“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●NEDO、成層圏を長期飛行する無人機によって海洋状況を把握する技術の開発・実証に着手

2024-09-10 09:37:05 |    宇宙・地球
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、経済安全保障を強化・推進する観点から支援対象とすべき先端的な重要技術の研究開発を進める「経済安全保障重要技術育成プログラム(通称“K Program”)」の一環で実施する研究開発として、「高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証」に着手する。

 同事業では、世界に先駆けて、成層圏の特定位置に長時間継続的に停留して通信を提供する高高度プラットフォーム(HAPS:High Altitude Platform Station)をセンシングプラットフォームとして活用するために必要な技術の確立を目指す。

 具体的には、リモートセンシング技術の開発やセンサーから得られた情報共有のためのデータプラットフォーム技術、HAPSの運航に係る技術の研究開発を行う。

 さらに、高高度無人機の実用化に向けては供給電力に限界があることから、高緯度での長期航行を実現する動力源確保のためのフィジビリティスタディを行う。

 これにより、海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)の能力を強化し、海洋の安全や海洋産業の成長を目指す。

 同事業への参画を希望する実施者を募集し、審査を行った結果、次の2テーマを採択しました。

 同事業で高高度無人機の活用による「〔1〕海洋状況把握技術に関する研究開発」と「〔2〕高高度無人機の長期航行技術に関する研究開発」を実施し、成層圏の特定位置に長時間継続的に停留できるHAPSのセンシングプラットフォームの活用に必要な技術開発を世界に先駆けて進めることで、日本の戦略的不可欠性の獲得を目指す。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>

【〔1〕海洋状況把握技術に関する研究開発】

 HAPSに搭載するため、従来大型の無人機にしか搭載できなかった光学/赤外線(EO/IR:Electro-Optical/Infrared)センサー、合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)を軽量化、省電力化し、実際の飛行軌道を想定した実証を行う。さらに、HAPSへ搭載する複数センサーから収集したデータを複合的に解析するシステムの開発・実証や、MDAで利用するHAPSの飛行経路や飛行計画など通信ミッションとは異なる特異なケースでの運用に適した運行管理と気象情報の提供を可能にするシステムの開発・実証を実施する。

事業名:経済安全保障重要技術育成プログラム/高高度無人機による海洋状況把握技術の開発実証/高高度無人機による海洋状況把握技術の研究開発

予算:60億円

期間:2024年度~2028年度(予定)

実施予定先:株式会社Space Compass、新明和工業株式会社、株式会社三菱総合研究所

【〔2〕高高度無人機の長期航行技術に関する研究開発】

 HAPSの日本周辺での長期航行を実現するための動力要素技術の開発を目的に、高緯度で高効率発電が可能な太陽光パネルや高密度エネルギー蓄電池の開発・実証を視野に入れ、成層圏での飛行実証段階にある機体の技術動向分析を行う。そして、HAPSに搭載し長期航行を実現する太陽光パネルや蓄電池の開発要素、達成目標の抽出を行うフィジビリティスタディを実施する。

事業名:経済安全保障重要技術育成プログラム/高高度無人機による海洋状況把握技術の開発・実証/HAPS用高エネルギー密度電池パックおよび高効率発電が可能な太陽電池の研究開発

予算:2億円

期間:2024年度(予定)

実施予定先:ソフトバンク株式会社
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●科学技術ニュース●アストロスケール、JAXAの商業デブリ除去実証フェーズIIの契約を獲得

2024-08-29 10:15:07 |    宇宙・地球
 持続可能な宇宙環境を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、以下、デブリ)除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスの子会社で人工衛星システムの製造・開発・運用を担うアストロスケールはこの度、宇宙航空研究開発機構(JAXA)との間で、大型デブリ除去等の技術実証を目指し実施する商業デブリ除去実証(CRD2:Commercial Removal of Debris Demonstration)のフェーズIIの契約を締結した。契約額は約130億円。

 CRD2は、JAXAの進めるデブリ除去プログラムを起点に新しい宇宙事業を開拓し、日本企業が新たな市場を獲得することを目指したプロジェクトであり、軌道上にある日本由来のロケット上段を対象に、二つのフェーズで大型デブリへの近傍接近と除去の実証を目指すもの。

 ロケット上段は長期間軌道上に存在していたため、現在の状態が分かる情報が少なく、かつ非協力物体である。

 フェーズⅠでは、このデブリへの接近、近傍制御を行い、デブリの運動や損傷・劣化が分かる画像データを取得した。

 アストロスケールは、2020年1月にCRD2のフェーズIの契約相手方として選定され、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ、Active Debris Removal by Astroscale-Japan)」を開発、2024年2月よりミッションを実施している。

 フェーズIIでは、フェーズⅠと同様にデブリへ接近、近傍制御し、さらなる画像データを取得するとともに、デブリ除去として、その捕獲や軌道離脱も行う。

 今後、捕獲機構であるロボットアームを含め、フェーズIIで運用するADRAS-J2(Active Debris Removal by Astroscale-Japan2)の開発を進める。

 フェーズIIにおいては、アストロスケールが現在運用中のADRAS-Jミッションの知見が幅広く活かされる。

 ADRAS-Jは実際のデブリに対して安全な接近を行い、近距離でデブリの状況を調査する世界初の試み。

 具体的には、大型デブリ(日本のロケット上段:全長約11m、直径約4m、重量約3トン)への接近・近傍運用を実証し、デブリの運動や損傷・劣化状況の撮像を行っている。2024年2月22日にデブリへの接近を開始して以降、遠距離からの接近や、定点観測、周回観測などに成功している。<アストロスケール>
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●科学技術ニュース●三菱電機、先進レーダ衛星「だいち4号」による初観測画像を取得

2024-08-13 09:31:57 |    宇宙・地球
 三菱電機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受注し、2024年7月1日に「H3ロケット」によって打ち上げられた、先進レーダ衛星「だいち4号」に搭載されているフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ「PALSAR-3」の試験電波発射により初観測画像を取得した。

 「だいち4号」はレーダで地球を観測する衛星で、高精度かつ広範囲の画像を取得できる。

 これにより広域で同時多発的に災害が発生した場合も、迅速な状況把握が可能となる。

 同社は、2016年度に「だいち4号」の開発を開始し、鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)で全体の設計・製造・試験を担当してきた。

 広域観測と高分解能を両立させるために不可欠である「PALSAR-3」も、三菱電機が開発を担当している。

 「PALSAR-3」は、現在運用中の陸域観測技術衛星2号「だいち2号」に搭載されたレーダと同等の高分解能を維持しつつ、観測幅を拡大したもので、高度約628kmから全地球規模での高分解能観測を行う。

 「だいち4号」による広域の地殻・地盤変動の観測情報は、平時・災害時における地殻・地盤変動の監視、火山活動や地盤沈下、地滑り等の異変の早期発見、森林資源の管理等に活用される。<三菱電機>
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●科学技術ニュース●横浜国立大学と産総研、ハイドレートの最後の基本構造を発見

2024-07-30 09:32:38 |    宇宙・地球
 横浜国立大学大学院工学研究院の室町実大准教授(研究当時:産業技術総合研究所主任研究員)、産業技術総合研究所の竹谷敏上級主任研究員らの研究グループは、メタンハイドレートなどとして知られる包接水和物(ハイドレート)の最後の基本構造を発見した。

 ハイドレートの三つの基本構造のうちの一つであるHexagonal構造は、幾何学的に配置することは可能であるものの熱力学的には不安定であり、これまで実際に創り出すことができていなかった。

 今回、この構造の不安定化してしまう部分にフィットする物質を合成し、これを用いて構造を安定化させることに成功した。

 この新しい構造は、メタンと二酸化炭素ガスのガス包蔵量が従来のHexagonal派生構造と比べて高く、ハイドレートを利用したガスの貯蔵・輸送技術や二酸化炭素の分離・回収技術の実用化につながるものと期待される。

 また、ハイドレートだけでなく他の包接化合物についても、今回開発した手法を応用した新たな材料創成が期待される。

 今回得られたHS-I構造は従来の派生構造に比べてガス包蔵量が高く、ハイドレートを利用した天然ガスや合成燃料の貯蔵・輸送技術および二酸化炭素の分離・回収技術への応用が期待される。

 また、今回の発見によりハイドレートの三つの基本構造のすべてを創り出すことができたため、今後はこれらの混合相を創成する新たな材料開発を行っていく。

 また、今回の発見によりハイドレートのみならずその他の包接化合物における課題解決手法も示され、パワーデバイスや高強度材料などの新たな材料創成につながる基盤技術になると期待される。<産業技術総合研究所(産総研)>
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●科学技術ニュース●JAXA、小型技術刷新衛星研究開発プログラムにおいてQPS研究所を選定し共同研究契約を締結  

2024-07-30 09:32:01 |    宇宙・地球
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙基本計画工程表に示された「小型・超小型衛星によるアジャイル開発・実証を行う技術刷新衛星プログラム」として、「小型技術刷新衛星研究開発プログラム」を現在推進しているが、2023年12月に共同研究提案要請を行い、契約相手方として、株式会社QPS研究所を選定し、今回、共同研究契約を締結した。

 JAXAが研究開発を進めている高性能オンボードコンピューティング環境(従来の宇宙機用コンピューティング環境の約40倍の能力を持ち、地上用の汎用計算機で開発したソフトウェアを軌道上でそのままインストールして実行できる環境およびソフトウェアのバージョンアップや異なるソフトウェアの追加を容易に行うことが出来る環境)及びオンボード高精度単独測位(PPP:Precise Point Positioning)技術を事業者が保有する衛星に搭載し、軌道上での技術実証を行うとともに、事業者と協力して同技術を活用した新たなサービス構想を実証する。

 今回の共同研究では、軌道上(オンボード)で高分解能の衛星画像処理を行うための高性能な計算機と高精度に衛星軌道位置情報を得る高精度単独測位(PPP)技術を組み合わせ、オンボードPPPアルゴリズムの成熟度をアジャイルに向上するため、オンボードで実験した結果を分析し、より良いアルゴリズムになるよう積極的に書き換える技術実証を行う。

 軌道上での実証結果を踏まえてオンボードPPPアルゴリズムを書き換える実証サイクルにより、従来の地上で開発して宇宙で実証する研究・宇宙実証サイクルよりも圧倒的に早くアルゴリズムの技術成熟度向上を目指す。

 オンボードPPP技術の成果は、地球観測衛星ユーザへの画像データ提供時間の短縮や衛星画像の精度向上、宇宙天気予報の高度化や上層大気観測への貢献等が期待される。

 今後、軌道上での技術実証に向けた技術調整を進める。また、刷新プログラムでは引き続き、新たな衛星利用サービスの実現に向けた研究開発・実証を推進していく。

 オンボード高精度単独測位(PPP:Precise Point Positioning)技術とは、測位衛星から放送される2周波の測位信号と、準天頂衛星から放送されるMADOCA(Multi-GNSS ADvanced Orbit and Clock Augmentation:高精度測位補正技術)補正情報を使用して、軌道上でリアルタイムにセンチメートル級の衛星軌道位置推定を行うことができる技術。MADOCA補正情報を使用しない場合に軌道上で実現できるリアルタイム衛星軌道位置推定精度は、数メートル~十数メートル程度。<宇宙航空研究開発機構(JAXA)>
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●科学技術ニュース●JAMSTECなど、小惑星リュウグウの水に満ちた化学進化の源流と水質変成の証拠を発見

2024-07-16 09:31:50 |    宇宙・地球
 海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋機能利用部門 生物地球化学センターの高野 淑識上席研究員(慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授)、九州大学大学院理学研究院の奈良岡 浩 教授、アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェイソン・ドワーキン主幹研究員らの国際共同研究グループは、慶應義塾大学先端生命科学研究所、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社、北海道大学、東北大学、広島大学、名古屋大学、京都大学、東京大学大学院理学系研究科の研究者らとともに、小惑星リュウグウのサンプルに含まれる可溶性成分を抽出し、精密な化学分析を行い、水と親和性に富む有機酸群(新たに発見されたモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、ヒドロキシ酸など)や含窒素化合物など総計84種の多種多様な化学進化の現況と水質変成の決定的な証拠を明らかにした。

 その中には、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、ピルビン酸、乳酸、メバロン酸などのほか、有機―無機複合体であるアルキル尿素分子群を含んでおり、物理因子と化学因子のみが支配する化学進化の源流が明らかになった。

 次に、二つのタッチダウンサンプリングサイトの有機物を構成する軽元素組成(炭素、窒素、水素、酸素、硫黄)および安定同位体組成、分子組成、含有量などの有機的な物質科学性状を総括した。

 同成果は、初期太陽系の化学進化の一次情報を提供するとともに、非生命的な有機分子群が最終的に生命誕生に繋がる進化の過程をどのように導いたかという大きな科学探究を理解する上で、重要な知見となる。

 小惑星リュウグウの水質変成の歴史は、同報告の親水性分子群の性状のほか、二次鉱物群や変質した岩脈の観察によっても支持される。

 これらの知見を比較検討するため、これから注目すべき調査研究として、NASA主導のOSIRIS-REx探査機による炭素質小惑星ベンヌ(Bennu)の地球帰還サンプルは重要な対象。筆者らは、国際的なサンプルリターンミッションが、非生命的な分子進化を探求する極めて重要な科学機会であると考えている。

 一方、日本でも、JAXA主導の火星衛星サンプルリターン計画「MMX」を含め、新たな太陽系物質科学の国際プロジェクトが進行している。

 同成果の鍵の一つは、元素および分子レベルの先鋭的な分析技術と先進的な物質科学の相乗効果。このような技術基盤は、領域を超えた学術界への波及に限らず、性状未知サンプルの品質検定等の社会的な要請、革新的な研究開発を生み出す新しい知識の社会還元に貢献すると考えられる。<海洋研究開発機構(JAMSTEC)>
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●科学技術ニュース●住友林業と京都大学、世界初の木造人工衛星を完成させJAXAへ引き渡し宇宙での運用へ

2024-05-31 09:47:00 |    宇宙・地球
 住友林業と京都大学は、2020年4月より取り組んできた「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」で、約4年かけて開発した木造人工衛星(LignoSat)を完成させ、6月4日にJAXAへ引き渡すこととなった。

 完成した木造人工衛星は、1辺が100mm角のキューブサットと呼ばれる超小型の衛星で、NASA/JAXAの数々の厳しい安全審査を無事通過。世界で初めて宇宙での木材活用が公式に認められた。

 宇宙空間での運用に向け2024年9月に、米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げ予定のスペースX社のロケットに搭載し国際宇宙ステーション(ISS)に移送する。

 ISS到着から約1か月後に「きぼう」日本実験棟より宇宙空間に放出される予定。

 今後は木造人工衛星から送信されるデータ解析を通じ、木の可能性を追求し木材利用の拡大を目指す。

 今回の木造人工衛星の開発は2022年3月~12月までISSの船外プラットフォームで実施した木材宇宙曝露実験をはじめ、地上での振動試験、熱真空試験、アウトガス試験など様々な物性試験の結果得られたデータに基づいて行っている。

 木材宇宙曝露実験では温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う過酷な宇宙の環境下でも、割れ、反り、剥がれ等はなく木材の優れた強度や耐久性を確認している。

 その他の地上試験でも木材は宇宙飛行士の健康や安全、精密機器や光学部品などに悪影響を及ぼさないことが明らかになった。数々の実験、試験を経てNASA/JAXAの審査に合格したことで、宇宙空間での木材活用の安全性が証明された。

 木造人工衛星がNASA/JAXAの安全審査に合格し、宇宙空間での木材利用が認められたことは宇宙業界にとっても木材業界にとっても非常に貴重な1歩。持続可能な資源である木の可能性を広げ、更なる木材利用を推進する上で大きな意義がありる。

 ISSから放出後は、木造構体のひずみ、内部温度分布、地磁気、ソフトエラーを測定し、京都大学構内に設置された通信局にデータを送信する計画。今後はこの木造人工衛星から得られる各種データの分析を進める。

 京都大学は今回のLignoSat1号機の開発ノウハウと運用データを、これから計画を進める2号機の設計や2号機で計測を検討するデータの基礎資料としていく。

 住友林業は、今回の開発を通して得られた知見をさらに分析し、ナノレベルでの物質劣化の根本的なメカニズムの解明を目指す。このメカニズムを解明することで木材の劣化抑制技術の開発、高耐久木質外装材などの高機能木質建材や木材の新用途開発を推進する。従来は木材が使われていなかった箇所での活用、例えばデータセンター施設等への木材利用の拡大に繋げ、林業界、木材業界の発展に貢献する。<住友林業>
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●科学技術ニュース●国立極地研究所とNICT、太陽風の観測値からオーロラの広がりや電流の強さを瞬時に予測可能なエミュレーを開発

2024-05-17 09:35:08 |    宇宙・地球
 国立極地研究所の片岡龍峰准教授、情報通信研究機構(NICT:エヌアイシーティー)の中溝葵主任研究員、統計数理研究所の中野慎也教授、藤田茂特任教授の研究グループは、南北両半球のオーロラの広がりや電流の強さを瞬時に予測する新しい手法を開発した。

 オーロラの輪を再現する物理シミュレーション結果の膨大な計算データを用い、物理シミュレーション結果を模倣する機械学習エミュレータSMRAI2(サムライ2)を開発することで、オリジナルの物理シミュレーションの約100万倍の高速化に成功し、これまで30日かかっていたものを数秒で出力できるようになった。

 高速なエミュレータを用いることで多数のシナリオを生成することができ、それに基づく現況分析や確率的な予測など、高度な宇宙天気予報への発展が期待できる。

 同研究では、NICTが宇宙天気予報の一環として運用しているオーロラ電流系の物理シミュレーションREPPU改良版で計算された、数年分の入出力データを機械学習の学習データとした。

 Echo State Network(ESN)という時系列機械学習モデルを訓練することで、REPPU改良版のオーロラ電流系の計算結果を高度に再現するエミュレータSMRAI2(サムライ2)を開発した。

 SMRAI2は、任意の太陽風時系列データを入力として与えることで、南北両半球のオーロラオーバルの広がり、その時間変化、オーロラ電流の強さを表すAE指数などを瞬時に出力できる。

 オリジナルの物理シミュレーションREPPUと良く似た計算結果を得るために、約100万倍の高速化に成功し、これまで30日かかっていたものを数秒で出力できることが、SMRAI2の最大のメリット。

 SMRAI2のパフォーマンスを示す例として、例えば、人為的に作成した太陽風を一定時間与え続けることで、太陽風に対応して規則的に変化するオーロラの電流系パターンが、ほぼ完全に再現されることは、従来の経験モデルの上位互換であることを意味する。

 また、実際に観測された複雑に変化する太陽風を与えることで、非常に複雑なオーロラジェット電流の時間変化も再現される。

 今後、SMRAI2のメリットである高速性を活かして、わずかに異なる様々な太陽風データの入力によって結果にどれほどばらつきがでるのか、という評価をリアルタイムで行うアンサンブル予測や、リアルタイム観測データとエミュレータの結果をデータ同化手法によって補正を行うことで現実により近い予測を選び出すなど、高度な宇宙天気予報の発展が期待できる。<情報通信研究機構(NICT)>
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●科学技術ニュース●水エンジン宇宙ベンチャーのペールブルー、茨城県つくば市に水推進機の生産技術開発拠点を立ち上げへ

2024-02-07 09:32:55 |    宇宙・地球
 ペールブルーは、宇宙産業のコアとなるモビリティの創成のため、茨城県つくば市に水推進機の事業拡大に向けた「つくば生産技術開発拠点」を立ち上げる。また茨城県の補助制度「茨城県企業立地促進補助金」に採択され、約1.5億円の補助見込額となり、茨城県との連携も強化していく。

 近年、低コストかつ短期間で開発可能な小型衛星が登場したことで、世界の民間企業の宇宙産業への参入が増加し、ビジネス利用が急拡大している。

 この中で中核をなす成長ドライバーが、複数の小型衛星を打ち上げてお互いに協調、連携させ、通信や地球観測等のサービスを提供する衛星コンステレーション。

 衛星コンステレーションの実現には宇宙空間での複数の衛星の位置関係の調整が必要であり、加えて宇宙ゴミの抑制も行う必要がある。

 同社が開発してきた推進機は、衛星コンステレーションにおいて必要不可欠な製品となっている。

 同社は、3Uキューブサットから700kgの衛星まで、さまざまな人工衛星のミッションに適した先進的な電気推進機を提供している。同社の推進機は推進剤として水を使用し、高圧貯蔵を必要としないため、安全で費用対効果が高く、持続可能なソリューションとなる。

 2023年3月における同社の水推進機の宇宙作動の成功をきっかけに、国内外の衛星事業者からの問い合わせが急増していることから、水推進機の事業拡大に向けた生産技術開発拠点を茨城県つくば市に立ち上げることを決定した。<ペールブルー>
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●科学技術ニュース●北海道大学など、ヘリコプターを用いた東南極域の海洋観測に初成功しトッテン氷河・棚氷への高温水塊の流入経路を特定

2024-01-23 09:32:04 |    宇宙・地球
 北海道大学低温科学研究所の中山佳洋助教、青木茂准教授、国立極地研究所の田村岳史准教授らの研究グループは、第61次南極地域観測事業の一環として、海上自衛隊の協力のもとヘリコプターを用いた海洋観測を実施し、東南極で最も融解しているトッテン氷河・棚氷への高温の水塊の流入経路を世界で初めて特定した。

 日本が集中観測を実施している東南極域に位置するトッテン氷河・棚氷は、氷が全て損失すると約4メートル海面が上昇するとされ、その影響の大きさから世界的に注目を集めている。

 南極の氷が失われる原因は、暖かい海水が棚氷下部へ流入すること。

 そのため、南極沿岸域へ流れ込む温かい水塊の流入経路の特定とその変動の解明が、南極氷床による海面上昇を予測するための喫緊の課題となっている。

 しかし、トッテン氷河・棚氷付近の大部分の海域は、分厚い海氷や多数の巨大な氷山に阻まれ海面がきつく閉ざされることが多く、世界各国の砕氷船をもってしても、これらの海域に侵入することが困難であるため、これまで海洋観測ができていなかった。

 そこで、同研究グループは南極観測船「しらせ」からヘリコプターで観測点へと移動し、AXCTD及びAXBTと呼ばれる2種類の海洋観測測器を投下し、これらのセンサーから送られてくるデータを取得することで、トッテン氷河・棚氷沖全67地点の海の中の温度、塩分を調査した。

 このようなヘリコプターを使った大規模な海洋観測に成功したのは、南極域では初のこと。

 また、得られたデータの解析により、トッテン氷河・棚氷への高温の水塊の流入の全容を捉えることにも成功した。

 トッテン氷河・棚氷への高温の水塊流入の経路が特定できたことで、砕氷船を用いた重点的な観測を実施すべき場所が特定できた。同研究で得られた知見は、今後の海洋観測計画や数値モデル開発に役立てられる。

 また、ヘリコプターを用いた南極沿岸域観測が棚氷へ向かう高温水塊の流入経路の特定に有効であることが示された。
 
 今後、類似した観測が日本を含め、国際的に継続されることが期待される。例えば、オーストラリアでは、East Antarctic Grounding Line Experiment(EAGLE)というプロジェクトが立ち上げられ、日本も共同に、航空機を用いた南極の沿岸域の観測を実施することが計画されている。<国立極地研究所>
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