“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●八戸工業大学、東京電機大学と高砂熱学工業、温水を使用した氷スラリー製造の連続化に成功

2024-09-26 09:39:52 |    エネルギー
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「革新的プラスチック資源循環プロセス技術開発」で、八戸工業大学は、東京電機大学、高砂熱学工業株式会社と共同で、温水から氷点下冷熱を製造する吸収冷凍機と氷スラリー製造機を組み合わせた「熱リサイクルパッケージ(冷熱出力3kW)」を開発し、低温温水から氷片と水が混合した流動体である氷スラリーを連続して製造することに成功した。

 同パッケージは、廃プラスチックなどを燃焼によってエネルギー回収する際に排熱として捨てられている低温の未利用熱エネルギーを氷スラリーに変換するもので、排熱回収として高い熱利用効率を実現するとともに、農産物、水産物などの輸送時冷蔵保冷剤として年間を通じて排熱の利用を可能にする。

 同パッケージを使うことで、工場などから排出される低温の未利用熱を、工業、運輸、農林水産といった分野と連携するハブとなり、脱炭素社会実現へ貢献する。

 冷媒が水の場合、水は0℃以下で氷になる(凝固)ため、そのままでは氷点下冷熱の製造に使うことができない。そこで氷点下での凝固防止効果が期待でき、安定した溶解状態を保つアルコールを添加した。

 水に溶解し、蒸気圧の低い1-プロパノールを使用し、水と1-プロパノールの組成比を調整した結果、凝固点がマイナス10℃の冷媒を得ることができた。

 作動液は水、1-プロパノールと臭化リチウムの水溶液になる。この水溶液の結晶化温度を実測し、装置が作動する温度域で安定した溶解状態が得られる組成比に調整した。

 2022年度には、冷熱出力4kWを目標とする氷点下冷熱を製造する吸収冷凍機を製作し、2023年度には、マイナス5℃の冷熱を7時間、安定製造することに成功した。

 また、2023年11月には並行して開発した氷スラリー製造機と連結し、氷スラリーを7時間、安定製造することを確認した。連結試験では、吸収冷凍機を加熱する温水温度は65℃であった。

 氷スラリー製造機は、水および水溶液を熱交換器(過冷却器)で過冷却状態にした後、過冷却状態を超音波照射によって解除することで氷スラリーを製造する。

 氷と水の比率である氷分率の制御は、過冷却状態を維持した水溶液を循環させ、循環流路中に設置した過冷却解除器で徐々に氷を生成させることで行う。
 
 氷粒子が粗大化すると配管の閉塞が起こる。これを防ぐため、氷粒子の粗大化抑制剤としてPVA(ポリビニルアルコール)を添加し、効果が得られることを確認した。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>
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●科学技術ニュース●NEDO、グリーンイノベーション基金事業で新たに「浮体式洋上風力実証事業」に着手

2024-09-20 09:49:16 |    エネルギー
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、グリーンイノベーション基金事業の一環として、浮体式を中心とした洋上風力発電のコスト低減によって導入拡大を目指す「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトを進めているが、このたび、同プロジェクトの研究開発項目の一つである「浮体式洋上風力実証事業」について、2件の研究テーマを採択した。

 同プロジェクトでは、浮体式洋上風力発電設備の将来的な大量生産に向けたコスト低減を図るため、フェーズ1として実施した要素技術の開発成果も取り入れつつ、フェーズ2として、日本の産業競争力強化に資するよう、グローバル市場を見据え、コスト目標・タクトタイム目標などを設定した、1基10MW以上の大型風車を用いた実海域における浮体式洋上風力発電実証事業を実施する。

 同プロジェクトでは洋上風力産業のうち、現状では技術成熟度が比較的低いながらも、長期的な支援によって技術開発の進展と大きな政策効果が見込める分野を支援対象としている。

 具体的には「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ」に基づくサプライチェーン8分野のうち、対象として「風車」、「浮体式基礎製造」、「浮体式設置」、「電気システム」、「運転保守」を重点化した上で、まずはフェーズ1として要素技術の開発を進めてきた。

 今回はフェーズ2として、浮体式洋上風力発電設備の将来的な大量生産に向けコスト低減を図るため、フェーズ1での成果も踏まえ、企業から目標へのコミットメントを得たうえで、10MW以上の大型風車を用いた実海域での実証事業を実施し、早期のコスト低減を実現することで、浮体式洋上風力の早期社会実装を図るとともに、日本の洋上風力産業の競争力強化を目指す。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>


【実施内容】

事業名:グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化

予算:約850億円(NEDO支援規模)

期間:2024年度~2030年度(予定)

採択テーマ:【研究開発項目:フェーズ2】浮体式洋上風力実証事業 浮体式洋上風力発電設備の将来的な大量生産に向けコスト低減を図るため、フェーズ1として実施した要素技術開発成果も取り入れつつ、日本の産業競争力強化に資するよう、フェーズ2として、グローバル市場を見据え、コスト目標・タクトタイム目標などを設定した1基10MW以上の大型風車を用いた実海域における浮体式実証事業を実施する。

【「グリーンイノベーション基金事業/洋上風力発電の低コスト化」プロジェクト 実施予定先一覧】

<研究開発項目:フェーズ2>浮体式洋上風力実証事業 実施予定先

① 低コスト化による海外展開を見据えた秋田県南部沖浮体式洋上風力実証事業

丸紅洋上風力開発株式会社
東北電力株式会社
秋田県南部沖浮体式洋上風力株式会社
ジャパン マリンユナイテッド株式会社
東亜建設工業株式会社
東京製綱繊維ロープ株式会社
関電プラント株式会社
JFE エンジニアリング株式会社
中日本航空株式会社

② 愛知県沖浮体式洋上風力実証事業

株式会社シーテック
日立造船株式会社
鹿島建設株式会社
株式会社北拓
株式会社商船三井
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●科学技術ニュース●NEDOなど、国内初、洋上風力発電における風況観測機器の精度検証試験サイトを産学官連携により整備し本格運営を開始

2024-09-13 09:42:21 |    エネルギー
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「洋上風況観測にかかる試験サイトのモデル検討・構築」において、NEDOと神戸大学、レラテック株式会社および日本気象協会は、産学官共同で国内一例目となる風況観測に利用するリモートセンシング機器の精度検証が可能な「むつ小川原洋上風況観測試験サイト」を青森県六ヶ所村むつ小川原港内に整備した。

 同試験サイトを管理・運営する組織として、レラテック、日本気象協会、北日本海事興業株式会社および株式会社神戸大学イノベーションの4者で、同試験サイトを共同運営する「一般社団法人むつ小川原海洋気象観測センター」を設立し、本格的な運営を開始した。同試験サイトでは洋上風況観測マストなどの観測データを提供する。

 今後、風力発電事業の関係者、研究開発プロジェクト(風況、気象、生態系、環境など)の事業者、港湾の安全や教育に関わる地元関係者などに広く利用される試験サイトとして展開することを目指し、風況観測の精度を向上させることで洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入促進および地域社会の発展に貢献する。

 同事業では、試験サイトのモデル検討・構築のため、業界のニーズを調査し試験サイト設置の指針となる基本的な仕様の整理を行った。さらに、整理した仕様をもとに事業期間中に試験サイトの仮運用を実施し、利用状況の整理、サイト利用者に対してのヒアリングやアンケートを行った。

 このように業界のニーズを反映しながら風況観測に必要な設備設置やリモートセンシング機器の多様な観測に対応できるように整備を進め、2023年度に同試験サイトの整備が完了した。

 さらに、整備完了を受けて同試験サイトの運営を行う管理法人としてむつ小川原海洋気象観測センターを2024年3月に設立し、この度、受付を開始していた同試験サイトの本格運営を開始した。

 これにより一般向けに観測機器の事前検証試験を可能とし、日本の洋上風力発電の進展が加速することが期待される。

 同試験サイトは、青森県むつ小川原港内に整備された設備であり、NEDOの調査事業である「洋上風況調査手法の確立」において、現場観測の主サイトとして利用された。

 同事業で作成された「洋上風況観測ガイドブック」では、国内の洋上風力発電事業で利用するリモートセンシング機器には事前の精度検証が求められており、この精度検証が可能な国内初の試験サイトとして整備した。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>
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●科学技術ニュース●NEDOのグリーンイノベーション基金事業で日立造船と鹿島建設、洋上風力発電の浮体式基礎の量産化技術を開発

2024-09-03 09:33:27 |    エネルギー
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトで、「浮体式基礎製造・設置低コスト化技術開発事業」に参画する日立造船、鹿島建設は、今回、セミサブ型浮体式基礎の量産化技術を開発し、水上接合による基礎製造工法の実証を行った。

 両社は、同事業を通じて開発した同工法が技術的に実現可能であり、浮体式基礎の製造工程が1割以上短縮可能であることを確認した。

 同事業で検討している量産化コンセプトは、15MW級の風車を搭載する大型の浮体式基礎が収まるような大型のドックが国内に少数しかなく、浮体の大量生産のボトルネックになり得ることに着目し、ドックでの作業期間を最小化して、浮体式基礎の量産化につなげるというもの。

 そこで、浮体式基礎の分割ブロックを造船・鉄構メーカーなどのサプライチェーン先で製造し、既存ドックなどへえい航輸送後、ブロックを接合して浮体式基礎を完成させるという量産化技術を開発した。

 この量産化技術の実現により、最小の設備投資でサプライチェーンを強化するとともに、より多くの浮体式基礎を製造することが可能となる。

 当初はブロック入渠(にゅうきょ)後に排水して、大型台車やクレーンを用いて接合のための位置調整を行うことを検討していたが、この位置調整にはミリ単位の精度が求められるため、その重量や大きさから多くの時間を要することが課題であった。同工法では、浮力を活用し重量による問題を軽減し、大組立工程の1割以上の短縮を実現できる。

 今回、同工法の妥当性を確認するため、15MW級の風車を搭載することを想定した浮体式基礎のブロックの接合部を実寸サイズで製造し、2024年1月末から2月末に日立造船の堺工場でブロック接合試験を実施した。試験の結果、同工法が技術的に実現可能であることを確認した。

 同成果の活用により、今後、導入拡大が見込まれる浮体式洋上風力発電において浮体式基礎の量産化、低コスト化実現の一助となることが期待される。

 2040年までに洋上風力発電を30~45GW導入するという政府目標の達成に向けて、NEDOは、風車、浮体、係留システム、ケーブルの挙動・性能・施工性・コストを考慮した一体設計により、浮体式洋上風力発電の信頼性の向上と低コスト化を目指し、システム全体として関連技術を統合した実証を行う。

 これにより、2050年カーボンニュートラルへの道筋を示し、電力分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献する。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>
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●科学技術ニュース●核融合発電を目指す京都フュージョニアリング、液体金属を用いた実証実験を開始

2024-08-01 09:33:44 |    エネルギー
 核融合発電を目指す京都フュージョニアリングは、シリーズCラウンド(エクステンション)において、2024年4月の資金調達(1st close)に続き、新たにアメリカのベンチャーキャピタルのIn-Q-Tel(インキュテル:IQT)、ニチコン、丸紅を含む計4者を引受先として総額10.7億円の資金調達を実施した。

 この2nd closeによりシリーズCの累計調達額は131.3億円になり、同社の累計資金調達額は148.1億円となった。

 フュージョン(核融合)エネルギーを取り巻く環境は国内外で急速に変化している。日本国内では、2024年6月に閣議決定された骨太の方針や成長戦略にフュージョンエネルギーが改めて盛り込まれ、官民の開発力強化や国際連携の推進、そして2030年代の発電実証について明記された。

 同社は、カナダ原子力研究所(CNL)との新会社「Fusion Fuel Cycle Inc.」の設立ならびに業界のエキスパートであるChristian Dayの参画によって、「UNITY-2」を軸にしたフュージョン燃料サイクルの領域はより具体的な展開を迎えている。

 また、京都リサーチセンターに建設中の発電試験プラント「UNITY-1」(UNITY-1の試験では、核融合反応を起こさず、放射性物質を取り扱うこともない)は、最初の大型設備の設置が完了し、2025年夏ごろに予定している世界初の模擬環境下での発電実証に向け、発電に利用する高温の熱を運搬するための液体金属を用いた実証実験を開始した。

 さらにジャイロトロンシステムにおいては、産学の連携による技術開発に取り組み、高周波数や複数周波数の発振を検証している。

 今後はこれらの事業を、新たに設立した3つ目の海外拠点Kyoto Fusioneering Europe Gmb(KFEU)も含めて推進していく計画。

 今回の資金調達によって獲得した資金と、投資家の持つ知見を活用して、技術開発を一層加速させ、フュージョンエネルギーの早期実現に向けて全社一丸となり取り組んでいく。<京都フュージョニアリング>
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●科学技術ニュース●NEDO、JERAとIHI、JERA碧南火力発電所における燃料アンモニア転換実証試験を開始

2024-05-01 09:38:18 |    エネルギー
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と株式会社JERA、株式会社IHIは、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/アンモニア混焼火力発電技術研究開発・実証事業」に取り組んでいるが、同事業にて、JERAとIHIは、世界初となる大型商用石炭火力発電機における燃料アンモニア転換の大規模実証試験(熱量比20%)を、JERA碧南火力発電所(愛知県碧南市)で開始した。同実証試験は、2024年6月まで実施する予定。

 水素を低コストで効率良く輸送・貯蔵できるアンモニアは、エネルギーキャリアとしての役割に加え、火力発電の燃料として直接利用が可能であり、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない燃料として、温室効果ガスの排出削減に大きな利点があると期待されている。

 同事業は、日本をはじめエネルギー安定供給の観点から調整電源として火力発電が必要な国にとって、低コストかつスピーディーに脱炭素化を進める第一歩となりうる重要なプロジェクト。

 同事業は、今後の環境負荷の低減に向け、大型の商用石炭火力発電機においてアンモニアへの燃料転換を行い、ボイラの収熱特性や排ガスなどの環境負荷特性を評価し、アンモニアの転換技術を確立することを目的としており、事業期間は2021年7月から2025年3月までの約4年間。

 JERAとIHIは、2022年10月から、JERA碧南火力発電所において、燃料アンモニア転換実証に必要な設備であるバーナ、タンク、気化器、配管などの設置工事を進めてきた。

 IHIは、同発電所5号機における燃料アンモニアの小規模利用試験を踏まえ、実証用バーナを開発し、JERAは同発電所における燃料アンモニアの安全対策や運用体制などを整備してきた。

 このたび実証試験の準備が整ったため、同発電所4号機において燃料アンモニアの大規模転換実証試験を開始した。

 同実証試験では、プラント全体の特性として窒素酸化物(NOx)排出量の調査やボイラおよび周辺機器への影響、運用性などを確認する。

 NEDO、JERAおよびIHIは、実証試験における課題の解決を図ることで、2025年3月までに、社会実装に向けた火力発電における燃料としてのアンモニア利用技術の確立を目指す。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>
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●科学技術ニュース●三菱UFJ銀行と日立製作所、環境配慮型店舗の新たな仕組みの有効性の実証実験を開始

2024-04-18 09:31:08 |    エネルギー
 三菱UFJ銀行は、日立製作所と協働し、可動式蓄電池と太陽光発電、電気自動車などを組み合わせた環境配慮型店舗の新たな仕組みを練馬支店(東京都練馬区)に導入し、その有効性の実証を開始する。

 具体的には、下記の6つの取り組みを通じて環境負荷の低減を図る。環境配慮型店舗の運営における課題を抽出し、解決に向け三菱UFJ銀行、日立が共同でソリューション構築を目指す。

 ① 使用する営業車9台を電気自動車に切り替える。

 ② 駐車場にソーラーカーポートを設置し、太陽光発電により得られた電気を、日立が提供するリユースバッテリを活用した可動式蓄電池(バッテリキューブ)に蓄電することを通じ、創出した再生可能エネルギーを最大限活用する。

 ③ ①及び②により、電気自動車を100%再エネで運用すると同時に、店舗のエネルギー自給率を高める。

 ④ 店舗の設備(電灯・空調等)を省エネ性能の高いものに入れ替え、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)最高ランクの5つ星、及び「ZEB Ready(ゼブ レディ)」認証を取得する。

 ⑤ エネルギーマネジメントシステムの導入により、店舗におけるエネルギー自給率を可視化し、社員による自発的な省エネ活動を促す。

 ⑥ 将来的には、運用する電気自動車から取り出したバッテリをバッテリキューブとして再利用するなど、よりサステナブルな資源の活用方法について検討していく。<日立製作所>
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●科学技術ニュース●ヘリカルフュージョン、高温超伝導導体の通電試験を成功させ核融合商用炉の実現へ一歩前進

2024-03-14 09:38:10 |    エネルギー
 ヘリカル核融合炉発電を目指すヘリカルフュージョン(東京都中央区銀座、田口昂哉・宮澤順一代表取締役)は、独自に開発を進める高温超伝導導体(High Temperature Superconductor:HTS)の試験機を用いた実証実験に成功した。

 試験機は、-253度(20ケルビン)の極低温かつ8テスラの強磁場環境下において、電気抵抗のない超伝導状態で19kAの通電試験に成功し、HTSマグネット開発にあたって重要なマイルストーンを達成した。

 同実証実験は、世界でも有数の「⼤型導体試験装置」を所有する核融合科学研究所(岐⾩県⼟岐市) において実施されている。

 HTS試験機は、今回の実証実験⽤にHTS線材であるREBCOを30枚積層し、約3cm四⽅で⻑さ4m強のケ ーブル状導体に製作された。

 「⼤型導体試験装置」及び関連装置の最⼤通電量(20kA)に合わせた試験機が今回準備されたが、将来的には同導体中により多くのHTS線材を積層させることで、 今回実施した実験よりも数倍規模の通電量を実現させ、1平⽅mmあたり100アンペアを超える⼤電流密度の導体開発を目指す。

 代電流密度の導体開発は、よりコンパクトで⾼性能な核融合炉の開発に直結する。

 また、今回の試験機では、将来的な導体の量産化を視野に⼊れ、独⾃のHTS線材の接合⽅法も取り⼊れた。

 究極のクリーンエネルギーと⾔われる核融合炉は、⽶中を始め各国による開発競争が進んでいます。

 その⼼臓部分とも言える⾼温超伝導マグネットの開発は、直近数年は欧⽶企業が先⾏しているが、この開発競争に今回、ヘリカルフュージョンが名乗りをあげた。

 同社は、2023年10⽉に日本政府から20億円のSBIR Phase3補助⾦(核融合分野)に採択され(1社当たり最⼤額)、HTSおよび核融合炉の開発を加速させている。

 超伝導分野において、2025年にコイル状の実証実験、2026年以降に実際の炉に使⽤するヘリカル型コイルの実証実験を進めていく予定。<ヘリカルフュージョン>
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●科学技術ニュース●核融合科学研究所など、35GHz低周波数ジャイロトロンシステムの性能試験で3秒間の1MW級での出力を実現

2024-01-25 09:36:11 |    エネルギー
 京都フュージョニアリング(KF)、核融合科学研究所(National Institute for Fusion Science:NIFS)、筑波大学、英国原子力公社(UK Atomic Energy Authority:UKAEA)およびキヤノン電子管デバイスの国際産学共同研究グループは、35GHz低周波数ジャイロトロンシステムの性能試験において、60GHz以下の低周波数ジャイロトロンでの最大級かつ最長級となる3秒間の1MW級での出力を実現した。

 大型核融合炉であるITERやJT-60SA向けに開発されているジャイロトロンシステムは、電子の回転周波数に合わせて共鳴させる100GHz以上の高周波数のものが主流で、電子サイクロトロン加熱により炉心を加熱する。

 しかし、MAST Upgradeをはじめとする球状トカマク装置においては、その特徴から電子サイクロトロン加熱が難しいため、電子バーンスタイン波という比較的低周波数で高密度プラズマの電子を加速し加熱できる別の方式を取り入れる必要がある。

 そこで、プラズマ加熱実験のために1台のジャイロトロンで28GHzと35GHzが発振できる1MW級低周波数ジャイロトロンシステムを新たに開発することになった。

 筑波大学のノウハウをもとに、ジャイロトロン本体からビームを出力するためのジャイロトロン内部に設置しているミラーと、ジャイロトロン本体から発生したビームを炉心プラズマに伝送するための導波管へ誘導する準光学的結合器(MOU)内のミラーをそれぞれ大きくするとともに、2つのミラー間の距離を可能な限り近づけるように、システムを設計した。

 ミラーを大きくすることにより、発散しやすいビームの伝送損失を最小限に抑え、またミラー間の距離を縮めることで伝送損失や放電を軽減させることが期待できる。

 これらの設計を微調整しつつ、ジャイロトロン本体を稼働させるために高電圧電源や、ビームを発生させるために必要な磁場を形成する超電導マグネットのパラメータを調整しながら、性能試験を重ねた。

 今回、このジャイロトロンシステムの性能試験において、35GHzの低周波数で3秒間の1MW級(ダミーロードでの計測で930kW)の出力を実現した。

 大電力電磁波ビームの発散が大きな課題である35GHzの比較的低周波の領域で、秒レベルのMW級での出力を達成したことは、小型核融合炉開発における大きな貢献となる可能性がある。

 また、再現性と安定性の観点でも高い性能を確認し、合計20回の出力のうち19回は同等の数値での出力に成功した。加えて10回連続の出力でも同等の数値を確認し、信頼性の高い結果を得ることができた。

 このジャイロトロンはUKAEAへと渡り、オックスフォード近郊のカルハムに位置する球状トカマク装置MAST Upgradeにて使用される予定。ここではUKAEAが主導する核融合プラント開発プログラム「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)」に貢献する実験が行われる。<核融合科学研究所(NIFS)>
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●科学技術ニュース●核融合産業協議会の発起人に19社が応募

2024-01-23 09:32:41 |    エネルギー
 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局は、令和5年4月に策定した「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を踏まえ、一般社団法人・核融合産業協議会の今年度中の設立に向け、発起人を募集したが、今回19社が応募した。

 核融合産業協議会は、「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を踏まえ、民間企業におけるフュージョンエネルギーに関する情報交換やビジネスマッチング等を促進し、フュージョンインダストリーを育成することを目的とする。

【発起人】(2024年1月15日時点)

    株式会社アトックス
    大和合金株式会社
    株式会社EX-Fusion
    三井物産株式会社
    日揮株式会社
    株式会社フジクラ
    株式会社Helical Fusion
    古河電気工業株式会社
    住友商事株式会社
    京都フュージョニアリング株式会社
    三井不動産株式会社
    日本電信電話株式会社
    株式会社LINEAイノベーション
    三井住友海上火災保険株式会社
    株式会社IHI
    三菱重工業株式会社
    東芝エネルギーシステムズ株式会社
    株式会社INPEX
    三菱商事株式会社
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