はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆4月度入選

2011-05-26 12:31:16 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品がきまりました。
▽志布志市有明町野井倉、若宮庸成さん(71)の「今年の桜」(15日)
▽霧島市溝辺町崎森、秋峯いくよさん(70)の「春の別れ」(25日)
▽鹿児島市城山、竹之内美知子さん(77)の「最期の息」(24日)

──の3点です。

 甲突川の桜の開花に一喜一憂したり、和気公園の藤を堪能し、帰れば旬の蕗と筍を味わう。東日本の大災害の報道を身たびに、このようなあたり前の日常の生活ができる幸福をしみじみと感じます。この大災害に遭遇して、私達の意識の持ち様が変わるような気がします。
 若宮庸成さんの「今年の桜」は、観桜旅行を楽しみにしていたが、「自粛」し、戻された予約金を義捐金に回し、庭の桜で満足したという内容です。このお気持ちはおそらく多くの人の気持ちを代弁していると思います。自粛すべきかどうかが議論されていますが、それは議論すべき問題ではなく、心の問題でしょう。その逡巡がよく現れた文章です。
 秋峯いくよさんの「春の別れ」は、ご母堂への追悼の文章です。夫の戦死後、女手一つで子どもを育て上げ、100歳を越えてもなおはっきりした意識で、介護の人などに感謝しながら息を引き取るという、まさしく大往生の様子が描かれています。死は悲しみですが、このような死は幸せでもあります。大災害を意識するとつい比較したくなってしまいます。
 竹之内美知子さんの「最期の息」も、正常の、幸福な死の描写が(適当な表現ではありませんが)内容です。ご主人がお孫さんたちに手をとられて亡くなられた時の様子が、劇的に描かれています。やはりこころよい追悼の文章です。
 入選作の他に2編を紹介します。
 霧島市国分中央、口町円子さん(71)の「気になる」(9日)は、テレビ小説「てっぱん」の登場人物の出産のエピソードに、自分の子どもの時のあだ名のマルチャンとを結びつけ、円(まどか)と名づけられるまで気になったという、軽快な文章です。
 鹿児島市慈眼寺町馬渡浩子さん(63)の「踊りのけいこ」(1日)は、子どもの時習った踊りの「香に迷う」を、なんとなく「カニマヨ」とツナマヨみたいに思っていたということから、発表会の失敗談、それをからかった友達の家の塀に「おしっこ」をかけて帰ったという、連想が奔放で生き生きした文章です。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

玉葱

2011-05-26 12:09:55 | はがき随筆
 

家庭菜園を始めて10年が過ぎた。玉葱は、さまざまな調理ができる上、栽培しやすく保存も出来るので、毎年一束100本の苗を買い、栽培する。
 収穫した玉葱を軒下につるす時、最も大きな物を記録している。3年前の800㌘が今までで最大だったが、今年は記録更新。周りは45㌢、重さ1㌔ある。全体的に大物が収穫できた。
 先日、1個の大きな玉葱を、サラダ2回、てんぷら、カレーライス、野菜炒めと2人暮らしに5食分の料理に使った。
 有機栽培に徹し試行錯誤で玉葱を作る。加齢で外出が少なくなったが、楽しさが心にわく。
出水市 年神貞子 2011/5/25 毎日新聞鹿児島版掲載 画像はフォトライブラリより

ナスとピーマン

2011-05-24 13:46:01 | はがき随筆
 食を豊かにしてくれるナスとピーマン。妻が喜ぶので、今年は、昨年とは30㍍離れた畑にそれぞれ6本を2列に植えた。
 ある会で「ナスとピーマンは近くに植えると相性が悪い」という人がいて話題になった。連作は避けたが、2列に植えた私は気になってしかたがない。
 農業大学の人に聞くと「相性が悪いという文献は見つかりません」とのことで一安心。
 それにしても、作物の相性の話ができる故郷は、まだ平和だな、と改めて考えた。
 被災地の福島周辺の畑にも早く、ナスとピーマンが植えられ実る日が来てほしい、と思う。
  出水市 小村忍 2011/5/24 毎日新聞鹿児島版掲載

積み重ね

2011-05-23 21:19:58 | ペン&ぺん
 ナイトゲーム用の照明がグラウンドを照らし出す。人工芝は濃い緑。白く光るボール。それを追う選手たちの声が響く。「外、外」「左、左」とパスコースを叫ぶ。
 木曜日の夜8時すぎ。鹿児島市鴨池新町の緑地公園。練習する社会人サッカーチーム、FCカゴシマを訪ねた。
 発足2年目。現在は九州リーグ(所属10チーム)で上位に食い込んでいる。目指すはJFLを経て、Jリーグ入り。その目標に向け、選手たちは汗を流し続ける。
   ◇
 「プロスポーツで地域を幸せにしよう」。そう題し、小原爽子・鹿屋体育大広報戦略アドバイザーが鹿児島地域経済研究所発行「地域経済情報」5月号に寄稿している。
 その中で、サガン鳥栖やロアッソ熊本などJ2チームのホームタウンと鹿児島市を比較。人口規模、事業所数、母体企業などを表にまとめ「鹿児島市のポテンシャル(潜在能力)は他に比べて大きく見劣りするものではない」と指摘している。将来的には、鹿児島市をホームとするJリーグのチームが誕生しても不思議ではない。
 寄稿文に印象的な部分がある。山梨県甲府市で聞いたタクシードライバーの言葉だ。以下抜粋。
 「サッカーには興味がないから、観戦に行ったことはない。でも、この街からヴァンフォーレ甲府がなくなるなんて考えられない。ヴァンフォーレが初めてJ1に上がった時には、本当に街中が盛り上がったし、喜んだ」
 寄稿文は、こう記す。
「プロスポーツクラブは活用次第で地域にさまざまな効果をもたらす『地域の財産』となりうる」
   ◇
 練習は続く。夜の空気が少しずつ冷えていく。「アップ、アップ!」。選手が息荒く叫ぶ。
 この練習の積み重ねの向こうに、チームが「地域の財産」になる道が続いている。そう選手やサポーターは信じている。
  鹿児島支局長  馬原浩 2011/5/23 毎日新聞掲載

史跡巡り人の絆知る

2011-05-23 21:16:07 | 岩国エッセイサロンより
2011年5月15日 (日)
 岩国市   会 員   片山 清勝

 岩国検定実行委員会の課外学習で、仲間と市内北西部の史跡など数カ所を巡った。

 見学予定の一つに中山間地にある民族資料館があった。そこに大きな期待はなかった。足を踏み入れてすぐ先入観を恥じた。

 その地に根付いていた生活や文化の品々、それらが生き生きと語りかけてくれるようで、仲間との会話を弾ませた。

 展示の中に、近くで発見されたアンモナイトの化石があった。この中山間地が大昔は海底だったということになる。

 文献などで、海底が隆起し山となったことは知っている。今、そうした一つの場所に立っている。驚きだ。目には見えない大きな歴史の流れに出合ったようだ。

 海底の隆起といえば東日本大地震へつながる。それは、大自然の猛威の前に人の力の微々たるものを教えた。

 しかし、いま被災された人々は、それを乗り越えようと行動をはじめた。それを世界中の人が支えようと行動している。

 史蹟めぐりはロマンだけではない、人と人の強い絆も教えてくれる。次からはもうひとつ視点を変えて参加したい。

  (2011.05.15 中国新聞「広場」掲載 岩國エッセイサロンより転載

「無縁社会」から「絆社会」へ

2011-05-23 21:08:46 | 世の中、ちょっとやぶにらみ
2011年05月19日 |


    「困難さに打ち勝つ」「ひたむきさ」
(震災当時は満開だった「さざんか」。花言葉を添えて)


 東日本大震災から2ヶ月が過ぎた。被災者がこの間どんな思いで過ごされたのか、考えるだけで言葉を失い、胸が痛くなる。
 一方、今も厳しい避難生活を余儀なくされている方々の周辺で、集団生活の在り方のお手本が示されていることに、勇気を頂く思いがする。
 お互いに肩を寄せ合い、助けあい、喜びも悲しみも食糧も労働も、すべてを分かち合い、笑顔を作り出す努力をされている姿がある。そこには必ず、世話役や自治会長のような頼もしいリーダーがおられる。
 このような切迫した状況の中で「隣人を思い遣る」気持ちを前面に出し、他人同士を絆で結び、まとめ上げ、大きな家族を作り上げる努力に対し、心からのエールを贈りたいと思う。 
 向こう三軒両隣、お互い助け合った良き時代の町内会を思い出す。
「震災後の生活の見直し」を掲げる中に、隣近所の付き合いの大切さ、自治会や福祉協議会など地域社会に、積極的に溶け込んでいく意識改革も盛り込みたい。
 人間一人では生きていけない。
「無縁社会」などとは無縁な、お互いが寄り添う「絆社会」を今一度築き上げていけたらいいなと思う。山口県岩国市 吉岡賢一
(2011.5.19 朝日新聞「声」掲載)世の中ちょっとやぶにらみブログより転載


老医の思い

2011-05-23 20:24:53 | はがき随筆
 医師になって61年目。私が住む町で大正生まれの医師は私1人で、1番年上になってしまった。今85歳。勤務医なら定年になって20年になる。
 よくここまで続いたと自分でも思うが、いろいろ周囲に恵まれた結果だと考えている。妻も逝き、ひとりになった今、もうどうでもいいと思ったりするが、やめてしまうと、ぼけるのが落ちである。
 気力と体力の許す限り頑張って見たいと考えている。生きるということは、人の役に立つよう頑張ることなのだから。いつまで続くかわからないが、やってみる価値はあると思う。
  志布志市 小村豊一郎 2011/5/23 毎日新聞鹿児島版掲載
 

男ありけり

2011-05-23 20:08:43 | 女の気持ち/男の気持ち
 深夜、テレビでやっていた追悼・木村栄文の世界「むかし男ありけり」を見る。3月22日に亡くなったRKB毎日放送の木村栄文氏がディレクターを務めたドキュメンタリー番組である。
 晩年の一時期をポルトガル・サンタクルスで過ごした最後の「無頼派」檀一雄。俳優、高倉健がサンタクルスを訪ね、壇の足跡をたどる。
 私には、父と同世代の檀一雄という作家に、異常なくらい強い思い入れがある。壇の誕生日がたまたま私と同じこともあるが、なにより、壇文学を深く読めば読むほど、壇の「孤独」が私の心をとらえて放さないのだ。
 私は、できる限りの壇の情報を集めた。生前の壇を知る、文化人にも会いに行った。結果、私が知るに至ったのは、壇が極めて礼儀正しい「常識人」であったことである。
 「火宅の人」を読む限り、壇は「破滅型文士」の代表選手としか思えない。しかし実際の壇はどうやら「火宅の人」の桂一雄とは正反対の、誠実な「常識人」であったようなのだ。
 未明、感動を残して番組は終わった。
 やはり檀一雄はいい。「天然の旅情」に誘われるまま、世界各地を旅した壇に、男として嫉妬すら感じる。そしてそんな壇を、ここまで叙情的に表現してくれた、木村栄文氏に感謝したい。
 「花逢忌」も近い。また壇に逢える。
  福岡県 嘉朝市 道根 馨 2011/5/17 毎日新聞 の気持ち欄掲載

長島めぐり

2011-05-23 19:55:41 | はがき随筆

 薫風の5月13日、牛ノ浜老人クラブのバスツアーに参加。総勢35人の熟年たち、有名な黒之瀬戸大橋をまたぎ「夢追い長島花フェスタ」へ。道路脇のツワブキ、キンギョソウなど花、花、華の出迎えだ。昼食は針尾公園の高台で絶景を眺めながら。戸外で食べるのは「ウメー」。野良猫ちゃんも顔を出す。
 バスはメーン会場へ。ボランティアら、花の手入れ、手際よし。バスは最上段の風力発電の足もとまで進む。東シナ海を一望。帰路は西海岸の風景を眺め大橋たもとの店で長島とりたての魚や野菜を、お土産に。心身ともに癒された旅でした。
  阿久根市 松永修行 2011/5/22 毎日新聞鹿児島版掲載

甘えているのかも

2011-05-23 19:42:57 | 女の気持ち/男の気持ち
 「お母さん、あなたの娘よ。今そばに居るよ」
 目を閉じた母の頬に自分の頬を寄せ、耳元で何度も呼びかける。
まぶたがかすかに動き、薄く目を開け、口元が少し動く。
 あっ、意識が動いてる。
 「分かる? 私よ、宣子よ」 
 そう呼びかけると「ワ・カ・ル・ヨ」と。
 まだ植物人間ではない。そう思うとうれしさがこみ上げてくる。
 病室にいて、やせ細って小さくなった母に私がしてあげられることは、温かいタオルで顔をふき、体をさすってあげることくらい。頭や顔をゆっくりなでていると、母がまるで子どものように思えてくる。 
 が次の瞬間、本当は自分が母に甘えているのだと気づく。
 戦後の引き揚げだった我が家で、母は4人の子どもを育てるためにどれだけ心を砕き、働いたことだろう。当然のことながら、子どもをゆっくり抱き、十分に甘えさせる時間などなかった。
 当時3歳だった私は今、その時間を取り戻すかのように母に身を寄せ、体をさすり、頬をつけているのではないだろうか。そう思ったら、急に涙があふれて止まらなくなった。
 私は介護に来てるんじゃなくて、甘えにきてるんだね。お母さん。
 甘えさせてくれてありがとう。
  山口県下関市 千葉宣子 2011/5/20 毎日新聞の気持ち欄掲載

息子

2011-05-23 19:36:59 | はがき随筆
 この春、息子に良いことがあった。10歳年下の可愛らしいお嫁さんを迎えたのだ。
 幼いころの彼は、おしゃぶり大好き。眠る時は祖母の耳をつかんで眠る子だった。街灯の柱から落ちたのは4歳だっただろうか。車のサイドミラーを折ってしまったのも、このころ。墓下の竹林から竹の子を持って帰り、得意満面だったこと。林の木の皮をはぎ、基地を作って校長室で説教されたこと。
 わんぱく坊主の気配すら見せず、羽織袴の彼はこの日、堂々としていた。しっかりもののお嫁さんと支え合い、幸せな家庭を築くことを願うばかりである。
  肝付町 永瀬悦子 2011/5/20 毎日新聞鹿児島版掲載

グロリオサ

2011-05-23 19:25:47 | はがき随筆
 去年の秋、友人にグロリオサの根を頂き、花壇の真ん中に埋めた。4月になると、こぼれ種から生えたカモミールがあちこちに咲き、グロリオサを植えた近くには、グラジオラスが日々伸び続け、アマリリスは緑濃い葉の脇から蕾覗かせ、すっかり春は整った。なのにグロリオサは芽も出ない。もしかしたら根腐れ? 気になり、私は移植ごてで土をかき出した。根は健在で白い突起が「なあな?」と言いたげな表情。土の中で芽出しを準備していた。そう言えば気温が25度に上がるころ発芽すると友人が教えてくれた。もうしばらく松ことにしよう。
  鹿屋市 角倉キヨ子 2011/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

おにぎり一つ

2011-05-23 19:21:08 | はがき随筆
 日差しのキラキラする日曜。書店を出て町を歩いていると少し小腹が減ってきた。別にラーメンを食べるほどでもないのでコンビニに入って、おにぎりを二つ買った。電車通りのバス停まで行き、さて食べようかなと思ったが、周りが気になって口まで持っていけない。
これが2人が3人だったらたべられるんだかなぁともじもじしていたら、東日本大震災を思い出した。
 被災者には、おにぎり一つももらえない人もいる。そう気が付いた私は、おにぎりにかぶりつきながら、街角で義援金を募る高校生の方へと歩いていた。
  鹿児島市 高野幸祐 2011/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載

アディオス

2011-05-23 19:14:43 | はがき随筆
 満開の桜が雨に散る日。小倉から、ひたすら南下してきたのは2年前のこと。
 桜島の手荒い噴火の歓迎に、ただ驚くばかり。休日には2人で、さるき周りました。大好きなえびの高原へ、ようやく行けるようになったと喜んだのも束の間、転勤の辞令です。
 つたない文に月間賞をいただき面はゆい反面、小さな欲が芽を出して。目指すは〝月一度の投稿〟と思ったことは続けたいと思います。
 決して楽な事ばかりではなかったけど。やっぱり、ありがとう、鹿児島。
 そして、アデイオス。
 鹿児島市 浜地恵美子 2011/5/17毎日新聞鹿児島版掲載

いろはにほへと

2011-05-17 08:37:19 | ペン&ぺん
 花言葉は「不可能」。または「あり得ない」。かつては、そう決まっていた──。
 そんな説明文を見つけた。連休中に訪れた「かのやばら園」を散策していた時のこと。
 園内のバラは6分咲き程度か。トゲのある茎が風にあおられて揺れる。赤いバラや白いバラ、黄色のバラが首を左右に首を振る。「不可能さ」「あり得ないよ」と。
  ◇
 ──青いバラって、この世に無かったんだね。でも、無い花なのに花言葉だけはあったんだ。
 ──初めに言葉ありきだよね。 
──聖書の世界?
──だね。でも黒いバラだって見たことないよ。
──黒バラは誰も欲しがらんやろ。
──じゃあ、なぜ、青いバラだけ欲しがったわけ?
──青は海の色。命が生まれた場所。青を求めるように人のDNAに書いてあるとか。
──色は匂うっていうから、青の匂いにひかれるとか。
──色が匂う?
──色は匂えど散りぬるをっていうだろ。
──いろはにほへとでしょ。色あでやかに花は咲くけれど、やがては散ってしまうんだって意味かなあ。その続きを知っている?
──我が世、誰そ常ならむ、だよね、確か。
──誰も、この世にはずっと存在できない。
──みんな無くなっちゃう感じ? 無常観?
──イロハは奥深いんだね。でも、花は散るからこそ季節が巡って、また咲くんだよね。
──そうだね。きっと再び咲く準備として、花は散るんだね。
   ◇
 バラ園の説明文はこう続く。この世に無かった青いバラ。開発されたあと花言葉も変わった。青いバラの今の花言葉。
いわく「奇跡」。または「神の祝福」。
鹿児島支局長 馬原 浩 2011/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載