科学技術振興機構(JST)のマックスプランク陸生微生物学研究所の嶋 盛吾グループリーダーらは、微生物に含まれる水素変換酵素がその機能を獲得するのに必要な酵素の1つを発見し、その反応機構を世界で初めて解明した。
現在、水素を工業的に利用する水素変換プロセスでは、白金などの貴金属が水素変換反応を促進する触媒として使われている。しかし、貴金属は高価であり埋蔵量にも限りがあることから、微生物に含まれる水素変換酵素(ヒドロゲナーゼ)を摸倣した人工触媒の研究が活発に行われている。
ヒドロゲナーゼは、活性中心に金属などの原子が寄り集まった化合物を持ち、水素分子との反応はそこで行われている。そのため、ヒドロゲナーゼがその機能を獲得するためには、活性中心化合物を組み立てる役目をする因子が必要。
鉄[Fe]ヒドロゲナーゼ酵素は、ヒドロゲナーゼの中でもシンプルな構造で耐久性も高いことから、その活性中心化合物である「FeGPコファクター」が作られる仕組みが分かれば、安価で優れた水素変換触媒の開発につながることが期待されている。
今回、FeGPコファクターを作る酵素の1つとして、「HcgB」を、たんぱく質の立体構造から機能を探索する構造ゲノム学的手法を用いて発見した。さらにこの酵素で合成された物質の構造も明らかにすることにも成功し、FeGPコファクターの生合成機構の全容解明に向けて大きく前進した。
将来的に、FeGPコファクターの生合成機構が網羅的に解明され、FeGPコファクターの模擬化合物ができれば、安価で大量供給可能な人工触媒として、人工光合成や燃料電池の電極などへの活用が期待される。
今回の成果によって、鉄[Fe]ヒドロゲナーゼ酵素の水素変換反応を担うFeGPコファクターの生合成機構の解明に向けて大きく前進した。今後、この生合成機構の全容が解明されれば、「FeGPコファクター」を模擬した化合物の開発や改良につなげることが可能で、将来的には、白金に代わる安価で大量生産が可能な優れた人工触媒として、人工光合成への活用が期待される。さらに、水素ガスから電気を取り出す燃料電池の電極への活用も期待される。
同研究は、マックスプランク生物物理学研究所のウルリッヒ・エルムラー博士とマールブルグ大学のシューラン・シー博士のグループと共同で行ったもの。