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■科学技術書・理工学書<ブックレビュー>■「新炭素革命」(竹村真一著/PHP研究所)

2015-11-03 13:07:52 |    化学

 

書名:新炭素革命~地球を救うウルトラ“C”~

著者:竹村真一

発行:PHP研究所

目次:第1章 この世界は「炭素の魔法」で出来ている
    第2章 炭素の惑星—地球の履歴書
    第3章 「石油の世紀」と人類の飛躍
    第4章 想定外の罠
    第5章 地球の未来を拓く「新炭素革命」
    結び 地球価値創造Creating Planetary Valueとしての「新炭素文明」

 地球温暖化問題が、かまびすしく論ぜられている昨今、その元凶として炭素がやり玉に挙げられことが多くなってきた。炭素排出量という言葉が使われない日がないようにも感じられるほどだ。あたかも「炭素=悪玉論」が正しいかのような雰囲気が漂い始めてから、随分と時間が経過したように思う。これからも、このことが続くとなると、ますます「炭素=悪玉論」が人々の脳裏に深く刻み込まれ、「炭素は人類の敵だ」といったような論調が定着しそうである。しかし、そう短兵急に物事を考えずに、我々はもっと冷静になって炭素を見つめ直す時期に来ているのではないか。そんな時、この「新炭素革命~地球を救うウルトラ“C”~」(竹村真一著/PHP研究所)は、我々の炭素についての正しい道案内人としての役割を果たしくれる書籍である。

 「実際に僕らのからだを構成する要素は、タンパク質(アミノ酸)からDNA(遺伝子)、赤血球(ヘモグロビン)まで、ことごとく『炭素』を骨格に構成されている。人間のからだだけじゃない。植物も、光合成で作り出すおコメなどの炭水化物(糖やデンプン)も、そのからだを構成するセルロース(植物の繊維や紙の原料)も、美しい花の色を作り出す色素やハーブの薬効成分も、同じような炭素を基本とした構造でできている」。つまり、「炭素=悪玉論」どころか、炭素が存在しなければ、今の地球環境は出現しなかったことになる。酸素と同じように炭素は、あまりにも我々の身近なところにあるため、我々はその存在を、見過ごしがちだ。本来的に炭素は、4本の電子の手を持っており、さらに電気的に中性でプラスやマイナスの偏りがない。このため、多くの元素をつなぎ合わせることのできる機能を宿しているのだ。「まず何より、炭素は優れた『ネットワーカー』だということ」を認識しなければなるまい。

 「第2章 炭素の惑星—地球の履歴書」と「第3章 『石油の世紀』と人類の飛躍」において、これまで人類が炭素を含んだ石炭と石油で如何に生活を向上させてきたかを説き起こす。例えば、「世界の風景を一変させた近代の『炭素の魔法』」と題した表を見てみよう。1712年イギリスでコークス(炭素の純度を高めた石炭)を使った製鉄法の発達。1828年ウェーラー(独)による初の人工的な有機物(尿素)の合成。1851年グッドイヤー(米)によるゴムの発明(天然ゴムに硫黄を加える)。1859年ドレーク(米)による最初の大規模な油田の掘削。1870年アメリカでプラスチック(セルロイド)の実用化。1908年T型フォードの発売(ガソリン自動車の大量生産化の開始)。1913年“空気をパンに変える”ハーバー・ボッシュ法(窒素固定、化学肥料)。・・・これらのように人類は、炭素を中核とした技術革新により、現在の文明をつくり上げてきたことが、ここからよく読み取れる。それも高々ここ200年の間にである。

 つまり、「炭素=悪玉論」の発生源は、人類があまりにも炭素に頼って技術革新を行って来たこと自体にあるのである。それでは炭素があまりにかわいそう過ぎるというものだ。「第4章 想定外の罠」のおいて、オゾンホール問題や地球温暖化問題の本質が詳細に解説されている。そして同書のハイライトとも言うべき「第5章 地球の未来を拓く『新炭素革命』」の章へと続く。「あらたな『炭素の魔法』は、石油由来のものだけでなく、鉄やガラス、シリコンなど人類文明の核心を支えてきた無機物のマテリアルも、どんどん『炭素ベース』のものへと変えつつある」のである。同書では、「21世紀は『炭素の世紀』―鉄とシリコンの文明を越えて」と題して、鉄の4分の1の重さで、10倍以上強く、硬さも7倍の「炭素繊維」、現在のシリコン・ベースの半導体を使ったものよりはるかに高速かつ低電力のコンピューターをつくり出すことが期待される「カーボン・ナノチューブ」、炭素化合物を利用した「有機EL」など、炭素由来の新技術が紹介される。そして、最後には水素との融合技術、人工光合成技術など、近い将来実現しようとしている新しい技術に到達する。同書を読み終える時には、「炭素=悪玉論」者だった読者は多分、「炭素=善玉論」へと考えが変わっているであろう。(勝 未来)


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