“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●IHI、出光興産徳山事業所のナフサ分解炉においてアンモニア燃焼技術を実証  

2024-06-05 09:32:03 |    化学
 IHIおよび株式会社IHIプラントは,出光興産が、同社徳山事業所(山口県周南市)で実施した商業用ナフサ分解炉でのアンモニア燃焼実証において、アンモニア専焼バーナを提供するとともに、アンモニア貯蔵タンクや配管などの中間供給設備の設置工事を行った。

 2月6日~8日に実施された実証により、商業用ナフサ分解炉の既存燃料の2割超をアンモニアに切り替えて燃焼することを国内で初めて実証した。

 これはIHIの燃焼技術と,出光興産のオペレーションノウハウにより実現した世界でも先進的な技術。

 IHIと出光興産は,同事業所においてアンモニアサプライチェーン構築に向けた検討に共同で取り組んでいる。

 この協業の一環として,同事業所の既設ナフサ分解炉において燃焼実証を実施した。今回の実証では,IHIがナフサ分解炉用のアンモニア専焼バーナを開発し,実証対象である既設ナフサ分解炉のガスバーナの一部を今回開発したアンモニアバーナに変更した。

 また,IHIプラントは,アンモニアの貯蔵タンクや配管などの中間供給設備,ナフサ分解炉におけるアンモニア燃焼設備の設置工事を行った。
 
 IHIは,2021年よりナフサ分解炉用アンモニアバーナの開発に着手した。特性を比較するため複数のプロトタイプバーナを用いて,IHI相生工場(兵庫県相生市)内の基礎燃焼試験炉(1 MWth)で燃焼性能を評価し,最適形状を選定かつNOxや未燃アンモニアの排出規制値といった要求仕様を満足していることを確認した。

 開発したバーナの実証は,出光興産のオペレーションノウハウに基づく指導のもと,同社徳山事業所の操業中のナフサ分解炉で実施し,投入熱量比20%程度までの範囲においてアンモニアが安定燃焼可能であることを確認した。

 また,適切に燃焼調整することで排ガス中のNOxを排出規制値以下まで低減でき,未燃アンモニアが検出されなかったことから環境性能においても問題がないことが確認できた。

 今後,同バーナを他のナフサ分解炉にも展開することで、燃料アンモニアの利用拡大による脱炭素化に貢献できる。また,今回得られた技術的知見は,他の工業炉やバーナへの応用を検討していく。<IHI>
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★科学技術ニュース★産総研、電子・機械・構造部材内部で融けずに蓄熱や保冷できる高い蓄熱密度と堅牢性を両立させた相変化蓄熱部材を開発

2019-03-07 09:30:43 |    化学

 産業技術総合研究所(産総研)磁性粉末冶金研究センターエントロピクス材料チーム藤田麻哉研究チーム長、中山博行 主任研究員、杵鞭義明主任研究員は、高い蓄熱密度と堅牢性を両立させた二酸化バナジウム相変化蓄熱部材を開発した。

 これまで産総研は、二酸化バナジウムを焼結できることを見いだしていたが、得られる焼結体は脆(もろ)く部材としては使用できなかった。

 今回、焼結中にバナジウムと酸素の特殊な反応を起こす粉末原料を開発し、これまで固化成型が著しく困難であった二酸化バナジウムの焼結を容易にし、物質の相変化の潜熱により蓄熱機能を持ち、緻密で堅牢であり加工可能な二酸化バナジウムのバルク部材を実現した。

 融けて機能する従来型の潜熱蓄熱材と異なり、今回開発した部材を潜熱蓄熱材として用いると容器などに入れなくても形状を維持できるので、容器自体や容器との間の空隙などによる無駄な熱損失が無い。

 また、電気・機械部品に直接内蔵して熱・温度対策に利用したり、構造部材などに組み込んで未利用熱・自然熱を有効利用したりするために形状・形態を自在に選択できる。

 今後は、今回開発した部材の熱伝導を評価するとともに、蓄熱温度域や蓄熱量など、利用目的に合わせて特性を調整できるように材料設計を進めていく。また、熱交換器などを模したモジュールを用いて動作試験を行う。さらに、将来的には電場、圧力などを加えることで能動的に蓄放熱できる動作を目指す。

 

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★科学技術ニュース★NIMSなど、機械学習により世界最高クラスの熱放射多層膜を設計し実証に成功

2019-01-28 09:39:44 |    化学

 物質・材料研究機構(NIMS)は、東京大学、新潟大学、理化学研究所と共同で、機械学習(ベイズ最適化)と熱放射物性計算(電磁波計算)を組み合わせて、世界最高クラスの狭帯域熱放射を実現する多層膜(メタマテリアル)を最適設計し、実験にて実証することに成功した。

 これによって高効率な省エネルギーデバイスの実現が期待される。

 同研究グループは、機械学習と熱放射物性計算を組み合わせることによって、熱放射性能を最適にするメタマテリアル構造の設計手法を確立した。今回は作製が比較的容易なメタマテリアルである多層膜構造を対象とし、3種類の物質を18層重ねて配置する組み合わせの中から最適なものを探索した。

 膜厚を変化させたことで、約80億通りにも上る候補構造の中から、熱放射性能を大幅に向上できる最適構造を探索したところ、半導体材料と誘電体が非周期的に並ぶような非直感的なナノ構造が得られた。

 さらに、この最適メタマテリアル構造を実際に作製してその熱放射スペクトルを計測し、極めて狭帯域な熱放射が実現できていることを実証した。

 従来の材料では、熱放射スペクトルの狭帯域化を示すパラメーターであるQ値が100を超えることは難しいとされてきましたが、今回、見いだされたナノ構造はQ値200に迫るものであり、大幅な狭帯域化に成功した。

 今回の成果は、新しい熱放射メタマテリアルの開発において、機械学習が有用であることを示している。

 無駄な熱エネルギーロスをなくし、所望の熱放射スペクトルを持つメタマテリアルが実現できることによって、高効率なエネルギー利用が可能となり、省エネルギー社会の実現へ貢献することが期待される。

 さらに、この手法は対象を選ばず、さまざまなナノ構造設計に適用できるため、今後の材料開発における新たな手法として、その性能向上に貢献することが期待される。

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■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「新炭素革命」(竹村真一著/PHP研究所)

2015-11-03 13:07:52 |    化学

 

書名:新炭素革命~地球を救うウルトラ“C”~

著者:竹村真一

発行:PHP研究所

目次:第1章 この世界は「炭素の魔法」で出来ている
    第2章 炭素の惑星—地球の履歴書
    第3章 「石油の世紀」と人類の飛躍
    第4章 想定外の罠
    第5章 地球の未来を拓く「新炭素革命」
    結び 地球価値創造Creating Planetary Valueとしての「新炭素文明」

 地球温暖化問題が、かまびすしく論ぜられている昨今、その元凶として炭素がやり玉に挙げられことが多くなってきた。炭素排出量という言葉が使われない日がないようにも感じられるほどだ。あたかも「炭素=悪玉論」が正しいかのような雰囲気が漂い始めてから、随分と時間が経過したように思う。これからも、このことが続くとなると、ますます「炭素=悪玉論」が人々の脳裏に深く刻み込まれ、「炭素は人類の敵だ」といったような論調が定着しそうである。しかし、そう短兵急に物事を考えずに、我々はもっと冷静になって炭素を見つめ直す時期に来ているのではないか。そんな時、この「新炭素革命~地球を救うウルトラ“C”~」(竹村真一著/PHP研究所)は、我々の炭素についての正しい道案内人としての役割を果たしくれる書籍である。

 「実際に僕らのからだを構成する要素は、タンパク質(アミノ酸)からDNA(遺伝子)、赤血球(ヘモグロビン)まで、ことごとく『炭素』を骨格に構成されている。人間のからだだけじゃない。植物も、光合成で作り出すおコメなどの炭水化物(糖やデンプン)も、そのからだを構成するセルロース(植物の繊維や紙の原料)も、美しい花の色を作り出す色素やハーブの薬効成分も、同じような炭素を基本とした構造でできている」。つまり、「炭素=悪玉論」どころか、炭素が存在しなければ、今の地球環境は出現しなかったことになる。酸素と同じように炭素は、あまりにも我々の身近なところにあるため、我々はその存在を、見過ごしがちだ。本来的に炭素は、4本の電子の手を持っており、さらに電気的に中性でプラスやマイナスの偏りがない。このため、多くの元素をつなぎ合わせることのできる機能を宿しているのだ。「まず何より、炭素は優れた『ネットワーカー』だということ」を認識しなければなるまい。

 「第2章 炭素の惑星—地球の履歴書」と「第3章 『石油の世紀』と人類の飛躍」において、これまで人類が炭素を含んだ石炭と石油で如何に生活を向上させてきたかを説き起こす。例えば、「世界の風景を一変させた近代の『炭素の魔法』」と題した表を見てみよう。1712年イギリスでコークス(炭素の純度を高めた石炭)を使った製鉄法の発達。1828年ウェーラー(独)による初の人工的な有機物(尿素)の合成。1851年グッドイヤー(米)によるゴムの発明(天然ゴムに硫黄を加える)。1859年ドレーク(米)による最初の大規模な油田の掘削。1870年アメリカでプラスチック(セルロイド)の実用化。1908年T型フォードの発売(ガソリン自動車の大量生産化の開始)。1913年“空気をパンに変える”ハーバー・ボッシュ法(窒素固定、化学肥料)。・・・これらのように人類は、炭素を中核とした技術革新により、現在の文明をつくり上げてきたことが、ここからよく読み取れる。それも高々ここ200年の間にである。

 つまり、「炭素=悪玉論」の発生源は、人類があまりにも炭素に頼って技術革新を行って来たこと自体にあるのである。それでは炭素があまりにかわいそう過ぎるというものだ。「第4章 想定外の罠」のおいて、オゾンホール問題や地球温暖化問題の本質が詳細に解説されている。そして同書のハイライトとも言うべき「第5章 地球の未来を拓く『新炭素革命』」の章へと続く。「あらたな『炭素の魔法』は、石油由来のものだけでなく、鉄やガラス、シリコンなど人類文明の核心を支えてきた無機物のマテリアルも、どんどん『炭素ベース』のものへと変えつつある」のである。同書では、「21世紀は『炭素の世紀』―鉄とシリコンの文明を越えて」と題して、鉄の4分の1の重さで、10倍以上強く、硬さも7倍の「炭素繊維」、現在のシリコン・ベースの半導体を使ったものよりはるかに高速かつ低電力のコンピューターをつくり出すことが期待される「カーボン・ナノチューブ」、炭素化合物を利用した「有機EL」など、炭素由来の新技術が紹介される。そして、最後には水素との融合技術、人工光合成技術など、近い将来実現しようとしている新しい技術に到達する。同書を読み終える時には、「炭素=悪玉論」者だった読者は多分、「炭素=善玉論」へと考えが変わっているであろう。(勝 未来)

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■科学技術ニュース■NIMS、分子技術を活用して金ナノ多孔体を実現

2015-03-26 07:26:09 |    化学

 物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)山内悠輔独立研究者らは、国内外の研究機関との国際共同研究において、高分子を鋳型として活用することで、均一で規則的なナノ空間を持つ金ナノ多孔体の開発に成功した。

 得られた金ナノ多孔体の細孔中には、特徴的な高強度電場が確認され、表面増強ラマン散乱(SERS)が観測されるなどの特徴を有している。

 今後、分子センシングのためのSERS活性基板や電極触媒など、様々な応用が期待される。さらに同技術は、金に留まらず、様々な金属・合金系に適用でき、またブロックコポリマーの分子サイズを変えることで、より広範囲で細孔径を制御することが可能なため、組成・構造の両面から用途にあった金属ナノ空間材料をテーラーメイドでデザインすることができる。

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●科学技術書・理工学書<ブックレビュー>●「元素はどうしてできたのか」(櫻井博儀著/PHP研究所)

2014-11-04 10:30:13 |    化学

書名:元素はどうしてできたのか~誕生・合成から「魔法数」まで~

著者:櫻井博儀

発行:PHP研究所(PHPサイエンス・ワールド新書)

目次:第1章 そもそも元素とは
   第2章 元素はいかにして生まれたか
   第3章 核図表と原子核研究
   第4章 実験室で元素をつくる
   第5章 日本の加速器研究の歴史
   第6章 RIビームファクトリーとこれからの原子核物理学

 「元素はどうしてできたのか」(櫻井博儀著/PHP研究所)は、元素についてゼロから知りたいという人にとって大変ありがたい書籍である。数式はほとんど出てこないので、数学が苦手な人でも読みこなせるうえ、図表類が豊富に掲載されているので理解しやすい。しかも、各章とも歴史に沿って説明がなされているので、読者は歴史を辿りながら読めるので、記憶しやすくもある。しかも、内容自体は最新の技術成果に基づいているので、単なる元素の易しい話にとどまらず、最先端の技術成果にも触れられるように工夫されている。

 そもそも、人々は何故元素に引き付けられるのであろうか。その理由の一つは、人間の体そのものが、宇宙から来た元素から成り立っているという事実からではなかろうか。人間の体は、65%の酸素、18%の炭素のほか、窒素、ナトリウム、マグネシウム、リン、硫黄、塩素、カリウムなどの宇宙から来た元素から成り立っているという。それならばこれらの元素は、どんな性質を持ち、どんな振る舞いをしているのかが知りたくなる。また、理研が発見した113番目の元素とはいったい何なのかも知りたい。しかし、学校で習った化学の教科書を一から学び直すのも、これまた億劫だ。そんな時に同書は、読者の素朴な疑問に的確に答えてくれる。

 「第1章 そもそも元素とは」では、古代ギリシャや古代中国の先人たちが、元素をどのように認識していたかから解き起し、メンデレーエフの周期表についての紹介が書かれている。まあ、この章は同書を読み解く上での基礎知識の位置づけといえる。「第2章 元素はいかにして生まれたか」では、元素がつくられる3つのタイミングの話。一つ目は宇宙がはじまった直後に起こったビッグバン、二つ目は自ら輝く星である恒星の内部、三つ目は超新星。ニュートリノの観測に成功したことにより、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏で一躍有名になったカミオカンデは、もともとは陽子の寿命の実験につくられたが、後になってニュートリノの観測に転用されのだという。そして陽子の寿命はいまだに不明ということだ。「第3章 核図表と原子核研究」では、現在知られている原子核は約3000個だそうだが、これらのすべての原子核を整理して並べた核図表が詳しく紹介される。

 「第4章 実験室で元素をつくる」は、加速器の話題が中心となり解き進められる。蛍光灯が明るくなる原理は加速器と同じとは驚き。最後には、理研が発見した113番目の元素の話も出てくる。「第5章 日本の加速器研究の歴史」は、1937年に理研につくられたサイクロトロンは、世界で2番目のものだったなど、日本の先人たちのこれまでの業績が紹介される。そして最後の「第6章 RIビームファクトリーとこれからの原子核物理学」では、これまで大発見をしてきた理研のRIビームファクトリーの紹介と、究極の原子核モデルの構築を目指していることなどが述べられる。同書は、そもそも元素とは何かから始まり、最後は原子核研究の最先端の状況までに行き着く。つまり、同書は元素の入門書でもあり、現在の元素の研究の最先端の解説書にもなっているのである。(勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「元素周期表で世界はすべて読み解ける」(吉田たかよし著/光文社)

2013-03-19 10:41:21 |    化学

書名:元素周期表で世界はすべて読み解ける―宇宙、地球、人体の成り立ち―

著者:吉田たかよし

発行所:光文社(光文社新書)

発行日:2012年10月20日初版第1刷

目次:第1章 周期表には何が書かれている?
      第2章 周期表から宇宙を読み解く
        第3章 化学反応を繰り返す人体
        第4章 私たちはなぜ、動くことができるのか
        第5章 レアアアースは〝はみだし組〟ではない!
        第6章 美しき希ガスと気体の世界
        第7章 周期表からリスクと健康を見きわめる

 元素周期表は、誰でもが学校で習い、基礎的な知識はあるはずなのであるが、これがなかなかの曲者で、周期表の形は頭に入っていても、何故、水素が左上にあって、ヘリウムが右上にあるのか、問われると即答できない人が出てくる。さらに、典型元素と遷移元素はどう違うのか、と言われると正確に答えられる人は確実に減る。何故こんなことになるかというと、学校を卒業して社会人になっても、周期表を知らなくても生活はできるし、特に不便はないものだから、脳が自然に「これは忘れても差支えない」と勝手に判断して、忘れ去ってしまうからである。ところが、東日本大震災による福島原子力発電所の放射能汚染が現実の問題として降りかかってくると、放射性物質とはどういうものか、我々はこれにどう対処すべきなのか、という切実な問題が浮上してくる。さらに最近レアアースを如何に確保するかが日本の課題だ、と言ったニュースが飛び交う。これらの問題は、周期表そのものに関わる問題であり、我々一人一人が周期表を理解していなければ、正確な判断ができない。

 この「元素周期表で世界はすべて読み解ける」(吉田たかよし著/光文社新書)は、このような時に大変役に立つ書籍である。つまり、学校の教科書のような無味乾燥なところはなく、科学物語を聞いているような状態で、誰もが周期表の基礎知識を身に付けることができる、優れた著作物なのである。これは、著者の吉田たかよし氏の経歴に関係することが容易に想像できる。吉田たかよし氏は、東京大学大学院を卒業後、NHKに入り、アナウンサーとして活躍した後に、北里大学医学部で医師免許を取得し、医師として働き、現在は、東京理科大学客員教授、医学博士の肩書を持っている。このため文章は平易であるにも関わらず、科学的な根拠に基づいた丁寧な解説がなされ、この結果、この書を読めば、誰でもが学校で習った周期表の基礎知識のおさらいが出来る上、「第3章 化学反応を繰り返す人体」「第4章 私たちはなぜ、動くことができるのか」「第5章 レアアアースは〝はみだし組〟ではない!」などの章を読むと、周期表が如何に我々の日常生活と密接に結び付いているかが、よく理解できる。

 この書から、“目から鱗”の例の幾つかを挙げてみよう。「周期表は、左からからではなく両サイドから攻める」。一瞬何を言っているか疑問に思うかもしれない。しかし、よく考えると、我々は、学校で最初に周期表を見たとき以来、周期表を見ると、つい左から順に右へ見る習性が出来上がってしまっている。これは、学校の先生が「周期表は、左から順に右へ読みなさい」と教えたわけではなく、我々が勝手に無意識にやっていることなのだ。この書では、「サッカーの試合で勝つには、守りが堅い中央から攻めるのではなく、両サイドから突破したほうがよいといいますが、周期表を攻略する場合も同じです。やはり両サイドから攻めたほうが、効率よく理解できるのです。なぜかというと、周期表は両サイドに近いほど、縦一列に並んだ元素の特徴がはっきりしているからです」。これに沿ってもう一度、周期表を見てみると、なるほど理解がいく。そして両サイドに並んだ、これらの元素は、元素の周期性が典型的に表れるから“典型元素”と呼ばれ、周期表の真ん中にある元素は、両サイドを「つなぐ元素」という意味から“遷移元素”と呼ばれるのだ。ただ、遷移元素は、どうでもいい元素という意味でなく、縦でなく、今度は横同士の元素の性質が似ている元素なのだ。このように説明されると、抵抗なく周期表が頭に入る。

 もう一つの例。世界最悪の原子力事故に見舞われ、しかも唯一の被爆国である日本。このことは、放射線能放射性物質)についての知識を、どの国の国民より知っておくべきであることを物語っている。では、我々の放射能についての知識は豊富か、と訊かれれば、イエスとは言えないのが現状であろう。では、どうするか。この書を読むと、この場合でも周期表の理解により、放射能への正確な知識を、身に着けることができることを理解できる。内部被爆を防ぐため、「セシウムを体内に蓄積させないためには、カリウムを取ること」「ストロンチウムを体内に蓄積させないためには、カルシウムをとること」などと言われるが、これは、セシウムとカリウム、ストロンチウムとカルシウムとが、元素表の上下の位置関係にあり、このことが原因となり、人体が誤って吸収することに起因するのだ。このように見ていくと、周期表は我々の日常生活と関係ないどころか、周期表を知らないと、我々は生き延びることすら出来なくなってしまうかもしれないのだ。本書を読み終え、改めて書名の「元素周期表で世界はすべて読み解ける」を見ると、なるほどな、と感じられる書物である。(勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「水を科学する」(川瀬義矩著/東京電機大学出版局)

2013-02-19 10:34:39 |    化学

 

書名:水を科学する

著者:川瀬義矩

発行所:東京電機大学出版局

発行日:2011年4月20日第1版第1刷

目次:第1章 水の役割—地球は水に支配されている—
     1 人間にとって重要な水
     2 水の循環が地球の気象を支配している
     3 おいしい水と健康によい水—おいしい水を求めて—
     4 食品の水—料理の味も水次第—
    第2章 水は特殊な液体—水の構造と性質—
     1 水分子の構造—極性を持つ構造—
     2 水の状態—通常の温度と圧力で固体,液体そして気体にもなるめずらしい物質—
     3 水の特性—水は特徴的な性質を多く持った不思議な物質である—
     4 重水と軽水—重水は軽水よりも特異な水—
     5 超臨海水—液体であって気体でもある流体—
     6 高温高圧の水(亜臨界水)と高温高圧水蒸気—反応性に富んだ水—
    第3章 機能水—活性化の方法と利用法—
     1 自然による機能化—自然が活用化した水の利用—
     2 人工的な機能水—意図的に活性化した機能水—
     3 科学的根拠が示されていない機能水—いろいろある「不思議な水」—
    第4章 これからの水と人間—環境に優しい水—
     1 健康に役立つ水
     2 環境に役立つ水
     3 エネルギーに役立つ水

 よく地球は、“水の惑星”と言われる。これは生命が存在できる源が水であり、水が存在しない星には、原則として地球上に見られるような生命は存在しない。そのため、現在、火星で行われている探査では、かつて水が存在していた証拠を探ろうと、懸命な活動が行われている。考えてみると、人間は液体である血液の循環で生命を保っているし、植物も根から水分を吸い上げ、高いところにある葉っぱへ、くまなく養分を送り届けることによって生命を維持している。何故、これが可能かというと水の持つ毛管現象を利用しているのである。もし水がなければ、人間でも、動物でも、植物であっても、全身に養分を送り届けることはできない。そんな重要な水ではあるが、意外に水に正面から取り組んだ書籍は多くはない。特に一般向けに体系的に書かれた啓蒙書に至っては、あまり見かけない。

 そんな、分りきっているようで、実は分り難い水の正体を、平易に解説したのがこの「水を科学する」(川瀬義矩著/東京電機大学出版局)である。平易といっても化学的に厳密に定義をしながら体系的に書かれているので、化学専攻の学生にも大いに読み応えはあろう。例えば「水の特性—水は特徴的な性質を多く持った不思議な物質である—」を見ると、次のように水の特性が紹介されている。①水は氷になって体積を増やす―4度Cの不思議―②水の融点は一般の物質に比べて異常に高い―大きな熱を奪う水―③水は比熱(熱容量)が高い―水は暖まり難く冷め難い―④水の表面張力は多きい―体のすみずみまで血液が行き渡る―⑤水の粘度は温度が高くなると減少する—流体の流れやすさ—⑥水は物質を溶かしやすい—物質を溶かして輸送する—。

 一般的に水道水は不味いと言われる。では、何が原因かと問われれば、普通は、塩素と答えがちだが、実は違っている。不味い水の原因は、塩素そのものの臭いではなく、塩素と水中に含まれているアンモニアと結合してできた三塩化窒素などの化合物によるものだそうである。上水道には、多量の塩素が含まれているが、それは殺菌のため。塩素は水中に長時間残留する性質があるため、送水中の細菌による再汚染を防ぐことができるのである。オゾンの殺菌力は強いが、塩素のように殺菌力は持続しないため、オゾンだけの殺菌力では不十分なのである。というわけで、現時点での最良案はというと、塩素消毒とオゾン消毒を併用し、さらに水道蛇口で中空糸膜フィルタを使う方法である。我々が毎日使う水道水ですら、このように、その化学的根拠を説明してみなさい、と言われると、正確に答えられる人は意外に少ないのではないだろうか。そんな“水の常識”を教えてくれるのも、この書の特徴である。これから重要となる、水の安全性を維持するにも、水の基礎知識は欠かせない。

 今、世界は水資源の確保が重要な課題となっている。その際に必要となるのが海水の淡水化である。豊富にある海水を真水にするには、蒸発法、逆浸透法、冷凍法などがある。これらの方法を基に製品化が進められ、既に世界各国で使われ始めている。また、海洋温度差発電、波力発電、潮汐発電など、エネルギー問題の解決策としての水の活用が喫緊の課題として浮上してきており、これらに対する基礎的な知識も欠かせない要件だ。最後に、筆者は言う。「『不思議な水』がこの世の中にはたくさんある。本当に機能を持っているのであれば、実証実験を行い是非その科学的根拠を明確に示してもらいたい」と。ここでは、「π(パイ)ウォーター」「波動水」「電磁場処理水(磁気処理水)」「活性水素水」が取り上げられており、それぞれの疑問点が挙げられている。少し前、テレビの広告で盛んに「マイナスイオン」という言葉が使われていた。「『マイナスイオン』とは何?『マイナスイオン』が体にいい根拠は?」ということは、そっちのけで商品のPRに使われていたのだ。今、「不思議な水」の正体の解明が待たれる。この書は、化学的な観点から水を厳密に定義し、その上に立って、我々の生活での水の役割を平易に解説した、水をテーマにした貴重な書籍である。
(勝 未来)

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