASAの信憑性は薄い」ということで、今のところは一件落着しているようだ。

 この本には、たった20種類のアミノ酸から10万種類のたん白質がつくられる話とか、たん白質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)のPFCバランスは、現代人は炭水化物(C)が50%~70%を占めておりバランスが取れていない。この理由は、農耕文化が発達した結果だという。逆に農耕文化が発達していなかった旧石器時代は、このPFCバランスがうまく取れていたそうである。ということは、旧石器時代の食事の方が、現代人の我々よりバランスの良い食事をしていたことになる。第6章「 癌細胞 vs.正常細胞 『酸素』をめぐる攻防」でも興味深い話が載っている。生物は、酸素を取り入れることによって莫大なエネルギーを得ることに成功し、高度な機能を得ることができるようになった、一方では、酸素を体内に取り込むことによって、スーパーオキシドアニオンやヒドロキシルラジカルを生み、これが細胞膜や遺伝子を傷つけることに繋がる。要するにガンを発生させてしまうのだ。酸素があったおかげで人類は高度な機能を身に着けることができるようになったわけだが、一方では、活性酸素によって人類の敵であるガンも同時に発生させてしまう。この書は、普段我々が何気なく思ってきた生命の一つ一つの事柄が、実はこの広大な宇宙と密接に関連していることを思い知らされる本なのである。(勝 未来)

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◆科学技術テレビ番組情報◆NHK「サイエンスZERO」/BS朝日「BBC地球伝説」/TBSテレビ「夢の扉+」/他

2013-12-30 10:19:33 |    ◆TV番組◆

 

<テレビ番組情報>

 

 NHKテレビ Eテレ  サイエンスZERO 毎週日曜日 午後11時30分~0時00分
                             再放送毎週土曜日 昼12時30分~1時00分

1月5日(日) 国際宇宙ステーション大特集」(1)

 2014年3月に若田宇宙飛行士がコマンダーに就任するのを記念し、2週連続の国際宇宙ステーション(ISS)スペシャル! ISSの「本当の役割」が“巨大な宇宙実験室”であることはあまり知られていない。そこで行われている驚きの宇宙実験の数々を徹底取材! 宇宙飛行士と地上の研究者の見事な連携プレーの舞台裏に密着し、「科学者」としての宇宙飛行士の素顔に迫る。古川聡宇宙飛行士をゲストに迎え、前・後編でおくる。

ゲスト:宇宙飛行士 古川 聡

司会:南沢奈央,竹内薫,中村慶子

TBSテレビ   夢の扉+ 毎週日曜日 午後6時30分~7時
                     BS-TBS:毎週木曜日 午後11時~

1月5日(日) 2014年実現!“大逆転”で世界を驚かす日本の夢

 来る2014年に実現する「ニッポンの夢」を大特集!キーワードは「逆転」。2014年の初め、必ずあなたを奮い立たせる、とっておきの「逆転ドラマ」!!

ドリームメーカー:放送三井造船 技術開発本部 中野訓雄
           早稲田大学講師 工学博士 玉城絵美
           日産自動車総合研究所 井上秀明

ナレーター:中井貴一

テレビ朝日 奇跡の地球物語~近未来創造サイエンス~  毎週日曜日 午後6時30分~6時56分

1月12日(日) マダガスカルPart1~世界最小 体長2cmのカメレオンを捉えろ!~

 生物の楽園マダガスカル。この地で2012年発見された生物の写真が衝撃を与えた。マッチ棒に乗った世界最小2cmのカメレオン。そのカメレオンの生きた姿を撮影するため、俳優・合田雅吏がマダガスカルへ向かった。そして・・・世界最小カメレオンの姿を世界初、動画撮影に成功!そこから見えてきた、生物の神秘。なぜ、彼らはこんなにも小さくなったのか?その秘密は島の成り立ちにあった!

BSフジ ガリレオX 毎週日曜日 午前11:30~12:00 (隔週新作)

1月 5日(日)  究極の1キログラム 究極の1秒 超精密が拓く新たな世界

 日頃、私達が当然のように使っている長さや重さ、時間はどのようにして決まっているのだろうか。実はこれらの基準は国際的な枠組みの中で厳密に定義され、技術の発展と共に見直されてきた。かつて行なわれた1メートルの再定義では、より精密な長さの計測方法が確立されたことでナノテクノロジーの発展が促された。そして近年、質量と時間の基準が超精密な値で再定義される可能性が高まっている。はたしてこの超精密な基準はどのようにして生み出され、また新たな基準によりどんな世界が拓かれようとしているのか。

BS朝日   BBC地球伝説 毎週火曜日 午後7時~8時54分

1月7日(火) 今よみがえる 氷河期の動物たち」(3回シリーズ)
 
 今から250万年前から1万年前の地球で起きた氷河期。 温が下がり北半球の半分ほどが氷に覆われるという過酷な環境の中、動物たちはどのように生きていたのだろうか? 氷河期を生きた動物の多くが、現在すでに絶滅してしまっている一方で、現代まで生き延びた動物たちもいる。彼らの生死をわけた原因は、いったい何なのだろうか?最新の研究と独自の迫力あるCGで、氷河期の動物たちの生態を解き明かす。

NHK-BSプレミアム   コズミック フロント 毎週木曜日 午後10時00分~11時00分
                      再放送 月曜日 午後11時45分~0時44分

1月16日(木) 38万キロからの生中継 アポロ月面着陸を支えた男たち

 宇宙開発の金字塔・アポロ有人月面着陸。人類がこの偉業を今でも鮮明に覚えているのは、その様子が全世界へテレビ生中継されたことが大きい。世界40カ国、6億人以上が目撃し、日本の平均視聴率は62.4%を記録した。 まさにテレビを通じて世界中の人々が地球を飛び出し、月面への冒険の旅に出かけた日になった。しかしその生中継は、当時の技術レベルを遙かに超えた奇跡とも言える出来事だった。その生中継が今、宇宙開発の最前線で働く原点となった人たちも少なくない。世代を越えて語り継がれる生中継の知られざる舞台裏を描く。

NHKテレビ Eテレ   地球ドラマチック 毎週土曜日 午後7時00分~7時44分
                    再放送 毎週月曜日 午前0時00分~0時44分

1月1日(水)午後6時00分~午後6時45分

・選「鉄道模型で行こう!~廃止路線 16キロを走破~」(アンコール放送)

 イギリスで、世界最大級の鉄道模型によるレースが行われることになった!400人の鉄道ファンが参加し、廃線跡地に模型の線路を敷設。16キロもの距離を走破できるか?協力した400人の鉄道ファンが見守る中、模型機関車が次々と走り出す。鉄道模型の歴史や、大規模なドイツ鉄道模型博物館なども紹介する。(2009年イギリス)

1月4日(土) 午後7時00分  

プラネットダイナソー(3)空飛ぶ恐竜たち(アンコール放送)

 1億年以上に及ぶ恐竜の時代を最新の調査結果と精緻なCG画像を駆使して紹介する「動く恐竜図鑑」。第3弾は「空飛ぶ恐竜」の生態に迫る。新たに発見された「空飛ぶ恐竜たち」の生態と身体能力を明らかにし、恐竜の驚くべき進化のプロセスに迫る。(2011年イギリス)

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◆科学技術書<新刊情報>◆「科学vs.キリスト教~世界史の転換~」(岡崎勝世著/講談社)

2013-12-27 10:42:07 | ●科学技術書・理工学書 <新刊情報>(2018年5月4日以前)●

 

<新刊情報>

 

書名:科学vs.キリスト教~世界史の転換~

著者: 岡崎勝世

発行:講談社(講談社現代新書)

 「天地創造は六千年前」―それが、聖書の記述こそが正当な歴史とされてきたヨーロッパにおける、古代から中世に至る長い間の「常識」であった。逆に言えば、彼らの感覚にとって、「六千年」というのは恐ろしく長い時間と見なされていたということでもある。ところが、ルネサンスおよび大航海時代の始まりにより科学的な探究が始まり、地理上の知見がこれまでになく大きな広がりを見せるようになると、様々なところで聖書の記述と齟齬をきたす事実が発見されるようになる。同書では、「科学」の発展によってヨーロッパの人々の世界認識が根底から覆されてゆくプロセスを、デカルト、ニュートン、ビュフォン、リンネ、ダーウィンなど著名な科学者、哲学者から、ガッテラー、シュレーツァーなど今では忘れられてしまった歴史家の仕事なども追いながら丹念にたどって行く。

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■科学技術ニュース■NEDOなど、金属型・半導体型単層カーボンナノチューブの分離に成功

2013-12-27 10:41:33 |    化学

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)、産業技術総合研究所(産総研)は、NEDOの革新的カーボンナノチューブ(CNT)複合材料開発プロジェクトの成果として、eDIPS法により合成された高結晶性の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に混在する金属型と半導体型のCNTを分離する技術を開発、純度と回収率の飛躍的な改善に成功した。

 この技術を用いて金属型と半導体型に分離した後のSWCNTは、要望する国内企業にTASCが無償でサンプル提供、SWCNTの用途開発を促進することにしている。

 SWCNTは炭素原子の並び方によって、金属的な性質と半導体的な性質を示す。通常、SWCNTはこれら電気的性質が異なったものの混合物として合成されるため、合成したSWCNTをそのまま使用する場合、用途は限らる。

 金属型SWCNTは、通常の金属と同様に、電気をよく流すタイプのカーボンナノチューブ。優れた導電特性と強度を併せ持った極細の繊維であることから、2次元のネット状に成膜することで、極めて薄い膜でも良好な導電性が得られ、液晶ディスプレーの透明導電膜として広く用いられている酸化インジウムスズ(ITO)に置き換わる材料として応用ができる。

 また、半導体型SWCNTはトランジスタやICの原料であるシリコンやゲルマニウムと類似の導電特性をもつカーボンナノチューブ。半導体型SWCNTはナノメートルサイズのトランジスタへの応用や、薄膜化してフレキシブルなトランジスタへの応用ができ、比表面積が大きいことから、超高感度のセンサーとしての応用にも期待できる。

 SWCNTを高純度に金属型と半導体型へ分離できれば、高い導電性を持つ金属型SWCNTは透明導電性薄膜として液晶ディスプレーや太陽電池パネル用の透明電極に、半導体型SWCNTは透明で折り曲げることができるフレキシブルトランジスタなどに応用することが可能になる。

 将来的には、金属型SWCNTを配線に、半導体型SWCNTをトランジスタに用いた、超高集積・超高速かつ環境負荷の低いSWCNTコンピュータの実現も期待される。

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■科学技術書<新刊情報>■「宇宙が始まる前には何があったのか?」(ローレンス・クラウス著/文藝春秋)

2013-12-26 10:26:06 | ●科学技術書・理工学書 <新刊情報>(2018年5月4日以前)●

 

<新刊情報>

 

書名:宇宙が始まる前には何があったのか?

著者:ローレンス・クラウス

訳者:青木薫

発行:文藝春秋

 ビッグバンの前には何があったのか?その最大の謎を、現代の量子物理学は解きあかしつつある。物質と反物質のわずかな非対称から生じたゆらぎ、それが今日の私たちの宇宙を形作った。それは無から有が生まれることであり、無からエネルギーが生じるという物理学の直感に反したことだった。

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■科学技術ニュース■神戸大学、有機薄膜太陽電池の効率良い電流発生構造を解明

2013-12-26 10:25:07 |    電気・電子工学

 科学技術振興機構(JST)の課題達成型基礎研究の一環として、神戸大学大学院理学研究科の小堀康博教授らは、有機薄膜太陽電池にできる電荷(電子と正孔)の正確な位置と向きの観測に成功し、光から電流が効率よく生まれる仕組みを分子レベルで初めて明らかにした。

 有機薄膜太陽電池は、現在主流のシリコン系太陽電池(変換効率最大25%程度)よりも小型で低コスト、柔軟性に富んだ次世代太陽電池として注目され、最近では変換効率が11%まで向上し、実用化が期待されている。

 有機薄膜太陽電池の材料であるフラーレンや高分子は、光を電気の担い手である電荷に変え、さらに生まれた電荷を電極に向けて輸送する重要な役割を担っている。このフラーレンと高分子で構成される不均一な接合界面は、バルクへテロ型接合(BHJ)と呼ばれ、高い変換効率を生むことから、現状の有機系太陽電池の主要な構造。

 しかし、光照射後に電子と正孔がどのような位置や向きで生成し、有機分子からどのように効率的に光電流が生まれるのかを分子レベルで観測した例はなく、高効率化の機構はこれまで謎であった。

 今回、小堀教授らはパルスレーザー照射で生じる中間体の磁気的性質を1,000万分の1秒の精度で検出する時間分解電子スピン共鳴法を駆使し、有機薄膜太陽電池基板の光照射直後に生成する電子と正孔の正確な位置や向きと電子軌道の重なりの観測に初めて成功した。

 その結果、高分子材料のアルキル鎖の分子運動(フォノン効果)によって、BHJで生成した電子と正孔の間の距離が伸び、電極に運ばれることが分かった。さらに、界面付近の高分子材料による領域では自己組織化による規則的な結晶相が形成されており、この結晶性により正孔の電子軌道に大きな空間的広がりを生む様子が見いだされた。

 以上のことから、フォノンと結晶性の相乗効果で電荷再結合を抑制しながら電荷を無駄なく電極に伝達し、効率よく光電流ができる仕組みが解明された。

 同成果により、高分子材料のアルキル鎖のフォノン効果や結晶相の形成を活用することで電荷再結合を防ぎ電荷解離を促進できることが明らかになった。これは、今後の有機系太陽電池をはじめとしたデバイス開発に不可欠な半導体分子の制御や設計・合成に明確な指針を与えるもので、さらなる高効率化実現の加速に貢献することが期待される。

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■科学技術ニュース■NIMS、3次元グラフェン構造体の創製に世界で初めて成功

2013-12-24 10:44:29 |    化学

 物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の研究グループは、超極薄のグラフェンを、張り子のように3次元的な骨格に貼り付けた構造体を創製することに世界で始めて成功した。同合成法には、吹き飴技法から着想を得た「ケミカル風船法」とも言うべき独特な方法を取り入れた。

 グラフェンは超極薄物質で、カーボンでありながら従来知られているグラファイトやダイヤモンド、カーボンナノチューブとも異なる特異な物性を示すことから注目を集めており、その発見者には2010年にノーベル物理学賞が贈られている。

 特異な物性のため、いろいろな応用が期待されている一方、その物質が極薄なため、機能を発揮させるための3次元構造体を作ることが容易ではなく、多くの研究者がグラフェンの3次元構造体化に挑戦してきたものの、これまで特性を損なわずに3次元構造体を作ることには成功には至らなかった。

 同研究では、これまで報告例のない斬新な手法、すなわち吹き飴技法に着想を得た「ケミカル風船法」を用いて、3次元グラフェン構造体の合成に世界で始めて成功したもの。

 この構造体は、構造的に安定な細い骨格にグラフェンを貼り付けた提灯や張り子を思わせる構造をしている。この手法では、グルコース(砂糖)と塩化アンモニウムを混ぜ、約250°Cで加熱すると溶融したグルコースポリマーが生成する。この際に発生したアンモニアガスがポリマーを内側から圧力をかけることで膨らませ、数十ミクロンサイズの小さな風船を多数発生させる。

 同時にまた、構造体を安定化するための骨格が形成され、3次元張り子構造が作り上げられる。張り子構造の形成後、さらに1350°Cの高温で加熱することで、張り子の皮に相当する部分をグラフェンに変化させる。「ケミカル風船法」は、短時間、簡便、かつ安価に3次元構造を持ったグラフェン構造体を合成できる画期的な手法である。

 この研究で合成された3次元張り子構造を持つグラフェン構造体を電極として用いたキャパシタは、高い出力密度を示すことから、高性能なキャパシタ材料としてポータブル電子機器や電気自動車の急速充電・放電や航空機の電磁発射装置等への応用が期待される。

 また、今回開発した「ケミカル風船法」はグラフェン以外の超薄膜の新規な創製法としても広く利用することができる。

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◆科学技術テレビ番組情報◆NHK「サイエンスZERO」/BS朝日「BBC地球伝説」/TBSテレビ「夢の扉+」/他

2013-12-23 10:40:38 |    ◆TV番組◆

 

<テレビ番組情報>

 

 NHKテレビ Eテレ  サイエンスZERO 毎週日曜日 午後11時30分~0時00分
                             再放送毎週土曜日 昼12時30分~1時00分

2013年12月29日(日) 独占密着!深海探査 巨大白骨の謎に迫れ

 世界初挑戦!「しんかい6500」によるブラジル沖深海探査の後編。水深4000mの海底で、研究者も驚きの謎の巨大白骨が発見された。正体はクジラの骨。調査から太古の時代から生き延びてきた奇妙な軟体生物「ホネクイハナムシ」が生息するなど、実に不思議な生態系が広がっていることが分かってきた。なぜクジラの骨に生命が群がるのか? 深海の奇妙な生態系の役割とは? 新発見続出の深海アドベンチャー! その結末は!?

ゲスト:海洋研究開発機構海洋・極限環境生物圏領域 北里洋

司会:南沢奈央,竹内薫,中村慶子

TBSテレビ   夢の扉+ 毎週日曜日 午後6時30分~7時
                     BS-TBS:毎週木曜日 午後11時~

1月5日(日) 2014年実現!“大逆転”で世界を驚かす日本の夢

 来る2014年に実現する「ニッポンの夢」を大特集!キーワードは「逆転」。2014年の初め、必ずあなたを奮い立たせる、とっておきの「逆転ドラマ」!!

ドリームメーカー:放送三井造船 技術開発本部 中野訓雄
           早稲田大学講師 工学博士 玉城絵美
           日産自動車総合研究所 井上秀明

ナレーター:中井貴一

テレビ朝日 奇跡の地球物語~近未来創造サイエンス~  毎週日曜日 午後6時30分~6時56分

1月12日(日) マダガスカルPart1~世界最小 体長2cmのカメレオンを捉えろ!~

 生物の楽園マダガスカル。この地で2012年発見された生物の写真が衝撃を与えた。マッチ棒に乗った世界最小2cmのカメレオン。そのカメレオンの生きた姿を撮影するため、俳優・合田雅吏がマダガスカルへ向かった。そして・・・世界最小カメレオンの姿を世界初、動画撮影に成功!そこから見えてきた、生物の神秘。なぜ、彼らはこんなにも小さくなったのか?その秘密は島の成り立ちにあった!

BS朝日   BBC地球伝説 毎週火曜日 午後7時~8時54分

12月24日(火) ①最新科学でよみがえる恐竜たち
           ②よみがえった名画の謎 ~天才画家カラヴァッジオが描くキリスト~

 光と影を巧みに描き出した、16~17世紀のイタリアの天才画家カラヴァッジオ。彼の作品の中でも、「キリストの捕縛」は、その見事なリアリティとコントラストの大胆さで名画とうたわれていた。しかし、時代の流れの中、作品は行方不明となってしまう。ところが1990年、アイルランドのダブリンで偶然にも発見され、世界中の注目を集めた。なぜ、名画と称賛を得た作品が行方不明になったのか?なぜ、200年も後に、イタリアから遠くアイルランドのダブリンで発見されたのか?カラヴァッジオ自身と同じく数奇な運命をたどった「キリストの捕縛」。人々をひきつけてやまない画家の生涯と作品の謎に迫る。

NHK-BSプレミアム   コズミック フロント 毎週木曜日 午後10時00分~11時00分
                      再放送 月曜日 午後11時45分~0時44分

1月16日(木) 38万キロからの生中継 アポロ月面着陸を支えた男たち

 宇宙開発の金字塔・アポロ有人月面着陸。人類がこの偉業を今でも鮮明に覚えているのは、その様子が全世界へテレビ生中継されたことが大きい。世界40カ国、6億人以上が目撃し、日本の平均視聴率は62.4%を記録した。 まさにテレビを通じて世界中の人々が地球を飛び出し、月面への冒険の旅に出かけた日になった。しかしその生中継は、当時の技術レベルを遙かに超えた奇跡とも言える出来事だった。その生中継が今、宇宙開発の最前線で働く原点となった人たちも少なくない。世代を越えて語り継がれる生中継の知られざる舞台裏を描く。

NHKテレビ Eテレ   地球ドラマチック 毎週土曜日 午後7時00分~44分
                    再放送 毎週月曜日 午前0時00分~0時44分

12月28日(土) プラネットダイナソー(2) 最強のハンターを探せ!(アンコール放送)

 1億年以上に及ぶ恐竜の時代を最新の調査結果とCG画像を駆使して描く「動く恐竜図鑑」。第2弾は「最強のハンター」の生態に迫る。近年、恐竜の化石の発掘調査が行われる地域が世界中に広がり、これまで分かっていなかった恐竜の種や意外な生態・特徴が明らかになりつつある。最新データと映像技術を駆使し、かつてない手法で恐竜の詳細な姿を浮かび上がらせるシリーズ。第2弾は、陸上を制したティラノサウルスの仲間たち、海を支配した謎の生物など“最強のハンターたち”を紹介する。(2011年イギリス)

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■科学技術ニュース■京都大学、変速時に駆動力抜けのない変速システムを開発

2013-12-20 10:39:54 |    機械工学

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の若手研究グラント(産業技術研究助成事業)の一環として、京都大学は、変速時に駆動力抜けのない変速システムを開発した。

 新開発の変速システムは、減速比を滑らかに変化させることができる非円形歯車を採用しており、変速中でも駆動力を伝えることが可能となる。

 この変速システムを電気自動車に搭載した場合、通常の走行性能の向上に加え、走行時の電力消費量も軽減でき、従来の変速機非搭載の電気自動車と比較して、10%程度の走行距離延長効果が期待できる。

 同プロジェクトにおいては、同変速システムを実際に実験用車両に搭載した。

 主な特徴は、(1)電気自動車に適した変速システムにより走行距離を伸ばし、電気自動車の普及に貢献(2)エンジン搭載車用の多段変速システムの実現(3)出力軸の回転を正確に制御することが可能、など。

 すでに、市販の自動車用変速機で使用されている歯車やクラッチを用いた本変速システムを構築し、変速実験に成功している。今後京都大学では、電気自動車「EVUT(Electric Vehicle with Uninterrupted Transmission)」として、様々な実証実験を行うことにしている。

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■科学技術書<新刊情報>■「チューリング」(B・J・コープランド著/NTT出版)

2013-12-18 14:31:32 | ●科学技術書・理工学書 <新刊情報>(2018年5月4日以前)●

 

<新刊情報>

 

書名:チューリング~情報時代のパイオニア~

著者:B・ジャック・コープランド

訳者:服部 桂

出版:NTT出版 

 現代のコンピュータの基本モデルを着想し、不完全性定理のもう一人の立役者であり、連合軍の勝利をもたらした暗号解読者であり、人工生命研究の先駆者でもあった天才数学者アラン・チューリング。ゲイとしての私生活、その死の謎などの逸話も含め、チューリング研究の第一人者が描き出す決定版伝記。

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