はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「プラスαの温かみ」

2011-05-09 10:43:56 | 岩国エッセイサロンより
2011年5月 9日 (月)
岩国市  会 員   林 治子

 川を渡ってくる風は冷たい。錦川沿いの遊歩道には通ってきた土手の街路灯は届かない。いつもは気がつかない山の上の家々の明かりが点々と。あたりはまだ真っ暗。夜明け前と言っても東の空は白みかけてもいない。頼りは懐中電灯の明かりだけ。

 遠くからぼーっと光が見えてきた。あっ、人だ。声をかける。「おはようございます」。「おはよう。今日は寒いね」。いつもはオウム返しに同じ言葉が返ってくるのに、違った。その瞬間、顔は見えないけれど温かいものが伝わってきた。ちょっと言葉を足すだけでこんな気持ちになる。

 (2011.05.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩國エッセイサロンより転載

バンコ

2011-05-09 10:31:33 | はがき随筆
 量販店から帰ってきた妻が浮かぬ顔をしながらつぶやいた。
 「バンコください」に店員さんが「何それ」という顔。ジェスチャーを交えながら「夏の夕涼みなどに使う板がこうなって……」の説明で「ああベンチですね」と依頼品を取り出した。
 「日本語が通じなくなったのかしら」と憤まんやる方なし。「それって日本語では縁台でバンコは鹿児島弁では」と言うと違うと言い張る。調べると英語のbenchはスペイン語でbanco(バンコ)。宣教師ザビエルらが薩摩などの地に残した言葉らしい。我が家では、バンコを絶滅危惧鹿児島弁と名づけた。
  鹿児島市 高橋誠 2011/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載