“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

■科学技術ニュース■「第43回国際物理オリンピック」で金メダル2名、銀メダル3名が受賞

2012-07-30 10:31:49 |    物理

 文部科学省と物理オリンピック日本委員会は、科学技術振興機構を通じて、国際的な科学技術コンテストに参加する若者を支援する事業を実施しているが、このたび、エストニア(タリン・タルトゥ)で81か国・地域378名が参加し開催された「第43回国際物理オリンピック」(2012年7月15日~24日)に参加した生徒が、金メダル2名、銀メダル3名を受賞したと発表した。

   金メダル 榎 優一   灘高等学校(兵庫県)         2年(17歳)

   金メダル 笠浦 一海 開成高等学校(東京都)       3年(18歳)
 
   銀メダル 大森 亮   灘高等学校(兵庫県)         2年(17歳)
 
   銀メダル 川畑 幸平 灘高等学校(兵庫県)         3年(18歳)
 
   銀メダル 中塚 洋佑 滋賀県立膳所高等学校(滋賀県) 3年(18歳)
 
 国際物理オリンピックは、1967年にポーランドのワルシャワで第1回大会が開催された物理の国際的なコンテスト。参加資格は、20歳未満で且つ大学などの高等教育を受けていないこととされている。各国から高校生等が参加し、物理学に対する興味関心と能力を高め合うとともに、国際的な交流を通じて参加国における物理教育を一層発展させることを目的としている。

  国際物理オリンピックにおける過去3年間の日本代表の成績は、次の通り。

   <2011年(第42回)タイ大会(参加規模:85か国・地域、393名)>
    金メダル3名、銀メダル2名

   <2010年(第41回)クロアチア大会(参加規模:82か国・地域、367名)>
    銀メダル1名、銅メダル3名、入賞1名

   <2009年(第40回)メキシコ大会(参加規模:72か国・地域、317名)>
    金メダル2名、銀メダル1名、銅メダル2名

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「てれこむノ夜明ケ」(若井登・高橋雄造編著/電気通信振興会)

2012-07-23 10:32:38 |    通信工学

書名:てれこむノ夜明ケ―黎明期の本邦電気通信史―

編著者:若井登・高橋雄造

発行所:電気通信振興会

発行日:1994年6月1日第1版

目次:1.電気通信が生まれるまで
      1.1情報の輸送
      1.2聴覚、視覚による通信 ほか

    2.電信機の発明
      2.1電池の発明
      2.2静電気式、電気化学式電信機 ほか

    3.電信機渡来と電信網
      3.1維新前の電信
      3.2電信の創業 ほか

    4.電話の登場
      4.1電話機の輸入と官用電話の開設
      4.2電信開業式 ほか

    5.無線の芽生え
      5.1無線通信の胎動
      5.2電波の登場 ほか

    6.電話ボックスの出現
      6.1電話ボックスの出現
      6.2海軍と無線電信 ほか

    7.無線電話の登場
      7.1TYK式無線電話機の発明
      7.2大北電信会社との独占権回収交渉 ほか

 現在、わが国のインターネットの普及率は、世界の先端を走り、通信コストも世界でも最も安い国となっている。所謂、通信先進国の仲間入りを果たすまでになっている。さらにWiFiなど無線インターネットの環境が充実されようとしており、一層高度の通信環境の実現を目指し、現在急速に通信インフラの整備が進められている。そのような通信インフラをベースとして、電子商取引などのネット販売の実績が急速に盛り上がってきており、従来の社会生活を一変させるような、様々なサービスが提供されつつある。要するにインターネット通信を軸とした通信革命とも呼べる、全く新しい社会が出現しつつあると言ってもいい状況になっている。

 このような通信革命時代を夢見ながら、わが国の通信技術者は、これまでどのような取り組みを行い、今日のインターネット時代に至ったのであろうか。改めてそうと問われると、意外に返答に窮してしまうのではなかろうか。そんな日本の通信技術のスタートから発展期にかけての黎明期の歴史を詳細に記述してあるのが若井登・高橋雄造編著「てれこむノ夜明ケ―黎明期の本邦電気通信史―」(電気通信振興会)である。通信技術の歴史と言っても、決して難しい技術用語の羅列ではなく、物語調に書かれているので、通信技術者ではなくても読みこなせるように配慮されており、読み終われば、わが国の通信史の概略が理解できるよう、よく整理されて記述されているのが同書の特徴だ。

 同書のはしがきに、次のような発刊のいきさつが紹介されている。「無線通信の主役、電波がヘルツによって発見された頃、日本では志田林三郎という偉才が活躍していた。わが国で初めての工学博士志田の業績を顕彰する集いが、平成4年10月、佐賀県多久市で開かれた。これがきっかけとなって、郵政省の中に、わが国の電気通信の歴史、特にその黎明期に光を当て、隠れた史実を発掘し、それらを後世に残すため、研究会がつくられた。その研究会は、1年余の作業の後、報告書を作成して解散したが、本書はいわばその副産物である」。ようするに、同書は、わが国の通信事業に携わってきた、郵政省、日本電信電話公社、国際電信電話、さらに通信メーカー各社などから専門家を結集し刊行したものだけに、わが国の各時代における通信事業が詳細な調査に基づき執筆されており、いわば、わが国の電気通信の歴史書の決定版といえるもの。

 わが国で最初に電波による無線通信装置が完成したのは、1897年(明治30年)7月のことであった。当時の逓信省電務局の研究機関として設立された電気試験所が担当し、浅野応輔所長が、電信係技師の松代松之助に調査を命じ、完成させた。松代は当時の乏しい資料の中から「ヘルツ波」という書籍により、独力で開発したという。マルコーニが2マイルの無線通信の実験に成功したのは1896年(明治29年)12月のことだから、半年少々の遅れであった。そして、ついに日本の無線通信技術が世界をリードする大発明が、電気試験所の鳥潟右一、横山英太郎、北村政二郎の3人の技術者により完成する。3人の頭文字を取って名付けられた「TYK式無線電話機」がそれである。このように、日本の通信の歴史は、欧米の進んだ技術をいち早く吸収し、これを基に世界最先端の装置を開発するという流れが以後続いて行くのである。(STR:勝 未来)

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■科学技術ニュース■九州工業大学、独自の宇宙衛星で350ボルトの世界最高発電電圧を達成

2012-07-16 10:37:33 |    宇宙・地球

 九州工業大学は、宇宙空間における太陽電池アレイを使った発電電圧において、世界最高電圧である350ボルトの発電電圧を達成した。これまでの最高値は、宇宙ステーションの160ボルト。

 同学は、2012年5月18日に、H2Aロケットにより高度680kmの太陽同期軌道に、同学の高電圧技術実証衛星「鳳龍弐号」を打ち上げたが、7月8日にメインミッションとして300V発電実験を行った。

 衛星から送信されてきたデータを解析したところ、60分間に亘って実験機器は正常に動作し、その内30分の日照時間中に330から350ボルトの電圧で安定して発電していることが確認された。

 また、その間に発電電圧によって、実験機器が-200V近くに帯電したことも確認されている。宇宙空間における太陽電池アレイを使った発電電圧は、これまで宇宙ステーションの160ボルトが最高値であり、350ボルトの発電電圧は世界初の快挙。

 同学衛星開発プロジェクトでは、今後、放電抑制実験・カメラ撮影実験・帯電計測実験等を実施して行く予定となっている。

 

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◆科学技術書<新刊情報>◆月刊Newton2012年7月号「特集:素粒子の世界」

2012-07-08 16:09:55 |    物理

書名:特集:素粒子の世界<月刊Newton(ニュートン)2012年7月号>

監修:村山 斉

発行所:ニュートン プレス

発行日:2012年6月7日

目次:プロローグ 素粒子とは何か
     身のまありのあらゆる物質は、結局、素粒子の集まりでしかない。素粒子を知ることは、
         自然界を知ることなのだ

   PART1“物質の素粒子”の仲間
     電子、クォーク、ニュートリノなど、物質を形づくる素粒子の仲間たちを紹介
    
   PART2“力の素粒子”の仲間
     “物質の素粒子”という役者だけでは自然界という劇は成立しない。役者どうしがおよぼ
         しあう「力」を知る必要がある

   PART3 素粒子物理学最前線
     万物に質量をあたえる「ヒッグス粒子」とは?宇宙を支配する「ダークマター」の正体は
         未発見の素粒子?

   PART4 最前線特別レポート
      現在、世界で最も注目をあびている研究機関「CERN(セルン)」。ヒッグス粒子探しの
          最前線をレポート

 2012年7月4日、欧州合同原子核研究機関(CERN<セルン>)は、「ヒッグス粒子」とみられる新しい粒子を99.9999%以上の確率で発見したと発表した。これは、2つの国際チームによる大型加速器を使った探索実験によるもので、年内にもヒッグス粒子と最終的に確認される公算が大きく、ノーベル賞級の大発見となるものとみられる。ヒッグス粒子は、宇宙や物質の成り立ちを説明する素粒子物理学の基礎である「標準理論」の中で、これまで唯一見つかってなかった素粒子。CERNでは、東京大学などの研究者が参加する「アトラスと欧米の研究者が参加する「CMS」の2つのチームに分かれ実験を行ってきたが、両チームとも2012年6月までの実験で、ヒッグス粒子とみられる新粒子の存在確率が99.9999%以上になったことを確認したもの。

 「ヒッグス粒子発見」のニュースは、新聞・テレビで大々的に報道されたので、素粒子に対する国民的関心が一挙に高まったと言えよう。我々の身の回りにある、ありとあらゆる物質は、「電子」と2種類のクォーク、すなわち「アップクォーク」と「ダウンクォーク」でできているが、これらの素粒子を研究する国際的な巨大実験施設として、スイス、ジュネーブの郊外に大型ハドロン衝突型加速器「LHC」が設置されており、今回のヒッグス粒子の発見も、このLHCがなくては到底不可能であった。LHCの建設費用は約9000億円で、東京のJR山手線の長さに匹敵する1周27㎞もあり、世界各国から1万人を上回る研究者が関わっている。LHCは、正に人類を挙げての一大実験施設なのである。

 現在の素粒子物理学の基礎となっている理論は「標準モデル(標準理論、標準模型)」であり、現在、この標準モデルを実証しようと世界の素粒子物理学者たちが、日夜奮闘しているわけで、今回のヒッグス粒子の発見は、この標準モデルが大きく一歩前進したことを意味する。標準モデルは、自然界にある4つの力(電磁気力、弱い力、強い力、重力)の統一にある。既に電磁気力と弱い力は、電弱統一理論により、統一的に理解することに成功している。現在、次の目標として、これに弱い力を加えた力の統一理論が研究されているのである。最終的には、さらに重力も加えて、全ての力を統一的に理解されることを目指している。何故、力の統一を目指すのかというと、「さまざまのものを少ない要素で美しく説明したいから」(村山 斉氏)である。

 このように、現在の素粒子理論は大きな飛躍を見せているわけであるが、素粒子理論の専門書はいずれも難しく、一般の人が理解するのは困難だ。しかし、ここまで大きなニュースになって、人々の関心を集めている素粒子について最低限の知識だけは持っておきたい、という熱いニーズに応えているのが「月刊Newton(ニュートン)」の2012年7月号の特集:素粒子の世界である。カラーのグラフィックスをふんだんに使い、初心者でも理解できるよう配慮されているのが嬉しい。極端な話、素粒子を全く知らないない者でも、丁寧にこの特集を読み終えれば、現在の世界の素粒子研究の最先端を理解することも不可能でない。東京大学カリブ数理連携宇宙研究機構の機構長である村山 斉が監修者となり、協力者に世界の第一線で活躍している人たちが参画しているので、内容的にも安心して読み通せる。(STR:勝 未来)

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■科学技術書・理工学書ブックレビュー■「エジソン 理系の想像力」(名和小太郎著/みすず書房)

2012-07-02 10:35:52 |    電気・電子工学

書名:エジソン 理系の想像力

著者:名和小太郎

発行所:みすず書房

発行日:2006年8月28日第1版第1刷

目次:オリエンテーション

    第1回 エジソンとシステム

      『メンローパークの回想』
      ジュールの法則
      白熱灯以前
      直列から並列へ
      電流の細分化 ほか

    第2回 エジソンと技術標準

      『エジソン氏追想』
      技術は普遍的
      フォノグラフ
      アーキテクチャーの選択
      デジタルからアナログへ ほか

    第3回 エジソンと特許

      キネトグラフ用カメラの特許
      アイデアの排他性/残像の見せ方
      ビジネス・モデルの争い
      特許の取り合い
      特許のプール ほか

    質疑に答えて
    エジソン関連年表
    読書案内

 同書は、「教えるー学ぶ」ための新シリーズ「理想の教室」の一冊として刊行されたもので、前書きに当るものが「オリエンテーション」、講義が第1回~第3回、そして後書きに当るものが「質疑に答えて」という形式で著わされている。あたかも学校での講義を聴講しているような雰囲気で読み進めていけるのが大きな特徴の書籍である。この本の主人公であるトーマス・エジソン(1847年―1931年)は、アメリカのオハイオ州に生まれ、生涯で1300件もの発明を行った“発明王”であり、同時に企業家でもあった。ニュージャージー州のメロンパークに研究所を置き、ここを拠点に研究に没頭した。

 その活動分野は広く、電信、電話、電灯、発電機、レコード、映画、自動化鉱山、電気自動車・・・など数え上げ切れないほどだ。エジソンは、理論というよりは、実践の人であり、その結果、著作物は残していない。その代わり、エジソンは膨大な実験ノートを残した。それらは、ラトガース大学が現在所有しているが、全部で350万ページに上り、この中から7000件が選ばれ「トマス・A・エジソン資料集」として刊行されている(ラトガース大学のアーカイブスにある)。同書は、これをベースの資料として書かれているだけに類書とは一味も二味も違い、信憑性の高いものになっている。

 これまでエジソンについて書かれた書物は、数多く存在するが、いずれも発明王物語的なものがほとんどで偉人伝に終わっている。これらと同書の違いは、同書が、何故、エジソンはそのような発想を持つに至ったのかを、克明に紹介している点だ。つまり、発明品の紹介ではなく、発明に至る道程が詳細に書かれているところが類書にない優れた点である。つまり、この本は著者が「オリエンテーション」の中で書いているように、「理系の想像力」というより「工学系の想像力」であるとする。ここでの。理系と工学系の違いは、工学系にはお客様(クライアント)があるということ。

  つまり、同書のテーマは「エジソンを超えることによって、工学系の想像力を発揮しよう」にあるという。現在、日本の大手電機メーカーは、韓国や台湾のメーカーにコスト面で敗北を喫し、しかも、過去に世界をリードした斬新なアイデア商品も生み出せない状況に直面している。こんな時こそ、同書のように、発想の原点に立ち返って考え直してみるのが一番いい。しかも、モデルとなるのが世界の発明王のエンジソンなのだから申し分ない。この本は、数式が最小限に押さえられており、この結果、理系でなくても読み通せる内容となっていることを申し添えておく。(STR:勝 未来) 

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