書名:エジソン 理系の想像力
著者:名和小太郎
発行所:みすず書房
発行日:2006年8月28日第1版第1刷
目次:オリエンテーション
第1回 エジソンとシステム
『メンローパークの回想』
ジュールの法則
白熱灯以前
直列から並列へ
電流の細分化 ほか
第2回 エジソンと技術標準
『エジソン氏追想』
技術は普遍的
フォノグラフ
アーキテクチャーの選択
デジタルからアナログへ ほか
第3回 エジソンと特許
キネトグラフ用カメラの特許
アイデアの排他性/残像の見せ方
ビジネス・モデルの争い
特許の取り合い
特許のプール ほか
質疑に答えて
エジソン関連年表
読書案内
同書は、「教えるー学ぶ」ための新シリーズ「理想の教室」の一冊として刊行されたもので、前書きに当るものが「オリエンテーション」、講義が第1回~第3回、そして後書きに当るものが「質疑に答えて」という形式で著わされている。あたかも学校での講義を聴講しているような雰囲気で読み進めていけるのが大きな特徴の書籍である。この本の主人公であるトーマス・エジソン(1847年―1931年)は、アメリカのオハイオ州に生まれ、生涯で1300件もの発明を行った“発明王”であり、同時に企業家でもあった。ニュージャージー州のメロンパークに研究所を置き、ここを拠点に研究に没頭した。
その活動分野は広く、電信、電話、電灯、発電機、レコード、映画、自動化鉱山、電気自動車・・・など数え上げ切れないほどだ。エジソンは、理論というよりは、実践の人であり、その結果、著作物は残していない。その代わり、エジソンは膨大な実験ノートを残した。それらは、ラトガース大学が現在所有しているが、全部で350万ページに上り、この中から7000件が選ばれ「トマス・A・エジソン資料集」として刊行されている(ラトガース大学のアーカイブスにある)。同書は、これをベースの資料として書かれているだけに類書とは一味も二味も違い、信憑性の高いものになっている。
これまでエジソンについて書かれた書物は、数多く存在するが、いずれも発明王物語的なものがほとんどで偉人伝に終わっている。これらと同書の違いは、同書が、何故、エジソンはそのような発想を持つに至ったのかを、克明に紹介している点だ。つまり、発明品の紹介ではなく、発明に至る道程が詳細に書かれているところが類書にない優れた点である。つまり、この本は著者が「オリエンテーション」の中で書いているように、「理系の想像力」というより「工学系の想像力」であるとする。ここでの。理系と工学系の違いは、工学系にはお客様(クライアント)があるということ。
つまり、同書のテーマは「エジソンを超えることによって、工学系の想像力を発揮しよう」にあるという。現在、日本の大手電機メーカーは、韓国や台湾のメーカーにコスト面で敗北を喫し、しかも、過去に世界をリードした斬新なアイデア商品も生み出せない状況に直面している。こんな時こそ、同書のように、発想の原点に立ち返って考え直してみるのが一番いい。しかも、モデルとなるのが世界の発明王のエンジソンなのだから申し分ない。この本は、数式が最小限に押さえられており、この結果、理系でなくても読み通せる内容となっていることを申し添えておく。(STR:勝 未来)