はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

頑張ってほしい

2012-12-10 21:56:17 | はがき随筆
 進出した大型店に押され個人商店が衰退して久しい。我が町の一角に昭和の代から70年余も続く八百屋がある。私が子どもの頃、自転車でリヤカーを引っ張り山積みの野菜を運ぶ家族の姿をよく見かけた。時は流れ、店主は親から子へ。兄弟家族は固い絆で切り盛りする。だが、専門家は「今どきこの店が残っているのが不思議だ」と。生前の母のお気に入りの店。今も季節の新鮮な野菜を届けてくれ、数年前から生花も扱い重宝がられる。近郊まで出掛けられない高齢化の時代。昭和の代から町内の台所を見守り続ける“生き証人”の八百屋である。
  鹿児島市 鵜家育男 2012/12/10 毎日新聞鹿児島版掲載

ベルンの街で

2012-12-10 21:18:33 | はがき随筆


 断崖に立つ美しく謎めいたノイシュバンシュタイン城を見学してから一路スイスへ。首都ベルンは緑が多く静かで落ち着いた古風な街だった。驚いたのはまだ午後5時過ぎなのに、もうどこも閉店している。さらには、街のどの店もシャッターがない。高価なスイス時計、宝石、バッグ、靴、毛皮服などライトアップされて丸見えだ。それともとてつもない強化ガラスなのか、治安がいいのか。私たちはウインドーショッピングを楽しんだ。
 いつまでも暮れない街では店内よりテラスを好む人たちが、賑やかに飲み食いしていた。
  霧島市 秋峯いくよ 2012/12/8 毎日新聞鹿児島版掲載

闘病記その9

2012-12-09 17:09:53 | はがき随筆
 夫の病状は日々快方に向かい、医師から外泊許可も出た。理由は気分転換。夫も喜ぶだろう。娘の車で夫と私は病院を後にした。途中、海岸に立ち寄った。夫は海を眺めた。深呼吸もした。目も養われただろう。お昼を済ませた後、夕方まで競り美を見たりして、ゆっくりとくつろいだ。夕食のテーブルについた。食後の薬を服用し9時半には消灯。翌朝は7時に起床。元気そうな夫の姿。朝のあいさつを交わし朝食を済ませ病院へ。1泊2日の外泊を無事に終え、看護師さんに「ありがとうございました」とお礼を言う。次の外泊が待ち遠しい。
  姶良市 堀美代子 2012/12/7 毎日新聞鹿児島版掲載

黒田三郎展

2012-12-09 17:00:34 | はがき随筆
 かごしま近代文学館で特別企画・黒田三郎展が開かれた。
 学生時代・荒地派の詩人として鮎川信夫、田村隆一、吉本隆明とともに黒田の詩を読んでいた。やさしい言葉の中から、生きる「辛さ」が伝わってきた。
 当時、よく訪ねていたI教授の研究室に、黒田の詩集があった。「先生も黒田の詩を読むんですか」と臆面もなく聞くと、黒田と教授は第七高等学校と東京帝国大学に同期入学だった。
 七高時代には、俳誌・傘下の原稿整理を共にしたり、黒田に天文館での焼酎を教えてもらったそうだ。暗くなる時デイの片隅で彼らは何を語っていたのか。
  鹿児島市 高橋誠 2012/12/6 毎日新聞鹿児島版掲載

「あの時を思い出します」

2012-12-09 16:40:29 | 岩国エッセイサロンより
お義母さんそちらはいかがですか? 
 こちらはいつもより遅くなりましたが桜が咲き始めました。 
 昨年の2月10日にお母さんが逝ってから、毎日通っていた施設に行くことが無くなり淋しくなりました。
 食事が食べられなくなり、一滴の水さえも喉を通らなくなりつらかったですね。
 尊厳死カードを持っていて、延命処置はしないという意思表示をしているお母さんなので、それに従うことにしました。
 最期の10日間は一滴の水も口にしないのに、トイレだけに起き上がりベッド側のポータブルトイレに二人がかりで、かかえながらも自分でしましたね。
 排泄を最期まで自分の意志でされたことに、敬意を感じました。
 点滴もしないので、数日で楽に逝かれると思っていました。
 体がだるかったのでしょうね。「ア~…ア~…」という呼吸とともに出る溜息が忘れられません。迷いました。点滴だけでもしたら楽になれるのではと思いましたが、水分を入れると腹水や肺水が溜まったりして、余計に苦しくなることがあると聞いて止めました。
 「もう頑張らなくて良いのですよ」という以外なすすべもなく毎日見つめていました。
 本当に良かったのでしょうか? 私もお母さんにならってカードを持っています。お返事ください。
 (2012.10.01 日本尊厳死協会「リビング ウィル」掲載)岩国エッセイサロンより転載

新聞は私の木鐸

2012-12-07 21:49:42 | はがき随筆
 セピア色した一枚の新聞切り抜きを大切に保存している。それは昭和63年4月12日付。「昭和恐慌の前夜に良く似ている」。紙面をハッと緊張して読む。人生の大先輩の方が「私は昭和恐慌での銀行倒産で失職を経験している。君も将来の大不況には心しなさい」と言っていた。この記憶がよみがえる。現在の自営業は強い量販店の進出で不安が予想される。ここで熟慮して1年後に人生で一番苦しい選択をして180度転換する。幸いこの選択が大成功して今日の安心がある。新聞は私にとっても、社会にとっても常に大事な木鐸である。忘れない。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2012/11/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

みかえり阿弥陀

2012-12-04 21:40:24 | はがき随筆


 紅葉の時期になると、亡き夫との京都旅行を思い出す。寺院の紅葉は見事で京都ならではの趣があった。その中でも永観堂は特に心に残っている。山門を入ると、思わず息をのむ真っ赤にもえるような紅葉が目に飛び込んでくる。参道を進み、お堂の壇上に「みかえり阿弥陀像」が安置されていた。その慈愛に満ちたお姿、振り返るまなざしに、しばし足を止めて、夫の健康を拝んだ。その美しい立像に感銘を受け、離れがたいように立ち尽くしていた夫のことを思い出す。近年出かけることもなく、庭のイチョウに晩秋を感じながら当時に思いをはせる。
  鹿児島市 竹之内美知子 2012/2/4 毎日新聞鹿児島版掲載

着物の出番

2012-12-04 21:34:57 | はがき随筆
 結婚前、自分の給料で着物を2枚作った。結婚後、着る機会もなく、大事にしまっていた。
 今年は孫娘の七五三で、晴れ着の支度を楽しみにしていたのだが、嫁の里でしてくれるという。ちょっとがっかりしたが、良いことを思いついた。
 2枚の着物を取り出し、手持ちの帯や小物を合わせる。地味な色の重ね襟に、地味な帯を締めたら、派手めの色合いの小紋も落ち着いて、今の私が着てもおかしくなかった。嫁には華やかな訪問着がよく似合った。
 孫の晴れ姿もかわいかったが、30年以上も寝かせていた着物の出番に私は歓喜した。
  出水市 清水昌子 2012/12/2 毎日新聞鹿児島版掲載

一場秋夢

2012-12-04 21:14:52 | はがき随筆


 子ども時代の遊び場は野山。秋は特に好きだった。初秋のクリに始まり、アケビやムベ、山ブドウ。育ち盛りの空腹を満たすには十分だった。木登りが苦手だった。だから、高い枝に絡まって実っているアケビは下から眺めるだけの「おやつ」だった。その分、山ブドウを探した。袋に詰め込んだ「自然の恵みの高級品」を並べる、ちょっとした市場のにぎわいの中、友だち同士での物々交換が始まる。高価なチョコやお菓子、パンには劣るがとてもうまかった。もう、アケビや山ブドウを探し求める子らの姿はない。過ぎ去った昔が夢のように思える。
  鹿児島市 吉松幸夫 2012/12/1

ババ、ハッーして

2012-12-04 21:07:05 | はがき随筆
 家族旅行で宮島に行った。3歳から72歳まで総勢11人。ロープウエー乗り継ぎの弥山ハイキングもこなし元気なことに感謝した。電車の中で孫が「ババ、ハッハッーして」と。入れ歯コマーシャルの「くさい」を思い出し、少し力を抜いてハッ! 「はーちゃんね、イチゴの歯磨きを使っているからイチゴの匂いがするんだよ。ババは!」「……」。純真無垢の目にどんなに映ったのだろう。家庭菜園に夢中になり日焼けした顔を見て「ババ、顔、赤い。熱あるの?」。人間の原点を見た感じ。何事もこんな風に解釈して余生を終わりたいと思った。
  阿久根市 的場豊子 2012/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載

タマネギ植え

2012-12-04 20:58:50 | はがき随筆


 白いシャキシャキの甘いタマネキギを楽しみに、今年もたくさん植えた。種まきから苗づくりをして10月中旬から植えた。畑づくりは元肥とカルシウムを散布して耕運する。その上に小さい穴のあいたマルチをかぶせて植える。小さい苗を人さし指と親指に挟み、白い細い根と玉になる白い部分を優しくマルチの穴に差し入れ、周りの柔らかい土を指で寄せて植える。この時「大きくなれよ」と声(肥)をかけて植える。タマネギは寒い冬の間にしっかり根を張って、3月中旬には立派なつややかな白い大きな玉に育っていく。毎日、優しく声をかけて待とう。
  出水市 畠中大喜 2012/11/29 毎日新聞鹿児島版掲載

私も「世話好きおばさん」に

2012-12-04 06:39:11 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市  会 員   安西 詩代

先日、JR山陽線の2人掛けの座席に座った。最初は混んでいたが徐々にすいてきて、向かいの座席は男子中学生1人になった。

耳にイヤホンの中学生は横になってゲームをしながら、靴のまま片足を座席に上げた。私は「靴を脱いでね。皆が座るところだから」と言ったが、彼は「うるせえ」と唇だけを動かし顔をしかめた。もう片方の足も上げ、ゲームを続けた。

私が「赤ちゃんみたいね」と言うと、彼は手を止めてにらんだ。私は彼を眺めながら、にっこり。彼は両足を座席から下ろした。

電車を降りる時、「おばさんの言うことを聞いてくれてありがとう」と言ってチョコレートを1枚渡した。彼は「えっ、どうして?」と初めて声を発し、パッと輝く笑顔になった。体は大きいけど、まだまだ子ども。かわいいなと思った。

私が子どもの頃は、いたずらをすると近所のおじさんに叱られ、おばさんには「暗くなったから早く家に帰りなさい」と注意された。私も年金を頂く年齢。昔ながらの「世話好きおばさん」になろうと思った。

 (2012.11.27 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「私は鬼コーチ」

2012-12-04 06:38:16 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会員   中村 美奈恵

ガチャ。中1の息子が帰ってきた。「どうだった」。ニヤッと笑い「Aだった!」。 家庭科でリンゴの皮むきテストがあるという。縦半分のリンゴを4分以内に皮をむき、くし形切りにする。本番目指し特訓だ。タイミングよく近所や友人から届いたリンゴが計15個。十分練習できる。だが、「あっ、危ない」「うるさいなあ」と言い合ってばかり。たいして上達せずに本番を迎えた。

「ねぇ、先生ちょっと甘いんじゃないの」。あの手つき、いびつな形。私なら絶対、Cだ。テストは終わったが、家での特訓はまだまだ続く。

(2012.12.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載




かのやオーケストラ定期演奏会

2012-12-04 06:15:19 | アカショウビンのつぶやき
鹿屋市で14年前から活動している、
市民オーケストラ「かのやオーケストラ」
第11回定期演奏会がありました。
私たちの信愛コーラスの指導者、たえ子先生はヴィオラ奏者です。
行ってきました。





曲目は
ベートーベン:「エグモント」序曲
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調
ブラームス:交響曲第1番

この小さな田舎町で、オーケストラの活動を続けていく困難さは、
想像に難くありませんが、
指導されるM先生のお人柄と団員の熱意で、
今年も素晴らしいコンサートになりました。

汗だくだくでタクトを振るM先生の姿に、
熱い拍手を贈りました。
アンコールは、ハンガリー舞曲第5番。
ブラームスに酔いしれて、素晴らしいひとときでした。


来年は第九が計画されました。

前回は2年前、あれだけ必死に覚えたはずなのに、
おおかた忘れてしまいました。
もし許されるならば、
メンバーの最高齢になるだろうけれど参加したいなあ…。

「成長と衰退の現実」

2012-12-01 16:28:47 | 岩国エッセイサロンより
     岩国市  会 員   山本 一

1歳10カ月の孫が、よく見ないと見えないような小さなごみを持ってくる。「えっ! これが見えるの」。どうやら目は確実に追い越されたらしい。まてまて、耳も私よりはるかによく聞こえるようだ、と思いめぐらす。

成長著しい孫。私は衰退の一途だ。次は五体のどこが抜かれるのだろうか。記憶力も既に負けているかもしれない。走るのもボール投げも、負けるのは時間の問題だ。

片言の孫に「20歳になったら一緒に飲もうね。じいちゃんの夢だよ」と言ってみる。こっくりとうなずく。その頃は、全てを追い抜かれた90歳越えか。

  (2012.11.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載