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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「図解 新エネルギーのすべて(改訂版)」(化学工学会編/工業調査会)

2012-09-03 10:44:01 |    エネルギー

書名:「図解新エネルギーのすべて(改訂版)」
 
著者:(社)化学工学会 SCE・Net編(執筆者:岩村孝雄、田中貴雄、田中勉、日置敬、松村真、溝口忠一、持田典秋、山岸千丈、山崎博、弓削耕)
 
発行所:工業調査会
 
発行日:2009年6月20日改訂版1刷
 
目次:はじめに
    改訂版の刊行に寄せて
    総論編 エネルギーの現状と展望
     ・「新エネルギー」を考える
     ・世界のエネルギー状況 ほか
    第1部 自然エネルギー
     第1章 太陽エネルギー
      ・太陽エネルギーの利用
      ・太陽電池の種類と原理 ほか
     第2章 風力エネルギー
      ・風車の種類と発電の原理
      ・風力発電設備の構成 ほか
     第3章 地熱エネルギー
      ・地熱発電の原理と設備
      ・地熱発電施設 ほか
         第4章 海洋・河川エネルギー
            ・中小水力エネルギー
      ・海洋エネルギーのあらまし ほか
     第5章 温度差エネルギー
      ・温度差エネルギーと地域冷暖房
    第2部 バイオマスエネルギー
      ・バイオマスのエネルギー利用
      ・バイオマスエネルギーの活用 ほか
    第3部 廃棄物エネルギー
     第1章 一般廃棄物エネルギー
      ・エネルギー利用に適した廃棄物
      ・ごみ焼却発電の設備 ほか
     第2章 産業廃棄物エネルギー
      ・廃プラスティックのエネルギー利用
      ・産業廃棄物の燃料利用 ほか
    第4部 化石燃料の新利用形態
      ・メタンハイドレート 氷に包まれた天然ガスを利用する
      ・オイルサンド重質油 ほか
    第5部 エネルギー利用の新技術
      第1章 燃料電池
       ・燃料電池の原理と構成
       ・燃料電池の種類 ほか
      第2章 コジェネレーションと分散発電
       ・コジェネレーションシステムの種類
       ・産業用コジェネレーション ほか
      第3章 ヒートポンプと蓄熱
       ・ヒートポンプの種類
       ・産業用ヒートポンプ ほか
      第4章 新エネルギー自動車
       ・ハイブリッド電気自動車
       ・燃料電池自動車 ほか
    全体総括 新エネルギー社会への展望
      おわりに
      参考文献一覧 ほか

 2012年7月1日から再生エネルギーによる発電の普及促進を目的とした「固定価格買取制度」(FIT)がスタートした。太陽光発電の場合、出力10キロワット以上で1キロワット時42円(20年間)という価格となる。以下、風力が出力20キロワット以上で23.1円(20年間)、地熱が出力1.5万キロワット以上で27.3円(15年間)、水力が出力1000キロワット以上3万キロワット未満で25.2円(20年間)、バイオマスがリサイクル木材使用で13.65円(20年間)となっている。このように、わが国においても「固定価格買取制度」がスタートした背景には、二酸化炭素排出量の削減、原子力発電の縮小などの課題があり、これらを実現するには、従来の原子力発電や火力発電に頼っていたエネルギー政策を、再生エネルギーを含む新エネルギーへと傾斜させなければならないという、国家レベルでの課題があるからである。さらに、化石エネルギーの有効利用と、非化石エネルギーの利用拡大を促す「エネルギー供給構造高度化法」など新しい法律の制定により、新エネルギーへの期待は一層高まっている。

 ここで言う新エネルギーとは、どのようなものを言うのであろうか。「自然エネルギー」と「リサイクルエネルギー」とを併せたものが「再生可能エネルギー」で、この「再生可能エネルギー」と「従来型エネルギー新利用形態」を併せたものを、「新エネルギー」と呼んでいる。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)では新エネルギーを「自然の力を利用したり、今まで使われずに捨てていたエネルギーを有効に使ったりする気球にやさしいエネルギー」と定義している。そしてそのメリットを「石油や天然ガスなどの化石燃料消費の軽減」「それに伴う二酸化炭素の排出量削減」であるとしている。現在、東日本大震災による福島原子力発電所の停止をはじめ、日本の各地に設置している原子力発電所の稼働を今後どうするかが、大きな社会問題としてクローズアップされてきている。つまり、従来の原子力発電を新エネルギーがカバーできれば、問題は解決の方向へと向かうはずであるが、現状ではそう容易ではない。そのための一つの施策として、「固定価格買取制度」がスタートしたのではあるが、決して即効性があるものとは言いがたい。逆に一般家庭がしわ寄せを食うだけという見方もあるほどだ。

 そこで、国民の一人一人が新エネルギーに対し正しい知識を持ち、それを国家レベルのエネルギー政策へ反映させねばならない。そのような時に、この(社)化学工学会 SCE・Net編「図解新エネルギーのすべて(改訂版)」(工業調査会)は、有力な手段になりうる書籍である。同書は、前半において、太陽や風力などの自然エネルギーと今後の拡大が期待されるバイオマスや廃棄物エネルギーを紹介している。また後半では、化石燃料の新しい利用形態と、燃料電池に代表されるエネルギー利用新技術を紹介している。これらの中には、まだ開発途上で実用化に至っていないものも含まれているが、近い将来、実用化の実現の可能性が高いと思われる。特に優れた点は、図表と写真がふんだんに取り入れられており、例え初心者であっても、個々の新エネルギーの技術と製品とが良く理解できることである。(社)化学工学会のエキスパートが執筆に参画しているので、内容的にも安心して読めるところがいい。文章も平易に書かれており、専門家でなくても充分に読みこなすことができる配慮がなされている。

 同書を読めば新エネルギーについての基礎知識は充分に付く。これからの社会は、エネルギー政策について国民の一人一人が、十分な知識を身に付け、それに基づいて意見を発信していく仕組みをつくり上げねばならない。同書は、技術者、科学者たちはもとより、一般の生活の中で使用するエネルギーの理解のための実用的な参考書、教科書となっている。このため、わが国のエネルギー政策立案にためには欠かせない存在と言ってもよかろう。新エネルギー政策におけるの今後の課題の一つは、発電コストをいかに下げるかである。いくら声高に原子力発電から太陽光発電への移行を叫んでも、肝心のコストが桁違いに高くては、実現性は低くなる。また、社会全体が早急にスマートグリッドを導入しなければ、新エネルギーも書いた餅に過ぎなくなる。そのためにも、太陽光発電をはじめとした新エネルギー用の送電網の確立はどうしても欠かせない。つまり、発送電分離の議論をより深めて行かねば、新エネルギー導入もなかなか進むことはできない。いずれにせよ、課題の多い新エネルギー政策を推進していく上で、同書は欠かすことのできない教科書役を果たすことになろう。(STR:勝 未来)

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