“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語―」(吉田武著/幻冬舎)

2012-04-30 10:33:55 |    宇宙・地球

書名:はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語―

著者:吉田武

発行所:幻冬舎(幻冬舎新書)

発行日:2006年11月30日第1刷発行

目次:プロローグ・挑戦
      第1部大地の詩
     第1章逆転の糸川英夫
     第2章遺産から財産へ
     第3章栄光、落胆、そして試練
    第2部天空の詩
     第4章虹の彼方へ、星の世界へ
     第5章「はやぶさ」への道
     第6章旅のはじまり
     第7章遂に来た、イトカワ!
    第3部人間の詩
     第8章旅路の果てに
        エピローグ・復活

 宇宙探査機「はやぶさ」ほど日本人全体に科学や宇宙への関心を高めてくれたプロジェクトはないであろう。小惑星「イトカワ」に降り立ち、その土を地球に持ち帰るという夢のようなテーマに果敢に立ち向かい、それを成し遂げたことは、賞賛に値することは勿論ではあるが、それ以上にこれからの日本人の生き方の先導役となるような人生訓的で哲学的な問題も提起したプロジェクトではなかったと思えてくる。

 吉田武著「はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語―」(幻冬舎新書)は、そんな大プロジェクトを日本のロケットの父と呼ばれる糸川英夫の挑戦から説き起こし、実に緻密にプロジェクトの全貌を解明してくれる。

 単なる物語に終わるのではなく、可能な限り技術的にも正確な資料を添えて解説してあるところが圧巻だ。この本は、まだ「はやぶさ」が地球に帰還しないうちに書き上げられたが、地球帰還の模様も補足されており、完結した内容となっている。

 宇宙とロケットに関しての素人でも読め、しかも同時に、将来宇宙とロケットの専門家を目指す人にとっても参考になるという、2つの側面を同時に満足させることに成功した貴重な記録といえる。(勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「日本人は知らない『地震予知』の正体」(ロバート・ゲラー著/双葉社)

2012-04-20 16:20:50 |    宇宙・地球

書名:日本人は知らない「地震予知」の正体

著者:東京大学理学部教授 ロバート・ゲラー

発行所:双葉社

発行日:2011年8月31日第1刷発行

目次:第1章 3・11「東日本大震災」の衝撃
     ・地震・津波・原発事故の複合災害
     ・与謝野馨・経済財政担当大臣の「神様の仕業」発言 ほか

    第2章 福島の原発事故は「想定外」だったのか?
     ・原子力発電所を直撃した巨大津波
     ・「想定外」というごまかし ほか

    第3章「予知はできない」と知っているのに知らん顔の御用学者たち
     ・血税3000億円が投入されてきた「地震予知」
     ・「地震を予知できるのは、愚か者とウソつきとイカサマ師」 ほか

    第4章 世にも不思議な地震予知を斬る
     ・東日本大震災に前兆現象はあったのか
     ・学者の研究発表の場は大衆誌? ほか

    第5章 震災大国・日本の進むべき道
     ・阪神・淡路大震災までは順風満帆?だった地震予知業界
     ・2010年には地震予知はできていた!? ほか

 国難と言われる東日本大震災から1年が過ぎ、今だ余震が続く中、東京都は、首都直下で起きるとされる東京湾北部地震(M7.3)で、都内約30万棟の建物が全壊・焼失し、約9700人が死亡するとの被害想定を発表した。日本国民にとって大地震は、昔の話ではなく、差し迫った緊急の課題なのだ。

 ロバート・ゲラー著「日本人は知らない『地震予知』の正体」は、地震の予知は出来ないものか、と常日頃考えている日本国民にとって、絶好のタイミングで発刊された書籍である。しかし、その内容は衝撃的ですらある。つまり、ロバート・ゲラーは、「地震予知は出来ない」という結論に達したと言うのである。

 さらに追い討ちを掛けるように、著者は、「正確な地震予知ができるならば、私もそれを望む。でも、できないと知りながら黙って研究費を受け取り続けている不誠実な学者たちは、その行為を即刻やめるべきである。偽りの研究活動に、いくら億単位の資金を賭けても、そこには未来はないから」と語る。

 何と地震予知が出来ないことを知っておきながら、研究者たちは予算を獲得し、未来のない研究に使っていると言うのだ。このことについては、当然反論があるはずであるが、少なくとも「地震の予知なんてできないのだから、高額の予算を無駄に使いなさんなよ」と主張する地震学者が、現在存在すること自体、門外漢の者にとっては衝撃的な事実だ。(勝 未来)

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