“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●ソフトバンクと米国エンパワー、全固体電池の高エネルギー密度化の技術開発に成功

2023-09-05 09:46:28 |    電気・電子工学
 ソフトバンクと米国エンパワーは、IoT(モノのインターネット)機器や携帯電話基地局などでの活用を想定した、エネルギー密度(Wh/kg)が高く、軽くて容量が大きい次世代電池の研究開発を推進しているが、このたびソフトバンクとエンパワージャパンは、正極‐固体電解質層の界面抵抗の低減や、固体電解質の重量比削減などの高エネルギー密度化の技術開発に成功し、リチウム金属負極を用いた全固体電池セルでの重量エネルギー密度300Wh/kg級の実証に成功した。

 広く普及しているリチウムイオン電池では、イオン伝導体として有機電解液を用いるのに対し、全固体電池は固体電解質を用いる。このため全固体電池は、これまでリチウムイオン電池で課題となっていた電解液の発火や液漏れなどのリスクが低く、安全性が高いという特長がある。また、固体電解質は、電解液と比べて物質が安定した状態にあるため、寿命特性や温度特性の向上、作動電圧範囲の拡大などが期待されている。

 一方で全固体電池は、界面形成と重量増加という課題がある。固体電解質の場合、液体とは異なり正極活物質‐電解質の界面の密着性が低いことや、イオン伝導に関わる界面抵抗の増加が原因となり、電池容量の減少、出力特性や寿命特性の低下が起こる傾向があるため、電極材料と固体電解質の間に良好な界面を形成する必要がある。また、電解液と比較して比重が大きい固体電解質を使った全固体電池では、電池の重量が増加し、重量エネルギー密度(Wh/kg)が現在のリチウムイオン電池より低くなる傾向があった。

 これらの課題解決のために、ソフトバンクとエンパワージャパンは今回、正極‐固体電解質層の界面抵抗の低減や、正極合材中の固体電解質の重量比削減、固体電解質層の薄膜化などの技術開発に成功し、リチウム金属を用いて全固体電池セルを作製し、重量エネルギー密度を300Wh/kgまで向上させることに成功した。この数値は、従来のリチウムイオン電池セルの最高値と同等となる。<ソフトバンク>
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●科学技術ニュース●東北大学、6G通信に向けた周波数変換を可能にする光源の新原理を提案

2023-05-04 09:32:10 |    電気・電子工学
 東北大学 高度教養教育・学生支援機構の児玉 俊之 特任助教、多元物質科学研究所の菊池 伸明 准教授、岡本 聡 教授、大学院理学研究科の大野 誠吾 助教、高度教養教育・学生支援機構の冨田 知志 准教授(大学院 理学研究科 兼務)は、スピン注入と呼ばれるスピントロニクスの手法を組み合わせることで、マイクロ波に対する磁性メタマテリアルの応答を大きく変化させることに成功し、磁石を組み込んだメタマテリアルによる新光源の原理を提案した。

 この手法を発展させると、マイクロ波に対するメタマテリアルの応答を時間的に変化させる時間変調磁性メタマテリアルが実現できると考えられる。

 時間変調磁性メタマテリアルを用いれば、マイクロ波をミリ波に、ミリ波をテラヘルツ光に周波数変換することが可能になる。

 これは室温で動作する6G通信用の新たな周波数可変の小型光源の実現につながる。(科学技術振興機構<JST>)
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■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「知られざる天才 ニコラ・テスラ」(新戸雅章著/平凡社)

2015-06-02 14:27:55 |    電気・電子工学

書名:知られざる天才 ニコラ・テスラ

著者:新戸雅章

発行:平凡社(平凡社新書)

目次:序章    テスラ・ルネサンス
     第1章   天才と直観
    第2章   交流システム
    第3章   決定的な勝利
    第4章   新たな挑戦
    第5章   無線革命
    第6章   世界システム
    第7章   ニューヨークの秋
    第8章   終わりなき奮闘
    第9章   死とテスラ伝説
    第10章 テスラと日本
    第11章 テスラとは何者か
    第12章 21世紀のテスラ

  先頃、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが、電気を無線で飛ばす実験に成功したというニュースが伝えられた。JAXAが何故、無線送電実験を行うのかというと、宇宙空間に浮かべた太陽電池パネルから地上に送電する宇宙太陽光発電の実現に不可欠な技術であるからである。宇宙太陽光発電は、電気をマイクロ波などに変換して宇宙から地上に送る。JAXAなどは、直径2~3㎞の巨大な太陽電池パネルを使えば、原発1基分(100万kw)相当の発電ができると試算しているという。ただ、今回の実験は、約55m離れた場所に設置した受電用のアンテナへ正確に送ることに成功したというもので、実用化への道のりはまだ遠い。ところで、この無線送電実験を、今から120年もの前に手掛けた、クロアチア出身の天才発明家ニコラ・テスラ(1856年―1943年)の名を御存知であろうか。実は、日本ではニコラ・テスラの名はあまり知られておらず、殺人光線など、一部の人々にとってマッドサイエンティストとして知られているのがせいぜいである。ところが、生前は、あのエジソンと人気を二分するほどの著名な世界的大発明家であったのだ。それが証拠に、磁束密度を表す国際単位系にテスラの名が採用されている(1ステラ=1万ガウス)。

 現在のアメリカでは、ニコラ・テスラは広く知られており、2010年にオバマ米大統領が行った演説の中に、なんとニコラ・テスラ名が出てくるほどである。それは「・・・この絶え間ない移民の流入が、今日のアメリカを築いたのはもちろんのことです。アルベルト・アインシュタインの科学革命、ニコラ・テスラの発明、アンドルー・カーネギーのUSスティール、セルゲイ・ブリンのグーグル―これらはすべて移民の力によって可能になったのです・・・」という演説内容である。ニコラ・テスラはアインシュタインの次に紹介されるほど米国では、よく知られた発明家なのである。そのことは、現在米国一のベンチャー企業家と知られるイーロン・マスクが、自分が設立した電気自動車の開発・販売会社の企業名に「テスラモーターズ」と名付けたことでも分かる。ベンチャー魂の塊のようなイーロン・マスクにとっては、ニコラ・テスラは自分自身のヒーローであるわけで、自分の会社のテスラという名前を付けたのである。既に、日本市場にテスラモーターズは進出を果たしている。テスラモーターズの名は知っていてもニコラ・テスラの名は知らないでは、少々残念な気がする。そんな人にとって「知られざる天才 ニコラ・テスラ」(新戸雅章著/平凡社)は、ニコラ・テスラの業績を知るのに打って付けの書籍だ。

 テスラの名を一躍高めたのは、交流モーターの発明である。当時米国内では、送電網の電源として直流がいいのか、交流がいいのかの大論争が巻き起こっていた。直流の送電網の旗手は、あのエジソンであったのだ。現在は、送電網は交流が採用されているので、最終的にエジソンが敗れたわけだが、当時はまだどちらを採用した方がいいかは白紙の状態であり、エジソンは最後まで直流案を引き下げなかった。一説では、エジソンはそれまでに自社に投資した直流研究の成果を守るために直流を引き下げなかったという、うがった見方もある。そして最終的に、自由に電圧をコントロールできる交流網に軍配が上ったのである。テスラはもともと交流派で、多相交流システムの開発に没頭したわけだが、就職したのは、何とエジソン社のヨーロッパ法人として設立されたコンチネンタル・エジソン社だった。その後、1887年にテスラは米国へ行き、エジソンと直接会っている。エジソンは、テスラの技術力は評価していたが、直流網派と交流網派の対立の壁は厚く、折り合うことはなかったという。つまり、テスラは、送電網の建設であの有名なエジソンに勝ったわけである。このことは米国内で行われたことなので、今でも米国でテスラの知名度が高いのだと思われる。逆に、日本では勝負が付いた後に、交流の送電網の建設が行われたので、テスラの名は今もって知られてはいない。

 テスラは、いち早く無線送電システムの実験に取り組んだほか、いまから一世紀以上前にエネルギー資源の枯渇を憂い、風力や太陽熱、地熱などの利用を具体的に提案していたというから驚きである。また、この書には、テスラのマッドサイエンティスト性につても触れられている。マッドサイエンティストとは、奇想天外な発明をして事件を引き起こす研究者のことである。当時、エジソンは、研究所がある場所をとって「メロンパークの魔術師」と呼ばれたのに対し、テスラは「電気の魔術師」と呼ばれていた。実は、このことが二人の評価の分かれ目のような気がする。エジソンは、家電製品的発明を数多く残した。一方、ステラは、無線送電などのような、産業用発明に突き進んでいった。当時の人は無線送電などは、正気の沙汰とは思えなかったろう。この結果、テスラには常にマッドサイエンティストが付いて回ることになってしまった。このことが、日本でのテスラの評価にも影響を及ぼしているようである。ところが、無線送電にしろ風力や太陽熱、地熱などの利用は、現在では切実な開発テーマとなっている。この辺で、日本でも天才発明家ニコラ・テスラの正当な評価が下されてもよさそうに思う。この書は、この際に有力な後押しとなろう。これらの広範囲に及ぶテスラの業績を後世に伝えるべくセルビアのベオグラードには国立ステラ博物館が設立されている。また日本でも、この書の著者である新戸雅章氏はテスラ研究所を設立して、日本でのテスラの業績の啓蒙活動を展開している。(勝 未来) 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「電気回路がよくわかる」(藤瀧和弘著/技術評論社)

2012-11-20 10:39:12 |    電気・電子工学

書名:電気回路がよくわかる―絵で見てなっとく!

著者:藤瀧和弘

発行所:技術評論社

発行日:2011年9月5日 初版第1刷

目次:PART1 電気回路の素朴な疑問
     電気の由来
     電気の正体 ほか
    PART2 電気と磁気の深い関係
     磁気の正体
     電流と磁気 ほか
    PART3 電気をつくる
     電気をつくる
     電気を送る ほか
    PART4 電気回路の基礎
     回路の基礎
     回路素子 ほか
    PART5 電気を利用する
     電気を光に変える
     電気を熱に変える ほか
    PART6 動力を制御する
     モーターの回転制御
     モーターの運転制御 ほか
    PART7 電気の安全対策と電気計測
     屋内配線の安全対策
     電気を計る

 福島第1原子力発電所の事故は、今後のわが国のエネルギー政策を根本的に考え直す契機となった。原子力発電を、このまま続けるとどうなるのか。まず、挙げられるのは、原子力発電所直下の活断層の有無である。現在専門家が現地調査を行い、危険性を調査中であるが、そう簡単に結論は出そうにもない。さらに使用済み核燃料の処理の問題もある。現在のところ、有効な処理方法は見当たらず、とりあえず100年ほどの期間をメドに貯蔵し、その後は、技術革新の進展を期待して、新しい処理方法を考えるしかないようだ。このような問題を抱える原子力発電ではあるが、では今すぐ、火力発電に切り替えると、液化天然ガスなどの安定供給は必ずしも保証されているとは言えず、今後価格の高騰も懸念される。

 そこで、環境省は、再生可能エネルギーの発電能力を高める目標を策定した。これによると、2030年までに、洋上風力発電、地熱発電、バイオマス発電、海洋発電などの新しい4種類の発電能力を合計1941万キロワットと2010年の約6倍に引き上げようとしている。しかし、仮にこれが実現したとしても再生可能エネルギーが占める割合は、全体の約1割ほどにしかならない。再生可能エネルギーが話題に上らない日がない昨今ではあるが、将来はともかく、当面のエネルギー源として再生可能エネルギーは、そう期待できないと言うのが本当のところ。それではどうすべきか。結論の一つは、エネルギーの消費を抑えることだ。エネルギーの種類は、核、光、化学、熱、力学、それに電気エネルギーなどに分類できる。

 これらの中で、電気エネルギーは、我々が生活している中での役割が、かつて考えられないほど、高まっていることに気づく。停電が起きた時、電気エネルギーが我々の日常生活に、いかに深く入る込んでいることに誰もが気づくはずだ。昔は各家庭の暖房は、ストーブやコタツが主流であったが、今や電気エネルギーを使ったエアコンが主流となった。このエアコンを家庭に普及させた技術は何かというと、直流を交流に変換して自由に温度の制御を可能にしたインバーター技術なのである。テレビのコマーシャルでインバーターエアコンと聞かされているので何となく分った気でいるが、その原理を知ることは、結果的には、エネルギーの消費を抑えることにも繋がる。最近の新しい家庭の配電盤は、単相3線式の200V対応になっている。単相3線式となると、何故200Vが可能となるのかも、知っておかねばならない。

 この「電気回路がよくわかる―絵で見てなっとく!」はそんな、電気の基礎知識が見開き2ページにわたって、図解つきで平易に解説されているので、これを読めば最低限の電気の知識を身に付けられる。しかし、単に初心者向けだけではなく、技術的にしっかりとした解説が付いているので、電気以外の技術者が電気の基礎を学びたいというときにも相応しい内容となっている。また、技術系は苦手という人でも、難しい個所は飛ばして読めば、電気回路の基礎を身に付けることができる。現在既に、電気エネルギーがあらゆる場面で、基本のエネルギー手段として活用されており、今後さらにその傾向は強まる。今後のわが国のエネルギー問題を考える時、知っておきたい電気の基礎知識は、誰もが持っておきたいもの。そのための教科書としても同書は最適である。(勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「エジソン 理系の想像力」(名和小太郎著/みすず書房)

2012-07-02 10:35:52 |    電気・電子工学

書名:エジソン 理系の想像力

著者:名和小太郎

発行所:みすず書房

発行日:2006年8月28日第1版第1刷

目次:オリエンテーション

    第1回 エジソンとシステム

      『メンローパークの回想』
      ジュールの法則
      白熱灯以前
      直列から並列へ
      電流の細分化 ほか

    第2回 エジソンと技術標準

      『エジソン氏追想』
      技術は普遍的
      フォノグラフ
      アーキテクチャーの選択
      デジタルからアナログへ ほか

    第3回 エジソンと特許

      キネトグラフ用カメラの特許
      アイデアの排他性/残像の見せ方
      ビジネス・モデルの争い
      特許の取り合い
      特許のプール ほか

    質疑に答えて
    エジソン関連年表
    読書案内

 同書は、「教えるー学ぶ」ための新シリーズ「理想の教室」の一冊として刊行されたもので、前書きに当るものが「オリエンテーション」、講義が第1回~第3回、そして後書きに当るものが「質疑に答えて」という形式で著わされている。あたかも学校での講義を聴講しているような雰囲気で読み進めていけるのが大きな特徴の書籍である。この本の主人公であるトーマス・エジソン(1847年―1931年)は、アメリカのオハイオ州に生まれ、生涯で1300件もの発明を行った“発明王”であり、同時に企業家でもあった。ニュージャージー州のメロンパークに研究所を置き、ここを拠点に研究に没頭した。

 その活動分野は広く、電信、電話、電灯、発電機、レコード、映画、自動化鉱山、電気自動車・・・など数え上げ切れないほどだ。エジソンは、理論というよりは、実践の人であり、その結果、著作物は残していない。その代わり、エジソンは膨大な実験ノートを残した。それらは、ラトガース大学が現在所有しているが、全部で350万ページに上り、この中から7000件が選ばれ「トマス・A・エジソン資料集」として刊行されている(ラトガース大学のアーカイブスにある)。同書は、これをベースの資料として書かれているだけに類書とは一味も二味も違い、信憑性の高いものになっている。

 これまでエジソンについて書かれた書物は、数多く存在するが、いずれも発明王物語的なものがほとんどで偉人伝に終わっている。これらと同書の違いは、同書が、何故、エジソンはそのような発想を持つに至ったのかを、克明に紹介している点だ。つまり、発明品の紹介ではなく、発明に至る道程が詳細に書かれているところが類書にない優れた点である。つまり、この本は著者が「オリエンテーション」の中で書いているように、「理系の想像力」というより「工学系の想像力」であるとする。ここでの。理系と工学系の違いは、工学系にはお客様(クライアント)があるということ。

  つまり、同書のテーマは「エジソンを超えることによって、工学系の想像力を発揮しよう」にあるという。現在、日本の大手電機メーカーは、韓国や台湾のメーカーにコスト面で敗北を喫し、しかも、過去に世界をリードした斬新なアイデア商品も生み出せない状況に直面している。こんな時こそ、同書のように、発想の原点に立ち返って考え直してみるのが一番いい。しかも、モデルとなるのが世界の発明王のエンジソンなのだから申し分ない。この本は、数式が最小限に押さえられており、この結果、理系でなくても読み通せる内容となっていることを申し添えておく。(STR:勝 未来) 

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「電気の歴史」(高橋雄造著/東京電機大学出版局)

2012-06-11 10:45:27 |    電気・電子工学

書名:電気の歴史~人と技術のものがたり~

著者:高橋雄造

発行所:東京電機大学出版局

発行日:2011年7月10日第1版第1刷

目次:はじめに
    電気技術史年表
    第1章 古代からの電気と磁気
       1. 人類が電気を知る
       2. 天然磁石から羅針盤へ 
    第2章 近代電気学のはじめ ―静電気の時代
       1.ギルバート―近代電気学の創始者
       2. ゲーリゲから摩擦起電機へ ほか
    第3章 電池の発明から動電気の時代へ
       1. ガルバーニからボルタへ ―電池の発明
       2. 電流の磁気作用 ―エールステズの発見 ほか
    第4章 発電機と電動機
       1. ビキシの発電機
       2. 自励発電機の発明と発電機の実用化 ほか
    第5章 電信と電話 ―電気の最初の大規模応用
       1. 腕木伝信
       2. 電信の発明 ほか
    第6章 電灯と電力技術の時代
       1. 白熱電球の発明と配電事業の開始
       2. エジソン ほか
    第7章 電気技術の世界の形成と拡大
       1. ウィリアム・スタージャンと「電気・磁気年報」およびロンドン電気協会
       2. 学会と雑誌 ほか
    第8章 20世紀の社会と市民生活における電気 ―蓄音機からラジオ,テレビまで
       1. 20世紀の電気技術
       2. 生活と娯楽と電気技術 ―蓄音機(レコード),映画の発明 ほか
    第9章 半導体とコンピュータ
       1. 戦争とエレクトロニクスの進歩
       2. トランジスタの登場 ほか
    むすび ―電気技術の将来
    付録 ―電気の歴史の本
    参考文献
    図版出典
    あとがき
    索 引

  現在、わが国は原発の再稼働の是非が喫緊の課題となっている。このこと自体、現代の産業にとっては、電気エネルギーの存在なくしては、成り立たないところまで来ていることの証明にもなる。同書は、そんな電気の歴史を平易な語り口で解説してある。このため、これから電気を学ぼうとしている学生、それに電気の歴史をもう一度振り返って見たい電気の技術者、さらに電気に興味を持つか、あるいは電気の知識の必要に迫られている一般の市民・・・のいずれにも参考になる内容となっている。

 これから家庭に太陽光発電設備や電気自動車(EV)を導入しようとしている一般市民にとって、電気の知識をより知っていた方が、太陽光発電やEVに対する理解度が増し、関心も高まることに繋がる。もう電気の知識は一般市民でも欠かすことのできないテーマとなってきている。その際に同書は恰好の参考書となる。

 古代から始まって19世紀末までまんべんなく述べてあるが、特に発電機や電動機についての発達史については、詳細に解説がなされ、参考になる。通常の技術史は、難解な技術用語が目に付き、一般の読者ではなかなか読みこなすには骨が折れるケースが多いが、同書は発明者の人間性にまで一歩踏み込んで書いてあるので、あたかも一般の歴史書を読むような調子で読み通せるのがいい。

 いずれにせよ電気は、原発以外でもますます我々の生活と切っても切れない存在になってきており、誰にとっても電気の理解は重要なことになりつつある。その際に同書の果たすべき役割は大きい。巻頭に掲載されている「電気技術年表」は人類の電気の発見から現在の最先端の電気機器までを一望できる。
(STR:勝 未来)

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