はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

いろはにほへと

2011-05-17 08:37:19 | ペン&ぺん
 花言葉は「不可能」。または「あり得ない」。かつては、そう決まっていた──。
 そんな説明文を見つけた。連休中に訪れた「かのやばら園」を散策していた時のこと。
 園内のバラは6分咲き程度か。トゲのある茎が風にあおられて揺れる。赤いバラや白いバラ、黄色のバラが首を左右に首を振る。「不可能さ」「あり得ないよ」と。
  ◇
 ──青いバラって、この世に無かったんだね。でも、無い花なのに花言葉だけはあったんだ。
 ──初めに言葉ありきだよね。 
──聖書の世界?
──だね。でも黒いバラだって見たことないよ。
──黒バラは誰も欲しがらんやろ。
──じゃあ、なぜ、青いバラだけ欲しがったわけ?
──青は海の色。命が生まれた場所。青を求めるように人のDNAに書いてあるとか。
──色は匂うっていうから、青の匂いにひかれるとか。
──色が匂う?
──色は匂えど散りぬるをっていうだろ。
──いろはにほへとでしょ。色あでやかに花は咲くけれど、やがては散ってしまうんだって意味かなあ。その続きを知っている?
──我が世、誰そ常ならむ、だよね、確か。
──誰も、この世にはずっと存在できない。
──みんな無くなっちゃう感じ? 無常観?
──イロハは奥深いんだね。でも、花は散るからこそ季節が巡って、また咲くんだよね。
──そうだね。きっと再び咲く準備として、花は散るんだね。
   ◇
 バラ園の説明文はこう続く。この世に無かった青いバラ。開発されたあと花言葉も変わった。青いバラの今の花言葉。
いわく「奇跡」。または「神の祝福」。
鹿児島支局長 馬原 浩 2011/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載