“科学技術書・理工学書”読書室―SBR―  科学技術研究者  勝 未来

科学技術書・理工学書の新刊情報およびブックレビュー(書評)&科学技術ニュース   

●科学技術ニュース●NEDO、高効率・高品質レーザー加工技術の開発に着手

2024-04-30 09:34:52 |    電気・電子工学
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、経済安全保障を強化・推進する観点から支援対象とすべき先端的な重要技術の研究開発を進める「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」の一環で実施する研究開発として、「高効率・高品質レーザー加工技術の開発」に着手する。

 同事業では、特定の波長のレーザー光のみを透過/損失させることが可能なフォトニック・バンド・ギャップ・ファイバー(PBGF)の加工用レーザーへの適用に向けた技術開発を行い、新たな用途も開発することで、高出力かつ自由度の高いファイバーレーザー加工システムの実現につなげる。

 また、小型・軽量が特徴である半導体レーザーの高輝度・高出力化技術について、将来の本格的な研究開発の実施を視野に、国内外先端技術の調査研究、需要調査を行うとともに、レーザー加工分野以外への展開に向けた技術開発の方向性を検討する。

 同プログラムの支援対象のうち、「領域横断・サイバー空間」領域の要素技術の一つに「高効率・高品質なレーザー加工技術」が挙げられている。

 将来のものづくり現場では、デジタル制御と親和性の高いレーザー加工の重要性が一層増すと同時に、ものづくり機器のクラウド連携や知能化が進むと考えられ、これらを融合したレーザー加工システムは日本のものづくりにおける最重要ツールの一つとして期待されている。

 レーザー加工システムの性能に直結するレーザー技術の向上・革新は、既存の製造工程を効率化するのみならず、これまでに不可能であった加工も可能とすることが期待され、日本の機械製造業を始めとする産業の優位性を確保していく上で極めて重要。

 また、先端レーザー技術は、加工分野にとどまらず、医療分野、通信分野、自動運転などに向けたセンシング分野などに幅広く応用できる重要な研究開発項目。

 このような背景の下、NEDOは「高効率・高品質レーザー加工技術の開発」を公募し、2テーマを採択した。同事業では、高出力ファイバーレーザーの開発、高品質・高出力な半導体レーザーの高輝度・高出力化技術の確立に向けた調査研究を実施する。<新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)>

【実施内容・採択テーマ】

<領域横断・サイバー空間(1)>

 非線形光学現象で発生する特定の波長のレーザー光のみを高出力領域で選択的に除去、低減できるPBGFの開発を行い、並行して高出力シングルモードファイバーレーザー(SM-FL)の新たな用途を開発する。この新たなPBGFの開発、適用により、従来にない高出力なSM-FLおよび自由度の高いファイバーレーザー加工システムの実現につなげる。

事業名:経済安全保障重要技術育成プログラム/高効率・高品質レーザー加工技術の開発/高出力ファイバーレーザー

予算:44億円

期間:2024年4月~2028年12月(予定)

実施予定先:川崎重工業株式会社

<領域横断・サイバー空間(2)>
 
 デジタル化による自動的かつ効率的なものづくりを実現するためには、小型・軽量が特徴である半導体レーザーで、既存の大型レーザーと同等の輝度・出力を実現できる技術が必要。このため、将来の本格的な研究開発の実施を視野に、国内外先端技術の調査研究、需要調査とともに、レーザー加工分野以外への展開に向けた技術開発の方向性を検討し、レーザー加工にとどまらない他分野への展開も含め、レーザー発振器のサイズ・重量も含めた目標スペックを明確にする。

事業名:経済安全保障重要技術育成プログラム/高効率・高品質レーザー加工技術の開発/高品質・高出力な半導体レーザー

予算:2億円

期間:2024年4月~2025年3月(予定)

実施予定先:国立大学法人京都大学
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●科学技術ニュース●NEDO、「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025 発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」公募開始

2024-04-25 09:31:54 |    電気・電子工学
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と三菱総合研究所は、廃棄するリチウムイオン蓄電池(LiB)の検知・回収システムに関する研究開発に対して、懸賞金を供するコンテストを実施する。

 NEDOは、“NEDO Challenge”「NEDO懸賞金活用型プログラム」を実施しており、今回第2弾となる「NEDO Challenge, Li-ion Battery 2025 発火を防ぎ、都市鉱山を目指せ!」の公募を開始した。第2弾については、三菱総合研究所に企画運営を委託して実施する。

 NEDOは、同プログラムを通じて、将来の社会課題解決や新産業創出につながるシーズをいち早く発掘することで、共同研究などの機会創出、シーズの実用化、事業化の促進を図る。

 NEDOは、技術課題や社会課題の解決に資する多様なシーズ・解決策をコンテスト形式による懸賞金型の研究開発方式を通じて募り、将来の社会課題解決や新産業創出につながるシーズをいち早く発掘することで、共同研究などの機会創出、シーズの実用化、事業化の促進をねらう同プログラム“NEDO Challenge”を立ち上げた。

 現在公募中の第1弾「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth」に続き、第2弾として同事業の公募を開始した。


公募テーマ:同事業では、以下の2テーマを設定した。

<テーマ1:LiB検出装置(ポータブル型・設置型)の開発>
 
 誤ったごみ区分に混入(主に不燃ごみ、容器包装プラスチックごみへの混入が多い)したLiB、LiBが使用された小型製品を処理工程に入る前に検知する装置で、検知によりLiBの発煙・発火を防ぎ、資源物として選別することを可能にする。

<テーマ2:LiBの発火危険性の回避・無効化装置の開発>

 LiBの回収・運搬・処理工程での発火危険性を回避・無効化するための装置で、発火能力を低下させた状態のLiBのみを選択的に受け入れる、あるいは、発火能力の有無にかかわらず回収したLiBを放電、電解液除去などにより発火能力を無効化し、安全なリサイクル資源とする。


 懸賞金額:1位1000万円、2位500万円、3位300万円 各1者(総額3600万円。テーマ1、テーマ2それぞれの受賞者に交付する)
 公募期間:2024年4月10日(水)~6月10日(月)
 1次審査:2024年6月
 2次審査通過者 研究開発期間:2024年7月~12月
 受賞者決定:2025年1月下旬(予定)
 懸賞金交付:2025年3月(予定)
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●科学技術ニュース●ラピダス、米国シリコンバレーに新会社を設立しAI半導体関連の顧客開拓・設計支援を加速

2024-04-19 10:22:14 |    電気・電子工学
 ラピダスは、米国での顧客開拓・半導体設計支援を目的として、新会社「Rapidus Design Solutions LLC」を米国カリフォルニア州・シリコンバレー地域のサンタクララに設立した。

 ラピダスは、設立直後から顧客開拓の活動を積極的に行ってきたが、これからさらに重要となるAI半導体に関連した企業が集中して存在するシリコンバレー地域にオフィスを開設することで、今後、顧客開拓をさらに加速させていく。

 新会社「Rapidus Design Solutions LLC」の責任者にはアンリ・リシャール氏がジェネラルマネージャー兼社長として就任する。

 アンリ・リシャール氏は、フランスでIT関係の会社を起業するなどした後、アメリカにおいてAMD、IBM、NetApp、SanDiskといった様々なIT関連企業・半導体関連企業でエグゼクティブとしてセールス・マーケティングの業務を行ってた。この経験を活かし、ラピダスの米国における顧客開拓を推進していく。

 米国で行われた新会社「Rapidus Design Solutions LLC」の発表会には、IBMの研究部門であるIBM Researchの半導体部門(IBM Semiconductors)ジェネラルマネージャーのムケシュ・カレ氏も参加。

 ラピダスは、現在、2nmロジック半導体量産技術開発のためにニューヨーク州アルバニーのIBM研究所に社員を派遣し、同社エンジニアと協働しているが、ムケシュ・カレ氏はそのプロジェクトをIBM側で進める責任者の一人。

 ムケシュ・カレ氏は会見の中で、アルバニーでの研究活動が順調に進んでいることを明らかにした。<ラピダス>
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●科学技術ニュース●東京大学、酸化物ヘテロ界面における創発磁場伝播の観測に成功し創発磁気輸送現象の高機能化に道

2024-04-17 09:50:53 |    電気・電子工学
 東京大学大学院工学系研究科の大野瑞貴大学院生、藤田貴啓助教、川﨑雅司教授は、非共面的な磁気構造によって生じる「創発磁場」が、非磁性金属と磁性絶縁体のヘテロ界面において伝播し、「トポロジカルホール効果」という創発磁気輸送現象を引き起こすことを初めて観測した。

 同研究では、四面体を基調とした特徴的な結晶構造を有するパイロクロア型酸化物に着目し、パルスレーザー堆積法を用いることで高品質なヘテロ接合試料の作製に成功した。

 今回の発見によって、磁性と電気伝導性が機能分離されたヘテロ界面でも創発磁気輸送現象が実現可能であることが明らかにされた。

 これにより研究対象となる材料選択の幅を拡大することが可能となり、創発磁気輸送現象の理解が深まると共に、それを応用したエレクトロニクス素子の省電力化や高機能化に貢献することが期待される。

 機能分離されたヘテロ界面では、磁性と電気伝導性を独立に制御可能であるため、従来の材料系では不可能な創発磁気輸送現象の高機能化が期待される。

 同研究対象であるパイロクロア型酸化物をはじめとして、フラストレート量子磁性体の多くは、特異な磁気構造を示すものの絶縁体であるため、これまで創発磁気輸送現象の研究対象となり得なかった。

 同研究で初めて観測された「界面創発磁気輸送現象」は、そうした材料系の磁気構造や磁気転移を電気的に検出するためのプローブとしての応用も期待できる。<理化学研究所(理研)>
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●科学技術ニュース●積水化学、エム・エム ブリッジと恒栄電設、浮体式ペロブスカイト太陽電池の共同実証実験を開始

2024-04-17 09:50:27 |    電気・電子工学
 積水化学工業、エム・エム ブリッジ、恒栄電設の3社は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池をプール上に設置するための共同実証実験を、東京都北区において、4月3日から開始した。

 浮体式ペロブスカイト太陽電池の実証実験は、国内初の事例となる。

 2050年の脱炭素社会実現に向けてエネルギーの脱炭素化が求められるなか、フィルム型ペロブスカイト太陽電池は軽量で柔軟という特長により、従来のシリコン系太陽電池では設置が難しかった場所への設置が可能となり、再生可能エネルギーの導入量を拡大できる有力な選択肢として期待されている。

 積水化学は、独自技術である「封止、成膜、材料、プロセス技術」を活かし、フィルム型ペロブスカイト太陽電池開発の肝といわれる屋外耐久性において10年相当を確認し、30cm幅のロール・ツー・ロール製造プロセスを構築した。さらに、同製造プロセスによる発電効率15.0%のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の製造に成功しており、さらなる耐久性や発電効率の向上、1m幅の製造技術の確立に向けて開発を加速させている。

 エム・エム ブリッジは、沿岸構造物における防食技術を応用したサンゴ礁再生プロジェクトや波力発電技術の開発など、独自の環境保全活動及びクリーンエネルギー開発に取り組んできた。前身の三菱重工業から継承した浮体の構造設計や係留方法などのノウハウを活かすことで、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を水上及び洋上に導入できると考え、浮体式ペロブスカイト太陽電池の設置に向けた共同実証実験に取り組むことになった。

 恒栄電設は、測定データ要素や負荷制御のカスタマイズ性を有する恒栄電設開発品の計測制御システムを導入することで、水上環境や浮体構成ならではの要素データの測定等、浮体式ペロブスカイト太陽電池の設置実験に有用なデータ取得が可能と考え、同共同実証実験に取り組むことになった。

 従来の水上設置の浮体式太陽光発電システムでは、太陽電池および架台の重量を支持する浮体構成や施工性等に課題があった。これに対し、ペロブスカイト太陽電池の軽量性を活かした浮体構成や施工性の検証を目的とし、4月3日より1年間の予定で、東京都北区の閉校となった学校プールに浮体式ペロブスカイト太陽電池を設置し、浮体構成、施工性、発電性能の実証を開始した。

 3社は、同実証により、水上アセットへの再エネ導入手法を確立し、さまざまな水上を活用した脱炭素化社会への貢献を目指す。<積水化学工業>
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●科学技術ニュース●住友ゴム工業、次世代電池の実用化に向け「硫黄系電池事業創出研究会」を設立

2024-04-16 09:34:18 |    電気・電子工学
 住友ゴム工業は、4月1日に産業技術総合研究所を代表幹事に、ADEKAとともに次世代電池として期待されている硫黄系電池の事業創出を見据えた企業共創の場として「硫黄系電池事業創出研究会」を設立した。

 また、設立時に幹事機関として大阪産業技術研究所が参画した。
 
 住友ゴム工業は、タイヤ製造に欠かせない硫黄に関する知見を活用してリチウム硫黄電池の重要部材である硫黄系正極活物質の技術開発を進めているが、同研究会を通して開発をさらに加速させる。

 次世代電池の開発が活発に行われているが、その中のひとつとして期待されているのがリチウム硫黄電池。
 
 リチウム硫黄電池は、リチウムイオン電池と比較して高いエネルギー密度を持つため、バッテリー性能の向上と軽量化を図ることができ、その構造上、発火可能性が低いのも特徴。

 さらに、コバルトなどのレアメタルを電池の材料として使用せず、日本にも豊富に存在する資源である硫黄を使用することから、持続可能性の観点からも優れており安全、低コストかつ高性能な蓄電池への実用化が期待されている。
 
 住友ゴム工業は、高品質なタイヤの製造(加硫)技術で蓄積した硫黄に関する優れた配合・加工・可視化技術を保有している。

 今後、リチウム硫黄電池の重要部材である硫黄系正極活物質の技術開発と実用化に向けた取り組みをさらに加速させ、蓄電池をはじめEV、ドローン、無人飛行機、空飛ぶクルマ、人工衛星などエネルギーやモビリティなどの幅広い分野における、製品性能、持続可能性の向上と環境負荷低減への貢献を目指す。<住友ゴム工業>
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●科学技術ニュース●大阪大学、名古屋大学と理研、X線自由電子レーザーの極限的7nm集光を実現し世界最高光子密度を実現

2024-04-11 09:31:35 |    電気・電子工学
 大阪大学大学院工学研究科の山田純平助教、山内和人教授、名古屋大学大学院工学研究科の松山智至准教授、理化学研究所放射光科学研究センターの矢橋牧名グループディレクター、井上伊知郎研究員、高輝度光科学研究センターの大橋治彦主席研究員らの共同研究グループは、X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free-Electron Laser)の極限的7ナノメートル(nm)のスポット集光を実現し、1022 W/cm2のピーク強度を達成した。

 これはミラーに入射するXFELの強度を1億倍に増幅したことに相当する、世界最高X線強度。また、可視光分野も含んだレーザー強度のトップクラスに比肩する値。

 XFELを集光する際には、高強度の入射X線レーザーによる集光光学系へのダメージを防ぐために、入射光を非常に浅い角度にて分散して受け止める楕円形状X線ミラーが利用される。

 これまでに超高精度なX線ミラーの作製法は確立されてきましたが、集光状態の不安定性に大きな課題があり、理論的には達成可能なはずの10nmを下回るような集光サイズの実現には至っていなかった。

 今回、同研究グループは、凹面と凸面を組み合わせたX線集光ミラー光学系を新たに開発し、高い安定性のもとXFELの7 nm集光を実現した。

 これによって,従来までのX線強度よりも100倍以上高いX線ピーク強度1.45×1022 W/cm2が達成された。

 さらに、生成した集光ビームを金属原子(クロム: Cr)に照射したところ、全ての電子を吹き飛ばすほどの劇的な反応が生じていることがわかった。

 同研究によって実現された超高強度のXFELビームを用いることで宇宙物理、高エネルギー物理や量子光学などの基礎物理分野において、未だ観察されていないさまざまな物理現象の発見が期待される。

 また、タンパク質などの立体構造を解明することにも貢献し、医学・創薬に役立つ単分子構造解析技術の開発につながるものと期待される。<理化学研究所(理研)>
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●科学技術ニュース●日清紡マイクロデバイスと金沢工業大学、マイクロ波方式のワイヤレス電力伝送に最適な高周波整流器ICを開発

2024-04-09 09:40:02 |    電気・電子工学
 日清紡マイクロデバイスと金沢工業大学 工学部 電気電子工学科 伊東健治研究室は、マイクロ波方式のワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transfer)に最適な高周波整流器ICの研究開発を開始した。

 近年マイクロ波方式WPTの高性能化の研究が進められている中、2022年の電波法省令改正により920MHz、2.4GHzおよび5.7GHzにおいて実用化が始まっている。

 マイクロ波方式のWPTは、送電器から発した高周波電力を、離れた場所の受電器で受ける。この受電器で受けた高周波電力は、高周波整流器を介して直流電力に変換され、この受電器に接続されたIoTセンサーやFA機器等を動作させる。

 受電器に入力される高周波電力は、送電器の距離に応じて変化するため、様々なユースケースに対応可能な整流器が求められている。

 また、現在のIC市場において、マイクロ波方式WPTの用途に特化した整流器IC製品が未販売であることから(日清紡マイクロデバイス調べ)、WPTに関連した研究者は汎用途向けのダイオード製品を利用しているケースが多く見受けられる。

 そのためWPTとして十分な性能が得られない等の問題があり、WPTの広範な社会実装に向けての課題となっていた。

 金沢工業大学では2016年よりJST CREST「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」により微弱電力対応の高効率整流技術、2018年より内閣府SIP「IoE 社会実現のためのエネルギーシステム」(管理法人:JST)によりワット級の大電力対応の高効率整流技術を培ってきた。

 このような背景から、日清紡マイクロデバイスと金沢工業大学では、円滑なWPTの社会実装に貢献すべく量産化を視野に入れたマイクロ波方式のWPTに最適な高周波整流器ICの研究開発を開始した。

 今回発表の高周波整流器ICは、砒化ガリウム(GaAs)を材料とし、HJFET(ヘテロ接合電界効果型トランジスタ)をベースとしたダイオードで構成されている。

 日清紡マイクロデバイスが培った低オン電圧かつ高耐圧のダイオードを実現する独自のGaAsウェハプロセス技術と、金沢工業大学が培った最先端のアンテナおよび整流回路技術を融合することで、従来に比べて小電力から大電力まで高効率で動作する整流器ICを実現する。<日清紡マイクロデバイス>
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●科学技術ニュース●東京大学と北海道大学、多彩なスピン構造の間のトポロジカル数スイッチングに成功し外部磁場による多値メモリ動作へ道

2024-04-05 09:32:15 |    電気・電子工学
 東京大学大学院工学系研究科の吉持遥人 大学院生、高木里奈 助教(研究当時)、関真一郎 准教授らの研究グループは、同大学物性研究所の中島多朗 准教授、北海道大学大学院理学研究院の速水賢 准教授らとの共同研究を通じて、GdRu2Ge2という希土類合金において、外部磁場の大きさを変化させることで、「楕円形スキルミオン」や「メロン-アンチメロン分子」「円形スキルミオン」といった多彩なスピン構造を観測することに成功した。

 磁性体で見られる電子スピンの渦構造である磁気スキルミオンは、トポロジーに保護された安定な粒子として振る舞うことから、次世代の情報担体の候補として注目を集めている。

 スキルミオンは従来、対称性の低い結晶構造を有する物質のみで発現すると考えられてきた。

 しかしながら、近年では新しい形成機構によって、対称性の高い物質において直径数ナノメートル(nm、1 nmは10億分の1メートル)の極小サイズのスキルミオンが報告されている。

 そこで同研究では、希土類合金GdRu2Ge2を対象として研究を行った結果、同物質では直径2.7ナノメートルの極小サイズのスキルミオンが実現しており、さらに外部磁場の大きさに応じて複数の多彩なスピン構造が発現することを明らかにした。

 同成果は、極小サイズのスキルミオンにまつわる新しい物質設計指針を与える結果であることに加え、同物質で見られるスキルミオンとメロン-アンチメロン分子は異なるトポロジカル数によって特徴付けられることから、外部磁場による多値メモリ動作といった新たな応用展開につながる可能性を秘めている。

 同研究は、遍歴電子が媒介する相互作用の一種のフラストレーションの機構に基づく、極小サイズの多彩なトポロジカルスピン構造を実現するための新しい物質設計指針を確立するものであると言える。

 同物質で実証した、外部磁場による異なるトポロジカル数によって特徴付けられるスピン構造の切り替え、すなわち多彩なトポロジカルスピン構造間のスイッチングは、多値メモリ素子などの新しい応用可能性を秘めている。

 つまり、外部磁場によってこれらのスピン構造を選択的に制御し、それぞれに例えば“0”、“1”、“2”、“3”を対応させれば、多ビットを表現することができるため、スキルミオンを情報媒体とする多値メモリ素子への活用が期待できる。

 また、同研究で明らかにした物質設計指針をもとに、今後さらなる物質探索が進むことで、超高密度・超低消費電力な次世代素子への応用に貢献することが期待される。<理化学研究所(理研)>
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●科学技術ニュース●九州大学など、世界初、グラフェンなどの二次元材料テープを開発し次世代半導体の開発などに貢献

2024-04-04 10:23:25 |    電気・電子工学
 九州大学グローバルイノベーションセンターの吾郷浩樹主幹教授、日東電工株式会社、合同会社二次元材料研究所、中央大学の李恒助教・河野行雄教授、九州大学先導物質研究所の吉澤一成教授、九州大学大学院総合理工学研究院の辻雄太准教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授、産業技術総合研究所の林永昌主任研究員らの研究グループは、NEDOの支援を受けて、二次元材料に特化した紫外線で粘着力が低下する機能性テープを開発することに成功した。

 この方法では、保護膜や有機溶媒を使う必要がなく、エンドユーザーでも簡単に転写できる手軽さもある。

 また、このテープ転写はグラフェンに限らず、半導体や絶縁体の二次元材料にも使える。

 さらに、テープ転写したグラフェンを使って、フレキシブルなテラヘルツのセンサーも実現した。

 同研究は、これまで難しかった二次元材料の大面積での転写・製造プロセスに大きな進歩をもたらすものであり、半導体を含む次世代産業の創出に大きく貢献すると期待される。

 今回開発したのは、極めてユニークで、革新的な転写法なので、多くの研究者に使えるようにして、二次元材料研究の活性化や、二次元材料の新たな応用分野の開拓、そして新産業創出につなげていきたいと考えている。

 また、現在は最大で4インチ(Φ100 mm)のグラフェンが転写できているが、ポストシリコンデバイスやセンサーなどの産業応用を見据えて、より大きなウエハーレベルでの転写を各種二次元材料で目指していく。

 さらに、多くの大学や企業との積極的な産学連携活動を通じて二次元材料の実用化も推進していく。<産業技術総合研究所(産総研)>
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