はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

メジロとタヌキ

2012-12-28 14:44:45 | はがき随筆
 12月になると、我が家の庭木にもメジロが飛来する。昨年は一羽も見かけなかったが、その代わりにタヌキがやってきた。
 かわいい顔をしており、寒そうに裏庭にたたずんでいた。追い払っても逃げないので、市に捕獲をお願いしたら、タヌキは人に害を与えないので、警察の管轄だそうだ。警察に電話すると、婦警さんが1人で見えた。応援が来るまで監視を続けて警察官2人で捕獲した。師走の捕り物騒ぎとなったが、珍客は山に放たれ、一件落着となった。
 いま庭のアブチロンの花が咲き誇り準備万端。メジロに到来を待つばかりとなっている。

   鹿児島市 谷山健一郎 2012/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

一切れのカステラ

2012-12-28 14:38:36 | はがき随筆
 老人ホームへ母の面会に行った折り、老夫婦と同席した。車椅子の無表情な妻へ、夫はズボンのポケットから一切れのカステラを取り出して渡した。食べ終わると一言の会話もなく面会は終わった。「家で生活できないが頑張れよ」と渡された甘いカステラ。口にした妻は「ありがとう。あなたも一人で寂しいでしょう」と無口で不器用な夫の精いっぱいの愛情を感じた。目の前の二人の声なき会話を聞き、私は悲しく切なかった。私のことも分からない母に「またね」と言い、ハンドルを握り帰る私は、この世の無常に、目にワイパーがほしくなった。
  出水市 塩田きぬ子 2012/12/27 毎日新聞鹿児島版掲載

里帰り

2012-12-28 14:33:09 | はがき随筆
 秋のある日、思い立って山口の実家に帰る。知人は「また実家に帰るの? 帰るところがあってうらやましい」と言う。
 実家の跡取り娘夫婦は健在である。2人の姉もよってきてにぎやかに談笑する。その昔みんな若かった頃、娘たちのおしゃべりの輪から外れた父はご機嫌斜めだった。今はあの頃の生気と輝きはうせて、来し方や今の暮らしのありさまを語る。大口を開けて笑うなと父に怒られていたが、時に大和賄。夜はおいの嫁が日に当ててくれた布団に入り夢路に。年に1度のリフレッシュ。ほんに私は幸せです。
  鹿児島市 内山陽子 2012/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載